第648話 魔力の道



「目には見えませんが、細い魔力の道ができていたのです。魔法具で、魔力を察知する物がございます。数メートルが精々ではあるのですが、魔物が近寄ってきていないかを警戒するために持っていた物のようです。それを使う事で、細く今にも消えそうな魔力を発見。詳しく調べたところ、それが森付近へと通じており、この街を迂回して北側……ブハギムノングの方へ伸びていたのです」

「魔力を察知する魔法具……」


 俺の探査魔法に近い効果の物だろうか? 探査魔法だと、数百メートルは調べられるけど……魔法具だとそれくらいなのかもしれない。

 魔物にも魔力はあるから、それを察知する事で離れた場所にいても近付いて来る魔物に気付けるというのは、警戒する人にとって重要なんだろう。

 とはいえ、数メートルという事は目に見える範囲くらいなんだろうけど。

 まぁ、魔物が身を潜めている可能性もあるだろうから、近付いて調べなくてもわかるというのは、やっぱり便利だね。


「魔力自体はほぼ薄れていて、他の魔力に紛れて見逃しそうに成る程であり、途中途切れている部分もあるそうです。ですが、その道を辿ると森からルジナウムを迂回し、北のブハギムノングに伸びていた。これはもしやと思いまして、ギルドマスターに調べてもらっているのです」

「それはもしかすると、俺が以前も話した、イオスに関する事に繋がるからかもしれません」

「はい、私達もそう考えました……魔力は薄く細くだったので、大量に使っているとは言えませんが……我々の知らない使い方をし、知らないうちに繋げている……何か情報が得られるかもしれません」

「そうですね……」


 イオスは俺が鉱山で話した時、ルジナウム付近に集結している魔物達へ、魔力を通じさせていると言っていた。

 結局、結界を張っていたためにイオスが無事でも魔力が途切れてしまっていたんだけど……それはともかく。

 その発見された魔力の道というのが、イオスと繋がっていた可能性が高いね。

 あれから結構時間が経っているから、ほとんど薄れてしまっているみたいだけど、流れず停滞していた魔力はなんとか発見できたようだ。


 本当にその魔力の道がイオスと繋がっていたのなら、鉱山で捕まえる時に言っていた事は正しかったんだろう。

 俺がルジナウムに到着するまでに、魔物達がまだ街を襲えていなかったのは、魔力の流れが途切れるまでの時間さがあったからなのかも……?

 詳しくはわからないけど、調べる価値はあると思う。


「魔力の道が広範囲なので、すぐに全てを明らかにする事はできないでしょうが……こちらも続報を待つ段階ですな」

「モニカさん達が協力しているのなら、俺もそこから聞けるでしょう」

「はい。おっと、忘れてはなりませんな。リク様、こちらを。ちょうど今朝、用意が整いましたので。本日冒険者ギルドの方に預ける予定だったので、リク様が来て頂けて良かった。やはりこういったものは、直接渡したいですからな」

「えっと……これは?」


 ルジナウムの調査は、ノイッシュさんやモニカさん達に任せるとし、話を終えたところで何かを思い出したフランクさん。

 座っている机の引き出しから、人の顔以上の大きさに膨れた重そうな革袋を取り出して、俺の前に置く。

 置いた時、金属がこすれる音がしたから……お金かな?


「ルジナウムの街を救って頂いた、報奨金になります。もちろん、リク様は直接、そして一番の貢献をなされたので、他の者より多くしてありますよ」

「あー……はぁ、そうですか……」

「私の私情も、混ぜてありますからね?」

「いや、それは逆に困るんですけど……」


 以前言っていた報奨金かぁ。

 用意するのに時間がかかるって言っていたけど、目の前に置かれた革袋の中に金貨が詰まっていると考えると、無理もないと思う。

 受け取らないのも失礼だろうから、もらえるのはいいんだけど……私情も混ぜたって、前に言っていたのは冗談じゃなかったのか……。

 こういう事に私情を持ち込むのって、貴族ならず人の上に立つ人として駄目なんじゃ……?


「安心して下さい。もちろん、咎められるような物ではございません。リク様には、コルネリウスの事で迷惑もかけておりますからな。私の小遣いからですよ」

「はぁ……小遣い……なら、いいのかな?」

「……家に戻った時、妻からは怒られるでしょうけど。まぁ、リク様にと言えば納得してもらえるでしょう。妻も王都でのリク様の活躍や、噂を聞いて心躍らせている者の一人ですからな。はっはっは!」

「えーと……はい、ありがとうございます」


 それなら最初から私情と言わなければいいのでは? と思ったけど、フランクさんなりの茶目っ気なのかもしれない。

 というか、貴族でも関係なく小遣いせいなのか……世知辛い。

 問題のない物ならと、報奨金(と小遣い)を受け取る事にして、少しだけ笑いに乾いたものが混じっている様子のフランクさんにお礼を言った。

 ……ある意味、こういう事が言えるのは夫婦仲がいい証拠なのかもしれない……と思っておこう。

 どうか、フランクさんが奥さんに怒られたりしませんように……。



「あら、もしかしてリク様じゃありませんか!? 街を救って下さった英雄様がお越しになられるなんて、どうすれば……あ、店にある全ての物をお食べ頂いても構いませんから! もちろん、お代は結構ですので!」

「あはははははは……お構いなく……じゃないや、そんなに食べ切れませんから。あと、ちゃんとお代は払いますよ。そうしないとお店が大変ですから」

「……いっぱい食べるのだわ?」

「少しは遠慮しようよエルサ……というか、さすがに大きくなって食べるのは、駄目だからね?」

「大きければ、キューもいっぱい食べれるのにだわ……」


 フランクさんとの話を終えて、冒険者ギルドにお金を預けて丁度いい時間だからと、適当なお店に入って昼食。

 お店に入った途端、年配の看板娘さんが慌てていたけど……もう慣れたもので、乾いた笑いを浮かべながら大量に食べ物を用意しようとするのを止める。

 こういう時、無料で頂けるなら人によってはラッキーと思うのかもしれないけど、お金に困っていないどころか、また増えちゃったから……少しでもお店に貢献するために、ちゃんと払っておかないとね。

 お店の方から許可が出ているからと言って、さすがに無銭飲食はしたくない。

 ……許可された無銭飲食って、ちょっと意味がわからない。


 フランクさんと話していた時は、寝ていたエルサも食事とあって目を覚ましており、体を大きくするのも辞さない勢いで、お店の物を食べ尽くそうとする意気込みが見えたので、注意して諦めてもらっておく。

 お金を払っても、エルサが食べ尽くしたらお店の営業が止まってしまう。

 食べに来る人は俺達だけじゃないんだから……お店としては、売れた方がいいのかもしれないけども。



「リク様、ありがとうございます!」

「リク様のおかげで、こうして何事もなく過ごす事ができています!」

「いや~、あはははは……」

「リクしゃま、ありがとござます~」

「うんうん、元気に過ごすんだよー」

「リクしゃまに撫でられたー」

「良かったわね。ありがとうございます、リク様。これで娘も、将来安泰です」

「さすがに、撫でただけでそんな効果はないと思いますけど……」

「……騒がしいのだわぁ」


 お昼を食べてお店を出て、街を出ようと歩いているとそこかしこから声をかけられる。

 王都やヘルサルでも似たような事はあったけど……どちらかと言えばヘルサルに近いかな?



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