第617話 フランクさんとの相談



「街にある武具をありったけ集めろ! 使い捨てでも構わん、今はとにかく戦力を整える事が最重要だ!! 迅速に動け! 魔物は待ってはくれないのだぞ!!」

「……フランク子爵! リクさんを連れて来ました!」


 バタバタと走り回る人達の前に立ち、全力で叫んで指示を飛ばすフランクさん。

 そこへ近寄り、声をかけるモニカさん。

 指示に集中して、俺達には気づいてなかったようだけど、喧騒の中でもよく通るモニカさんの声が、フランクさんに届いたようで、こちらを振り向いた。

 フランクさん……結構穏やかな人かと思ったけど、いざとなったらこんなにキリッとして、檄を飛ばすよな人だったんだ。


「リク殿! 遠目にエルサ様と思われるお姿が見えましたので、モニカ殿に行ってもらいましたが、やはりでしたか!」

「あー、見えてたんですね……」


 俺を見て、喜びを前面に押し出しているのがよくわかる表情で、大袈裟に手を広げて歓迎してくれるフランクさん。

 もしかしなくても、集まっている人達に対してのパフォーマンスもあるんだと思う。

 こういう時、戦いをする人達の士気って大事らしいからね。

 それはともかく、フランクさんからも飛んでいるエルサが見えたらしい。

 急いできたから、ちょっと近づきすぎたかもしれない……まぁ、空にいる俺とエルサから西門の人達がある程度見えていたんだから、巨大なエルサはフランクさん達の方から見えても、おかしくないか。


「新たな魔物かと、兵士達が浮足立ちかけましたが……私やモニカ殿がエルサ様だろうと見て、逆に鼓舞するように利用させて頂きました。申し訳ありません!」

「いえいえ、むしろ驚かせてしまったようで、こちらこそ……」

「リクさん、フランク子爵……今はそれどころでは……」

「おぉ、そうでしたな!」

「ごめん、モニカさん」


 フランクさんの声がいつもより大きめなのは、戦いを控えての事だろうし、指示を出していたからだろう。

 こういう時、先頭に立つ人が落ち込んだ様子だったりしたら、全体に響くからね。

 あと、浮足立ったというのは多分、エルサを見た事のない人達だろう。

 フランクさんは、王城にいる時エルサを見ていたんだろうし、モニカさんは見慣れているため、すぐにわかったんだと思う。


 急いでいたとはいえ、もう少し気を使うべきだったとは思うけど、それを兵士さん達がやる気を出すために使うくらいは全然構わない。

 大方、英雄だとかドラゴンだとかを持ち上げて、戦力が増えた! という方向にしたんだろうな。

 とりあえず、モニカさんに注意されて今はゆっくり話している時間はない事を思い出す。


「しかしリク殿がここにいるという事は、ブハギムノングの方面に避難させた者達は……いえ、危険から遠ざけたと思いましょう。それでリク殿、我々はここで魔物達を足止めし、時間を稼ぐつもりなのですが、ご協力願えるでしょうか?」

「もちろん、私も協力するわ。ユノちゃんやエアラハールさんもね。ヘルサルでも近い事はあったし、なんだか他人事じゃないのよね……」

「うん、それはもちろんわかってる。――フランクさん、俺も一緒に戦います。是非協力させて下さい」

「おぉ! そうですか! ありがとうございます! 皆、聞いたか!! 我らがアテトリア王国の英雄、リク殿も協力して出さるとの事だ!!」

「「「おぉ――!!」」」

「……人気じゃのう」

「まぁ、英雄って言葉が大きいんだと思いますよ?」

「実際、リクさんが今までやってきた事のおかげだと思うんだけどね」


 改めて、フランクさんに協力を要請され、モニカさん達と同様、一緒に戦う事を約束する。

 俺の言葉を受けて、すぐに兵士さん達の方へ振り返ったフランクさんは、多少大袈裟に身振りを加えながら周囲の人たちに伝える。

 兵士さん達や、混じっている冒険者さん達も含めて、その場にいる全員が喜びとも咆哮とも言える声を上げた。


 ……士気が上がる事は、いい事だよね。

 後ろでエアラハールさんがボソッと呟き、モニカさんが苦笑しながらその様子を眺めている。


「ではリク殿、我々は魔物が近付いてくるのを準備を整えながら待ちます。近付いて来た時点で、弓や魔法を放ち、向こうの戦力を削ぐ作戦ですな。そして、その中を抜けてきた魔物には、近接で兵士や冒険者が戦いを仕掛けるという手はずになっています」


 ヘルサルでも、似たような感じだった。

 魔物の方が明らかに戦力が上で籠城だとか、防衛する側としてはそれが一番やりやすいだろうし、定石なんだろう。


「そこでリク殿には、魔法攻撃に参加して頂きたいのです」

「魔法ですか?」

「はい。リク殿が魔法を使える事は、皆が知る所。前線に立って戦って頂きたいとも思いますが、リク殿の身一つでは、多くの魔物を相手にできないでしょう」

「それは、確かにそうですね……」


 ユノもそうなように、剣を使っての戦いをするにあたって限界というものはある。

 俺やユノが負けるというわけではなく、大群が来ている状況で、単身突っ込んでも全てを相手にできるわけじゃないし、止める事すら難しい。

 せいぜいが、数体から数十体の魔物に囲まれて、他の魔物達は俺に目もくれず、街を目指すという状況になってしまうだろうね。


「リク殿に協力して頂き、魔物の戦力を削ぐだけでも、我々にとっては助けになります。そしてリク殿……」

「どうしましたか、フランクさん?」


 言葉の最後に、なぜか他の人達に聞こえないよう小声になるフランクさん。

 近くにいる俺や、モニカさん達は聞こえているけど、騒がしい兵士さん達には聞こえないだろう。


「開戦後、魔法を使ってしばらく……おそらく、我々が押され始めるでしょう。それは、戦力差を見れば明らかですし、しばらくすれば街にも魔物が侵入してくると思います。場合によっては外壁が破壊される事も……」

「……はい」


 声を潜めてなので、今までよりも真剣味が増していると感じ、返事をする俺も神妙になってしまう。

 フランクさんの言う通り、単純な戦力差を考えれば、最初は魔法で先制攻撃を仕掛けてられても、徐々に押されてこちらがやられてしまう……という予想は誰でもできる事だと思う。

 キマイラやキュクロップス、マンティコラースという、それぞれ単体でも兵士さん達には脅威な魔物が複数いるのだから……。

 だからこその、非難した人たちが十分な距離を稼げるように時間稼ぎをするわけだし、ここにいる人達は死地に赴く気分でもあるのかもしれない。


 贅沢を言えば、他の街や村からの支援、王都を含む各地から兵士や冒険者を派遣して、十分な戦力を整えられたら、そんな予想や死地に赴くような事はしなくて良かったんだろうけど……準備する期間が足りなさ過ぎた。

 俺があれこれ意見する立場にはないけど、フランクさんなら既に魔物が集結している事を知って王都には救援要請とかは出していそうだし、少しずつ準備をしていたんだろうけど……それでも今事が起こってしまったので、現状の戦力で戦わないといけないからね。

 っと、今は考え込んでいる場合じゃない……フランクさんが何を言おうとしているのか、しっかり聞かないと――。



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