第645話 新たな決意
「大丈夫ですよ、アルネは信用できます。それにエルフですからね、あまり外に出ない種族なので……イオス側との接触はないでしょうし、人間が紛れ込む事もできません」
「エルフ!? そうか……確か国の南東の端にいるんだったか。閉鎖的と聞いているから、関与している可能性は低そうだな。確かにエルフなら、人間が紛れ込んで何かを企てたり、先導したりも難しそうだ」
そのエルフ自体がイオス達に協力していたら、紛れ込むとかいう以前の問題だけど、そんな事はないと思っている。
だってイオス達と関わっているなら、魔物を集めたりできるんだろうから、自分達の集落が襲われないよう別の場所へ集めるだろうし、エヴァルトさんや集落の人が必死で戦っていたのは見ていたからね。
一部、長老と言われていたエルフは……別だけど。
「とりあえず、ここはこんなところだな。後日ガッケルが兵士を連れて詳しく調べてくれるだろう」
「そうですね。部屋は調べましたし、広場は……この人数で調べるのも一苦労ですから。それに、一番の目的は鉱山に残っているエクスブロジオンオーガの討伐です」
「そうだな。とりあえず持ち替える物はこの紙束で、あとはガッケル殿達に任せよう」
持ち替える物は紙束のみ、残りは後日安全になってから兵士さん達が調べてくれるだろう。
紙束の事は、ガッケルさんには伝えておかないといけないけど。
ともかく、隠し通路の確認と広場の確認を終え、フォルガットさんの案内で鉱山を練り歩く。
警戒しながら移動しているため、全ての場所を一日で歩く事はできないけど、数日あれば全て確認できるはずだ……また別の広場とか怪しい場所を見つけなければだけど。
「はぁ、やはり外の空気は違うな」
「そうだね……」
「シャバの空気は美味しいのだわー」
「エルサ、そんな言葉を使っちゃいけません。というか、捕まっていたわけじゃないだろ?」
エクスブロジオンオーガの探索を終わり、鉱山の外に出て深呼吸。
埃っぽい空気と違い、外の空気は確かに美味しいと言えるものだけど……俺の記憶から変な言葉を使うんじゃないよエルサ。
隣でソフィーやフォルガットさんが、なんの事かわからず首を傾げているじゃないか。
シャバなんて、こちらの世界の人達がわかるわけないじゃないか。
俺も、懐かしのドラマだったか何かを見て、覚えた程度なのに。
「それじゃあ、俺は鉱夫組合に戻って、今日探索した範囲に印を付けておく。広場の事も、書き足さなきゃいかんしな」
「はい。お願いします」
「また明日だな」
「明日も、フォルガットさんが?」
「もちろんだ。この鉱山の事は、俺が一番よくわかっているしな。これでも組合長なんてやっているんだ、責任もって案内してやる。……戦いの方は、任せてしまうが」
「そこは、任せてもらわないと、冒険者として立つ瀬がなくなる」
「ははは、そうだな。それじゃあな」
鉱山から街へ帰る途中、鉱夫組合に向かうフォルガットさんと別れる。
エクスブロジオンオーガは、鉱山の中をウロウロしているはずだけど、一度探索した場所を何度も調べても発見できる可能性は低いだろうし、一応でも印を付けておくのは必要だろう。
明日も案内してくれる、と言ってくれたフォルガットさんを見送って、俺達は夕食のために宿に近い酒場へ向かう。
ちなみにだけど、今日のエクスブロジオンオーガは緑四体に赤二体を倒した。
やっぱり、モリーツさんの所から発生していたため、そこに向かう途中で俺達が大量に倒していた事もあって、広く分布しているエクスブロジオンオーガはあまり多くなさそうだ。
とは言え、今日一日使って探索しても、まだ三分の一もいっていないんだよなぁ……広場を調べるのに時間をかけたせいもあるけど。
これはある程度時間がかかりそうだ。
途中、一日使ってルジナウムにいるモニカさん達の様子を見たり、こちらの事を話す必要もありそうだね。
魔物が集団で襲ってきたというのもあるから、一度姉さんにも報告しておいた方がいいだろうなぁ……。
「よし、決めた!」
「ん、どうしたんだリク? 唐突に……」
「ムグムグ……おかしくなったのだわ?」
「おかしくなんてなってないから」
夕食を頂いている途中、これからの予定を考えていて決意をする。
一緒にテーブルを囲んで食べていたソフィーや、キューを次から次に食べているエルサから、おかしな目で見られてしまったけど。
……いきなり大きな声を出した俺が悪いか。
「いや、今回の事……ブハギムノングとルジナウムの事が片付いたら、しばらくのんびり過ごしたいなぁと思ってね」
ここ最近と言わず、この世界に来てから、ずっと何かをやっていたからね。
のんびり過ごす事がなかったとは言わないけど、もう少し何も考えたり、何もせずに過ごす時間が欲しいなと思った。
だからと言って、魔物と戦う事や誰かを助ける事、冒険者としての活動が嫌になったとかじゃない。
「いいんじゃないか?」
「賛成なのだわ。リクは色んな事をやり過ぎなのだわ」
「……あれ? 反対されるかと思ったんだけど」
ソフィーやエルサに伝えると、両方すんなり頷いて肯定してくれた。
エルサは元々暢気な性格だから、のんびりする事を嫌がらないとは思っていたけど、ソフィーもこんなにすんなり認めてくれる雰囲気になるとは思わなかったな。
反対されたかったというわけじゃないけども……。
「冒険者を辞めるとか、戦うのが嫌になった……とかじゃないんだろう?」
「それはもちろん。ただ、少しだけゆっくりする時間が欲しいかなぁ、と思っただけたよ。……結局、俺だけはまだ王都をゆっくり見て回ったりしてないからね」
一応、マックスさん達に案内された事はあったけど、全部見て回ったわけじゃないし、その時は大通りが補修中だったからね。
パレードはあったけど……あれはなんか違うし、難しい事は考えず、観光して見たいと思う。
王都に限らず、他の街でも同様にね。
ルジナウムは多少見られたけど、クレメン子爵邸のあるトゥラヴィルトの街とか、ほとんど何も見てないから。
エルサに頼めば移動は楽そうだし、空を飛ぶのも好きみたいだからのんびり行ったり来たりもできる。
せっかく、知らない世界に来たんだから、色々見てみたいと思うのは悪い事じゃないはずだ。
「だが……エアラハールさんの訓練はどうする?」
「それは、ちゃんと受けるよ。せっかく教えてくれるんだからね。まぁ、そればっかりじゃなくて、ブハギムノングに来てからのように、空いた時間でとなると思うけど」
「ふむ。まぁ、エアラハールさんがなんと言うかだな。だが、特に反対はされないだろう。あの人はそういった行動を、強制したりはしないだろうからな。……本人が自由気ままにしているというのもあるが」
「あはは、そうだね。ちょっと困った行動をする事もあるけど……でも、使う剣を指定したりはしたよ?」
「それは、訓練に必要だったからだろう。リクがこうしたいと思った事まで、文句は言わんさ。……多分」
確かに、剣は折れてしまったけど、あの指示は良かったと思える。
おかげで、ルジナウムの時に最善の一手らしき動きができたうえ、折れるまでは魔力を使わないボロボロな剣だったから、魔力を節約できたというのもあるかもしれない。
まぁ、折れてしまった時はモフモフ禁止にされると思って、かなり焦ったけど……。
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