第649話 襲われている人間を発見
街行く人達に声をかけられながら、西門へと向かう。
声をかけてくれる人は皆、魔物の脅威が取り除かれて喜んでくれているみたいだけど、俺に駆け寄って来るという事はほとんどない。
小さな女の子から舌ったらずな感じで、駆け寄って来てお礼を言われたのは和んだけど。
こちらから撫でてあげたら、すごく喜ばれた……主に母親にだけどね、女の子も喜んでいたみたいだからいいかな。
でも……さすがに俺が撫でたからって、将来が約束されたりする事はないからね?
俺が目を覚ました時より、声をかけてくる人が多い気がするけど、それも数日経って皆の生活が落ち着いたからだろうと思う。
あと、噂というか、俺に関する事が広まったのもあるかもね。
「ようやく、人も少なくなったかな?」
「落ち着いて寝られないのだわー」
「満腹になったからって、すぐに寝てると太るよエルサ?」
「失礼なのだわ。私が太る事はないのだわー……多分」
「太ったら、今のように頭にくっ付くのもできなくなるかも?」
「……むぅ、だわ」
パレードの時を思い出すような、声をかけてくる人達に手を振ったりしながら街の西門近くまで来た。
外壁の近くまで来ると、さすがに人が少なくなっているので、俺に声をかける人はほぼいなくなった。
ようやく静かになり、愚痴をこぼすようにエルサが呟くけど、食べる事と寝る事には関心が強いドラゴンだねほんと。
女の子のエルサに、太るというのは失礼かもしれないけど、食っちゃ寝ばかりしていたら太るのは当然の事。
まぁ、エルサは空を飛んでくれたりもしているから、運動が足りないという事はないと思うけど……。
というか、ドラゴンって太ったりするのかね?
そんな風に、不満げなエルサと適当な会話をしながら、西門を出る。
衛兵さんには、数人が整列して敬礼で見送られたけど……偉い役職でもないし、軍に所属しているわけでもないから、とりあえず苦笑しながら手を振っておいた。
「よーし、それじゃ行こうかエルサ」
「了解なのだわー」
街から離れ、人から見られそうにない場所で大きくなってもらい、空へ浮かんでもらう。
次は王城に戻って、姉さんに軽く報告だね。
女王様だから忙しいかもしれないし、その時はヒルダさんにでも伝言を頼んでおこう。
「このぐらいの速度なら、丁度いいのかな?」
「いつもより速めだけど、いいのだわ?」
「空を飛ぶのも慣れたからね。もう少し高度を落としてくれると、地上の様子もみやすいかな?」
「やってみるのだわー」
「あ、もちろんだけど、人がいたりした場合は迷惑をかけないように!」
「注文が細かいけど、やってみるのだわ」
エルサの背中で、モフモフを堪能しながらの空の旅。
全力ではないけど、いつもモニカさん達も乗せて飛ぶよりは速度を上げてもらっている。
けど、慣れて余裕も出て来たから、周囲の景色を楽しめるようになっていた。
夜中だったけど、全力のエルサに乗った事も影響しているのかもしれない。
ともかく、少しだけ高度を落としてもらって、地上も良く見えるようにしてもらい、優雅な空の旅を楽しむ。
王城に戻るまでの短い間とはいえ、楽しめるのなら楽しみたいからね。
一応、人が絶対いないとは言えないので、もしいた場合には迷惑をかけないように注意をしつつ、流れる景色を眺めて過ごした。
「ん? なんだろうあれ?」
「何かいるのだわ。気にせず行くのだわ?」
「うーん、ちょっと気になるから……高度は少し上げて欲しいけど、速度はゆっくりにして、様子を見てくれる?」
「わかったのだわー。リクはすぐ何かに首を突っ込むのだわー」
「そうは言っても、もし何かあるんだったら、助けてあげたいでしょ?」
「よくわからないのだわー。でも、キューをくれる人間なら、わからなくもないかもだわ」
「……もし助けたら、キューをくれるかもれないぞ?」
「全力で助けるのだわ!」
「いやいや、まだ困っているかどうかもわからないから……」
優雅な空の旅をモフモフと一緒に楽しんでいると、遠くの方に動く何かを発見。
動いているという事は、生き物のようだけど……徐々に近付いているとはいえ、何かはまだわからない、人間っぽくはあるけど……。
ともあれ、なんとなく気になったので、エルサに言って速度を落としてもらい、ゆっくりそちらへ近づくようにしてもらう、ついでに高度も上げて向こうから見られる可能性も減らしておく。
絶対見られないわけじゃないだろうけど、高い位置にいた方が視認性は下がるだろうから。
なんとなくという、不確定な感覚で様子を見る事になったけど……そんなに色んな事に首を突っ込んでいるように見えるのかな?
大体は冒険者の依頼だったり、魔物が勝手に集団で……という事が多かったと思うんだけど。
あ、エルフの集落に関しては、自分から向かったっけ。
キューの事になると、目の色を変えてしまうエルサに苦笑しながら、おやつ用に持っているキューを確認しながら、注意深く様子を窺う。
「んー、逃げているみたいだね」
「逃げているのだわ」
「後ろを追っているの、あれオーガかな?」
「鉱山にいたのより大きいのだわ。けど、多分オーガなのだわ」
「人間の方は、馬に乗って逃げているけど……」
「馬がもう疲れているのだわ。多分、逃げられないのだわ」
「逃げているという事は、戦えないのかな。だったら、危ないか」
「行くのだわ?」
「見ちゃったからね。全部の人間を助けられるなんて思っていないけど、目の届く範囲では助けたいと思うよ」
「わかったのだわ。それじゃ、近くに降りるのだわ?」
「んー、ちょっとやってみたい事があるから、降りずに並走するようにしてくれる方がいいかな。あ、高度は落としてくれ」
「わかったのだわ」
エルサと話し、発見した何かに向けてさらに近付いて行く。
発見した何か、それはオーガと思われる魔物から逃げる人間だった。
女性と思われる人間が、馬に乗って王都の方角へ必死に逃げている。
オーガはエクスブロジオンオーガとはまた別で、二メートル以上ある大柄な体で追いかけているが……馬に追いつける速度ではない。
けど、エルサの見立てでは既に馬が疲れているため、いずれ追いつかれてしまうだろうとの事だ。
どこからオーガに見つかって、逃げ始めたのかはわからないけど、持久力はオーガの方が上か……。
見つかるまでも馬に乗って走っていたんだろうし、疲れて走れなくなるのも無理はない、と。
戦えるのなら、初めからオーガと戦っているだろうし、逃げたりもしなさそうだから、助けた方が良さそうだと判断。
オーガの方は二体いるから、女性一人では戦えなくても当然か。
全ての人間を助けられるなんて、思いあがっているつもりはないけど、手の届く範囲では助けられるなら助けてあげたいと思う。
俺の知らないところでだったら、仕方ないと思うけど……見てしまったからには、放っておくのは寝覚めが悪そうだしね。
ちょっと面白そうな事も考え付いたし、エルサに言って高度を下げて近くを飛んでもらうようにして、剣を抜きながら備えた――。
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