第643話 研究施設の調査



 隠し通路には、壁にピッタリとハマる形の岩で塞がれており、よく見てみるとその岩の下、足元近くにへこみがあった。

 それを持って引っ張り、さらに横へ動かす事で通路へと入れるようになる、という仕組み。

 照明に灯された通路が薄暗いのと、へこみが下部分にあるので、何かあるとわかっていないと見逃してしまうだろう。


「通路は……さすがに照明はないが、幅は広いな……」

「いつの間にこんな通路を……鉱夫に紛れていたから、掘れたのだろうが……」

「多分ですけど、設備が整うまではそれなりの人間が紛れ込んでいたんでしょうね」


 岩を移動させて通路入ると、証明がなくて真っ暗だが、人が複数人並んで入れる程の幅があった。

 通路が広めになっているのは、ガラスを運んだりする関係上なんだろうけど、これだけの通路を掘るとなれば鉱夫として紛れ込んでいる人の数は結構いたんだろう。

 どれだけの期間で設備を整えたのかはわからないけど、一人や二人で掘れる広さと長さじゃない。

 時間をかければかける程、見つかったり怪しまれるリスクもあるからね。


「エルサ、頼むよ」

「仕方ないのだわー」

「自分の頭上から光が照らされていると、なんだか落ち着かないな……」

「慣れるまではそうだよね」

「……便利なものだな」


 通路に入る際、エルサに頼んで光を出す魔法を使ってもらう。

 ソフィーは自分の頭から光が出ているような感じがして、少し落ち着かないようだけど、直に慣れると思う……俺もそうだったし。

 フォルガットさんは、何かを諦めたように溜め息を吐いて呟いているけど、魔法に詳しくなければそうなるのかな?


「それなりの長さだな。この通路を作るだけでも、相当な労力がかかる。もしかすると、最初から目的地は決まっていたのか?」

「かもしれませんね。モリーツさんは、エクスブロジオンオーガの事を知っていたようですし、ここにその核というのがあるとわかっていたのかもしれません」

「核か……フォルガットさん、採掘される物の中に含まれていたのでは?」

「うぅむ……ガッケルから魔物の核というのを見せてもらったが、紛れていてもおかしくないし、見た事がある気もする。気にはしていなかった事だから、よく覚えていないが……鉱石なんかと一緒に、掘り出されていてもおかしくないな。鉄などに精製する際に不純物は取り除かれる。だから、その核というのも捨てられていたんだろう。気にしていない物だからな」

「だとしたら、どこかでこの鉱山で採れる鉱石なんかを見て、中に核があるのを発見。そこからブハギムノングの鉱山を使おう、と考えたんでしょうね。大量に核が取れる場所と、実験場所を求めていたのかもしれません」


 鉱石に核が一緒に入っていて、それを組織の誰か……場合によってはモリーツさんが発見した。

 その核を使って別の場所で復元などを試したら成功、さらに大量のエクスブロジオンオーガを復元する場所を求めて、採掘場所であるこの鉱山を選んだ、という推測だね。

 地図があっても全員が全てを把握している場所じゃないし、空白の場所だってある。

 さすがに、研究していた広い空間は、何かの拍子に崩れたりしたおかげで空洞になっていたんだろうけど……。


 通路だけならまだしも、さらに広い空間を掘る事なんてそうそうできないだろうからね。

 もしかしたら、先に俺達が通った穴を見つけ、その先に行ってみたらあの空間があったから……という事なのかもしれない。

 事情をしる人間がこの場にいないから、確認はできないし勝手な想像だけども。


「お、行き止まりだ」

「話では、あれを押せば開くんですよね?」

「ガッケルが言うにはそうだったな。どれ……お、ここは軽いな」

「……広場に出たな」


 話しながらしばらく通路を進むと、エルサが照らす通路の先が閉ざされており、行き止まりになっていた。

 ガッケルさんからの話によると、通路の先の壁を押せば簡単に開くという事で、フォルガットさんが手を伸ばして壁を押す。

 今回は、通路前の岩と違い軽く押しただけで空いたみたいだ……というか、取っ手のない扉のようになっていた……これ、岩壁のように偽装してあるけど、木でできているみたいだね。

 まぁ、広場側からも通路側からも、移動のために苦労する仕掛けにはしないか。


 通路前の岩は、あくまで見つからないようにするのが目的だろう。

 重かったのは、誰かが軽く触っただけではわからないようにするためだと思う。

 開けた壁扉の向こう側には、モリーツさんがいたあの広場があった。


「こりゃ、派手に暴れたんだな……」 

「あははは……まぁ、エクスブロジオンオーガと戦いましたからね」

「兵士達が簡単に調べたとは聞いたが、イオスを調べたり、ルジナウムからの伝令と、詳しく調べたり片付ける時間はなかったらしいからな」


 広場に出ると、相変わらず照明で照らされた大きな空間が広がっている。

 その場所は、俺がルジナウムの街へ急ぐ直前とほとんど変わらず、あたりには割れたガラスやエクスブロジオンオーガの破片なんかが散らばっていた。

 多少、人に踏まれた後があるけど、大きな違いはモリーツさんやイオスの姿がない事くらいか。

 広場の荒れっぷりに、呆れた声を出すフォルガットさんに苦笑。


 でも、ほとんどの原因は爆発したエクスブロジオンオーガで、特に改良型のせいなんだけどね。

 ガッケルさん達兵士さんが、簡単には調べたらしいので、踏まれた形跡があるんだろうけど、すぐにルジナウムからの伝令が来て、避難する人達への対応のために、詳細まではまだ調べられていないらしい。

 まぁ、多くの人間が魔物に追われて移動して来るとなったら、そちらにかかりっきりになるのは仕方ないか。


「ふむ……ガラスか……確か、エクスブロジオンオーガが発見され始める少し前に、他の街で多くの注文が入って作られていると聞いたな」

「そうなんですか?」

「ブハギムノングに来た商人からの、又聞きだがな。ガラスは高価なんだが、それでも大量にという事で一部では噂になっていたらしい。どこぞの工房が儲かって、羨ましい……とな」

「ははは……高い物を大量にですから、話題にもなるし作っている所は儲かりますよね」


 そうか……ガラスなんて素人が簡単に作れる物じゃないから、どこかに頼まなければいけないんだよね。

 まぁ、とんでもない魔法で透明度の高いガラスを、作る気もなしに作ってしまったのは置いておいてだ。

 ガラスを作った工房が、イオス達に協力していたかはわからないけど、注文したのは間違いなくあちら側だろうし……ガッケルさんに調べてもらう、いや、他の街という事だから、領主のフランクさんや姉さん、それかハーロルトさんに調べてもらった方がいいか。

 さすがにガッケルさんは兵長とはいえ、他の街の事を調べられないだろうからね。


 とにかく、ガラスという高価な物であり、大量に注文しているのだから調べるとわかる事もあるはずだ。

 この広場で並んでいた光景を思い出すと、一個人で買えるような量じゃないし、輸送も必要……目撃している人がいてもおかしくないはずだから――。


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