第630話 目が覚めるリク



「……ふぅ……大丈夫、モニカさん?」

「え、えぇ。ありがとう、リクさん」

「まだ他にも魔物が残っているかもしれないの、注意しながら帰るの」

「そうね……私も、油断しないようにするわ。……私じゃ、まだ敵わない魔物もいるかもしれないしね」

「だわ~、だわ~……」


 突き刺した剣を抜いて、鞘に収めながら振り返り、モニカさんに確認。

 ユノが周囲を警戒するように、注意深く見まわしながら剣を握っていた。

 モニカさんもすぐに周囲の警戒を始め、背負っていた槍を持って戦えるように。

 エルサは……まぁ、ぐるぐる振り回されたせいで、目を回しているか……仕方ないな。


「魔法探査とかで、調べられたら楽なんだけ……ど……」

「リクさん?」

「あれ……なんだろう、急に……体に力……が……あ……」

「リクさん! リクさん!?」


 魔力探査を使えば、生きている魔物の魔力で埋もれているかどうかがわかるはずだけど、今の魔力で大丈夫かな……と考えた瞬間、全身から急激に力が抜けるのを感じた。

 もしかして、剣を使ったから魔力が……? なんて考えている余裕すらもう……。

 瞬間的に平衡感覚すらなくなり、立っているのか座っているのか、はたまた倒れているのかすらわからなくなる。

 力が抜けて行く感覚と共に、モニカさんの声が響く中、ぷっつりと意識が途絶えた……。



―――――――――――――――



「ん……あふ……ふわぁ~」


 目を覚ます。

 一瞬、自分がどこにいるのかわからなかったけど、柔らかいベッドの上で寝転んでいる感覚で、今まで寝ていたのだと判断。

 でもあれ? 昨日はいつ寝たっけ……? 確か、鉱山でエクスブロジオンオーガが発生している原因を突き止めて、そこからルジナウムに行って……。

 寝ていたのだから、どこかの部屋にいるのは間違いないけど、宿屋とかに戻って寝たという記憶がない。


「これは、前にお酒を飲んだ時と一緒のような……?」

 

 酔って暴れてしまった時は、宿屋に戻った記憶も寝た記憶もなかったけど……その時と同じ? いやでも、お酒を飲んだりはしていなかったはず……。

 魔物の集団を相手にして、ユノが来てエルサが戻り、モニカさんに向かって飛びかかったマンティコラースを倒して……そこからどうしたんだっけ?


「だわぁ……だわぁ……」

「エルサも寝てる。うーん……あれからどうしたんだっけ……って、あ!!」

「……うぅん?」


 寝息のような寝言のような音が聞こえ、寝ているまま顔を横に向けると、すぐ傍でエルサがお腹を見せたまま気持ち良さそうに寝ていた。

 昨日はエルサも頑張ったから、ゆっくり寝て休んで欲しい。

 お腹の毛に手を伸ばし、ゆっくりとモフモフを撫でながら昨日の事を思い出していると、唐突にマンティコラースを倒した後の事を思い出して、大きな声が出てしまった。

 あの後、急激に体から力が抜けて、意識が途絶えたんだった……。


「……リク、さん? あ、リクさん!」


 俺の出した声がきっかけで、ベッドの外側から声が聞こえた。

 そこにはモニカさんが、ベッドにもたれかかるようにして座っており、今まで腕を枕にして寝ていたんだろう……顔にちょっとだけ跡が付いていた。


「えっと……おはよう、でいいのかな? モニカさん」

「はぁ……良かった……おはよう、リクさん」

「だわぁ……だわぁ……」


 相変わらず、寝言なのか寝息なのか判断しづらいエルサが寝ているのを挟んで、モニカさんと挨拶を交わす。

 でも、どうしてモニカさんが、俺やエルサが寝ているベッドの横にいるのだろう?


「リクさん、ようやく目を覚ましてくれたわね……ヘルサルの時程じゃなかったけど、二日間も寝ていたのよ?」

「え? 二日間も……? よっと……」


 エルサが寝ているのを邪魔しないようにしながら、ベッドから降りて立ち上がる。

 ホッとした様子で俺を見ていたモニカさんから、二日間も寝ていたと聞かされるけど、そんなに寝ていたのか俺……。

 立ち上がって、手を持ち上げたり、握ったり……軽く屈伸をして体調を確かめる。

 若干、体が重いような気がするけど、これは疲れじゃなくて寝過ぎたせいのような気がする。


 二日間も寝ていれば、寝過ぎで少し体が重くなるのも当然か。

 長時間休んだおかげなのか、魔物に攻撃を受けて怪我をしていたはずの部分もすっかり治っており、傷跡すらほぼなくなっていた。

 って、ちょっと待って……。


「あ……俺、裸……?」

「ご、ごめんなさい! えーと、あっち……向いているわね」

「あ、うん。俺の方こそ……ごめん?」


 一応、下着は履いていたのだけど、それ以外は何も身に付けていなかった。

 なぜモニカさんが謝るのかわからなかったけど、とりあえずベッドの傍に見覚えのある服が合って、顔を背けながらも指でそちらを指しているモニカさんに従い、ごそごそと服を着る。

 寝起きで頭が上手く働いていないとはいえ、ほぼ全裸の状態を見られて、なんとなく気恥ずかしい気分と雰囲気だ。

 男の裸なんて……とは思うけど、慣れない俺にとっては十分恥ずかしいね、これは。


「えーと……それで、あれからどうなったんだろう?」


 服を着て、少し落ち着いてから部屋にあった椅子に座り、向かいにいるモニカさんに問いかける。

 エルサはまだベッドで寝ているけど、無理に起こさなくてもいいか。


「リクさんが、私を庇ってくれて……魔物を倒してくれたわ」

「うん、そこまでは覚えてる。そこから、急に力が抜けたんだと思うけど……」

「街に帰ろうとしたところで、急にリクさんが倒れたのよ。ユノちゃんと二人で、頑張って街まで運んだわ。途中、フランクさんや街の人達が手伝ってくれたけどね」

「フランクさん達が?」

「リクさんは、倒れるまで戦って、見事に魔物を倒してくれたのよ? それくらいはしてもらわないとね」

「まぁ……そうなのかな?」


 魔物の死骸が積み重なるあの場で、俺は倒れてしまったみたいだ。

 完全に意識を失ってしまって、モニカさんに手間をかけさせちゃったかな。


「あれ? そういえば、体も綺麗になってる……もしかして……?」

「さすがに、私じゃないわよ? 宿の人が、功労者を汚れたままにはしておけないって、服を脱がして洗ってくれたの。その服も、街の人がリクさんが着ていた服と似た物を用意してくれたわ」

「そ、そうなんだ……」


 今更気付いたけど、よく考えたら魔物と戦っているうちに返り血で汚れていた俺の体は、綺麗になっていた。

 まぁ、あのままベッドに……となるとそっちも汚れてしまうから、仕方ないよね。

 というか、そこまでされているんだから起きろよ俺……と思わなくもない。

 寝たというより、気絶した感じだったらしいから、無理もないのかもしれないけど。


 服の方は、見覚えがあるのは当然の事。

 俺が着ていた服と同じような物を、用意してくれていたらしい。

 どうりで、こびりついていた血もなければ、エクスブロジオンオーガの魔法で破れたりもしていない、綺麗な状態なわけだ。

 あとで、宿の人や服を用意してくれた人たちにお礼を言っておかないとね――。



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