第631話 モニカさんとの会話



「エルサちゃんも、リクさんを綺麗にしてもらっている最中に、寝てしまったわ。それからずっとあの状態。起きないけど……多分大丈夫だと思うわ」

「まぁ、寝言も言っているから、暢気に寝ているだけだと思うよ。頑張ってくれたから、疲れたんだろうね。魔力も限界近くまで使っていたようだし」


 ベッドで寝ているエルサを見ながら、モニカさんと話す。

 ずっとあの状態で寝ているのかエルサ……まぁ、大きくなった体を維持できないくらい、魔力を使ったうえで、魔法や弓矢の威力を増すように魔力を使ったみたいだから、あちらもあちらで限界だったんだろうな。

 満足いくまで、しっかり休ませてやろう。


「でもリクさん……無茶をし過ぎよ。私も、リクさんに頼ってしまったから、何も言えないけど……。エルサちゃんが助けを求めて来た時は、驚いたわ……」

「ごめん。最初はなんとかなりそうかなぁ……って思ってたんだけど、思たより魔物が多かったのと、それまでに魔力を使う事が多かったから、ちょっと足りなかったみたい」

「ちょっとどころじゃないわよ……いつもは余裕を見せて怪我すら一切しないのに、怪我しているし、血塗れだし……血は、魔物の物だったけど。もう少し、自分を大事にして欲しいわ……でも、ありがとうリクさん。おかげで私だけじゃなく、街の皆も無事よ」

「うん……怪我をしたのは、自分でも驚いたけど……そこまでいつも余裕を見せてるかな? まぁ、皆が無事なのは良かったと思うよ」


 目を伏せて泣いているようにすら見える表情で、モニカさんに注意される。

 予想外な事とか、色々と重なって魔力がほとんどなくなり、怪我までしてしまってモニカさんには随分と心配をかけてしまったようだ。

 自分を大事に……しているつもりなんだけど、モニカさんから見たらそうではないみたいだね。

 ……街一つを簡単に壊滅させられる程の、強力な魔物の集団相手に、一人で向かうのは……確かに自分を大事にしていないように見えても仕方ないか。


「まぁ、リクさんがいなかったら、皆やられていたのは間違いないんだから、こんな事を言う資格もないのかもしれないけどね……でも、心配したのよ?」 

「モニカさんに言う資格がないとは思わないよ。この世界に来て、ずっと一緒にいてくれる人だし、助けてもらっているからね。心配をかけてごめん、それから、ありがとう。」

「リクさんが良ければ、もっとずっと一緒にいても……んんっ、そうじゃなくて……えっと、それを言うなら私の方こそ助けてもらっているわ。ヘルサルの時も、今回だって。王都でもそうだわ」

「そうかな? 俺の方がモニカさんに助けてもらっていると思うけど……ソフィーやユノ、他の皆にもだけどね」

「そこは、私だけじゃないのよね……はぁ……ま、その方がリクさんらしいか」

「ん?」

「……なんでもないわ」


 なんというか、心配をかけてしまって申し訳ない気持ちと、目の前に姉さんがいて怒られている気分。

 もちろん、モニカさんが姉さんと同じというわけじゃないんだけどね。

 本当に目の前にいるのが姉さんだったら、もっときつく叱られているような気もするし。

 それはともかく、何やらモゴモゴと俺に聞こえない声で呟いているモニカさんは、頬が赤くなっている……どうしたんだろう?


 首を傾げても、モニカさんは首を振って誤魔化していた。

 うーん、俺がまた何か変な事を言ったりしたのかな?


「リクーそろそろ起きるのー! 寝過ぎな……起きてるの!!」

「おはよう、ユノ。元気なのはいいと思うけど、いきなり部屋に入って来ながら叫ぶのは、止めて欲しいかな……」

「おー、リクが目を覚ましたの! 皆に伝えて来るの!」

「あ、ユノ!?」

「行っちゃったわね? まぁ、皆リクさんが目を覚ますのを待っていたのよ? 私だって……」


 バンッ! と勢いよく部屋の扉を開けて、叫びながらユノが入って来る。

 すぐに、俺が椅子に座っているのに気付いたユノは、起きている事を驚いた様子のまま、踵を返して部屋を出て行った。

 俺が起きた事を伝えるって言ってたから、そのためなんだろうけど……忙しないなぁ。

 もしまだ俺が寝てたらどうしたんだろう?


「あ、そういえば……もしかしてモニカさん、ずっと見ていてくれたの……かな?」

「……そりゃ……だって、リクさんがいつ目覚めるかわからなかったし……。それに、一番最初に起きた顔を見たかったから……」

「そ、そうなんだ。うん、ありがとう!」

「っ!」


 目を覚ますのを待っていたという言葉と、起きた時にベッドのそばにいてくれた事を考えると、寝ている俺の様子を、ずっと見ていてくれたんだと思う。。

 俺が声を上げて、モニカさんも目を覚ました様子だった事から察するに、昼夜問わず見ていてくれて、あの時は疲れて眠ってしまっていた時だったんだろうね。

 なんとなく、モニカさんの言葉に気恥ずかしさを感じながら、でもちゃんとお礼を言わないとと思って、元気な事を示すようにできる限りの笑顔で感謝を伝えた。

 途端、顔を真っ赤にしてモニカさんがそっぽを向いた……えーと?


「おぉリク、目覚めおったか。ユノの嬢ちゃんから聞いたが、これで一安心じゃの」

「エアラハールさん」


 俺とモニカさんが微妙な雰囲気になったのを、あっさり取り払うように部屋に入って来たエアラハールさん。

 一緒にいる時間は短いけど、心配してくれていたらしい。

 変な癖さえなければ、いい人なんだよなぁ……。


「ひょっひょっひょ、モニカ嬢ちゃんの献身的な看護のおかげかの?」

「エアラハールさん!」


 怪しさ溢れる笑いを漏らしながら、モニカさんをからかうエアラハールさん。

 ずっとついていてくれたらしいし、献身的というのも間違いじゃないと思うけど、さっきと同じようにまたモニカさんが真っ赤になってしまった。


「すみません、心配をかけてしまっていたようで……」

「なに、リクはリクにしかできない事を成し遂げたのじゃ。胸を張っていればいい。若い者を心配するのも、年寄りの役目じゃよ」


 とりあえず、モニカさんとこれ以上妙な雰囲気にならないように、心配させてしまった事を謝る。

 胸を張っていればいい……か。

 魔物達と戦っている時は必死で、終わったと思ったら倒れて、いまいち戦い抜いたという実感が乏しかったけど、エアラハールさんの言葉でようやく頑張れた、皆を守れたんだという実感が沸いてきた。

 さすが、人生経験豊富な人からの言葉は、重みがあるなぁ。


「おぉそうじゃ。フランクじゃったかの? あの子爵殿が、リクをお呼びじゃぞ? 目が覚めたら報せてくれと言っておった。なんなら、自分から出向くともな」

「フランクさんが?」

「リクさんは街を守っただけでなく、被害を出さずにあの魔物達を倒したのよ? その話がしたいんじゃないかしら?」

「どうする? 起きてすぐじゃ、まだ万全でないようなら、こちらに来るよう報せるが?」

「あぁ、俺が行きますよ。フランクさんにわざわざ来てもらうのも、悪いですからね。それに、ずっと横になっていたせいか、体を動かしておきたいんです。まぁ、まだ少し重く感じますが……」


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