第642話 隠された通路へ



「はい、確か……黒装束の男はモリーツさんの監視に残っただけで、他に関係者はいない……というような事を言っていました」

「それを、そのまま信じるのか?」

「じゃが、どちらにしても相手がどんな組織なのかわからんのじゃ。信じないにしても、探しようがないじゃろ……」

「そうですな……厳しく見ておく必要はあるでしょうが、疑い始めたらキリがありません。油断しないようにするしかありませんね」


 フォルガットさんが言う、イオスというのは黒装束の男の事。

 当然その名前は偽名だとは思うけど、本名は誰もわからないからその名で呼んでいるようだ。

 モリーツさんが研究していたあの設備を考えるに、鉱夫にも他に紛れ込んでいた人がいたんだろうし、冒険者や兵士に紛れ込んでいてもおかしくないという事。

 それぞれの組織へ別々に紛れ込んでいたら、もし何か怪しまれても誤魔化しやすいだろうからね。


 モリーツさんが鉱夫さん達だけでなく、街の人達にまで疑問に思われていたのは、研究をする人間で工作専門ではないからだろうと思う。

 まぁ、それだったらモリーツさんを人知れず鉱山へ潜り込ませれば……とも思うけど……組織力が高いのか低いのか、よくわからないな。

 とにかく、鉱夫に限らず他の組織、街で紛れ込んでいると考えて間違いないって事だね。

 特に冒険者は、一応調べたりもするけど一番自由な職業でもあるから、紛れ込みやすいだろうなぁ……。


 帝国との関係がどうなのかははっきりしないけど、王都ではバルテルも含めて帝国からの工作員複数人が潜り込んでいたみたいだからね。

 王都、というより王城内はハーロルトさんが動いて、調べているようではあるけども。


「まぁ、とにかく用心深く見ておかないといけないな」

「そうじゃの。じゃが、冒険者が少ないこの街で良かったわい。こちらに紛れ込んでいる可能性はかなり低いからの。……ろくに依頼のないギルド支部じゃが、他の街のギルドじゃともっと大変じゃったじゃろう……」

「そうですね、この街には鉱夫もいて衛兵もいる。内外を自由に行き来する冒険者が少ないのは、いい事なのかもしれません」


 フォルガットさん、ベルンタさん、ガッケルさんが工作員が紛れ込んだりしないよう、またもし紛れ込んだ場合について話し合っている。

 俺とソフィーは話に入れず傍観者だ。

 ソフィーはまぁ、元々こういう話に積極的に入る性格じゃないし、俺も俺で、どう対処していいのかわからないからね。

 紛れ込んでいる工作員を調べる方法なんて……歴史の授業で習った踏み絵が思い浮かんだけど、あれはそういうものじゃないし、絶対見つかるという保証もない。

 何かを信奉している組織、というわけじゃないだろうし……。


 話をしていて噛み合わなかったり、何か怪しい雰囲気や動きをしていたら、というくらいしか思いつかないけど、それはフォルガットさん達が話し合って検討している。

 ……目印でもあればいいんだけどね。


「とにかく、リクが目論見を潰した事で、この街にはもう来ないだろうがなぁ」

「それはわからんぞ? 逆にムキになって何かを企てるかもしれん」

「どちらにせよ、注意しておくべき事でしょう」

「そうだな。あぁ、リク。今回の事、すまなかった」

「え?」


 何かを企んでいる人間が紛れ込まないよう、注意しておくという結論が出てすぐ、急に俺へと視線を向けたフォルガットさんに頭を下げられた。

 突然どうしたんだろう?


「今回、エクスブロジオンオーガを含めて邪な企てをしていた者達は、主に鉱夫に紛れていた者達だからな。管理ができていなかった……」

「いえ……それは仕方ないですよ。あんな事をする人間がいるなんて、予想もできないですから。むしろ、大きな被害が出なかっただけ、良かったと思います。まぁ、エクスブロジオンオーガが原因で採掘の方は進んでいないですから、そういう面では被害が出ているんでしょうけど……」

「そうだな……採掘がほとんどできなくて、俺達鉱夫もそうだが、街としても損失は出た。だが、人に被害が出なかったのがせめてもの救いだな。もしリクが来てくれていなければ……」

「注意を聞かずに、収入のために採掘をし始める者達も出たじゃろうの。そしてエクスブロジオンオーガにやられる者が出たり、やられなくとも爆発によって鉱山全体に悪い影響が出たかもしれん。最悪の場合、多くの人間が生き埋めじゃ」

「ですね。リク様のおかげで、被害は最小限で済みました。なに、この街の鉱夫達は逞しいので、多少の損失が出ても頑張って取り戻してくれますよ」

「あぁ、もちろんだ! エクスブロジオンオーガさえいなくなれば、大手を振って採掘ができるからな。任せておけ!」

「ははは、そうですね。皆には頑張ってもらいましょう。あーでも、エクスブロジオンオーガがいなくなるまでは、駄目ですよ?」

「それはもちろんだ。ここで油断して、大きな被害がでたりしたら、目も当てられねぇからな!」


 エクスブロジオンオーガは魔物で、人を見つけると襲い掛かっていた。

 油断していたら鉱夫さん達にも被害が出るだろうし、爆発させまくっていたら、最悪を考えると鉱山全体の崩落とかもあり得る。

 それがなかっただけでも良かったと思う事にし、あとは俺達が残ったエクスブロジオンオーガを討伐するのを待ってもらうだけだ。

 まぁ、数が増える事はなさそうだし、原因を取り除いたんだから鉱夫さん達も気が楽だろう。


 なんでエクスブロジオンオーガが沸いて出て来るのか、理由すらわからなかった時とは全然違う。

 もう少しの間だけ、鉱夫さん達には休日ができたと考えてもらって、休んでいてもらおう。

 できるだけ早く、鉱山内のエクスブロジオンオーガを排除するために、頑張るかな。



「このあたり、だな……お、これだ」

「あ~、こうなっていたんですね……」


 鉱夫組合で話した後、フォルガットさんを伴って鉱山に入る。

 主目的は、残っているエクスブロジオンオーガの討伐だけど、モリーツさんが研究していた場所への隠し通路を確認するためでもある。

 フォルガットさんが地図を持ち、俺とソフィーが周囲を警戒しながら進む。

 ちなみにエルサは、鉱山に入る前にソフィーの方へと移っている。


 印が付けてある地図を確認しながら、まだ書きこまれていない空白地帯を迂回するように移動して、俺達が通った穴の間反対に位置する場所で、フォルガットさんが壁を調べて隠し通路を見つけてくれた。

 この隠し通路は、ソフィーがイオスを運び出している時に、ガッケルさん達兵士さんが調べて見つけたらしい。

 その時には既に穴を通ってイオスを運び出していたため、ソフィーは直に見ていないので、地図へ印をつけた場所の案内をフォルガットさんがしている、というわけだ。

 まぁ、フォルガットさん自身、久しく入っていなかった鉱山に入って中の様子を確認したり、危険が少なくなったので一緒に来たんだけどね。


「この岩を……くっ……む……ふぅ、さすがに重いな」

「簡単に動かせたら、見つかりやすそうですもんね」



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