第615話 モニカさん達と合流



「というか、いきなり十翼?」

「急ぐのだから、それくらいは出しておくのだわ」

「まぁ、仕方ないか。それじゃ……結界! よし、エルサいいぞ!」

「飛ばすのだわー!」


 前回全力で飛んだ時のように、最初から十翼を出しているエルサ。

 俺が焦っている気持ちが流れ込んでいるため、エルサの方も多少は焦る気持ちが表れているのかもしれない。

 いつもなら、もう少し暢気にゆっくりしているだろうし、そういう性格だしね。

 ともあれ、十分に浮上した事を確認し、結界を発動させて全力の速度に耐えられるようにする。

 それを確認した後、エルサが全力でルジナウムへ向かって移動を開始した。


「着いたのだわ!」

「はやっ! えっと……はやっ!」


 一瞬……とまでは言わないけど、数分も経ったかどうかくらいだったので、思わず驚いて二回同じ事を繰り返してしまった。


「えーと……まだ街は大丈夫そうだね。うん? なにか、門の方に人が集まっているように見えるけど……」

「そこに行くのだわ?」

「そうだね。でも、いきなり降り立つと驚かれるから、少し離れた所に行こうか」

「リクは気遣いさんなのだわー、わかったのだわー」


 上空から街を見下ろせる位置で確認。

 ルジナウムの街は以前見た時と変わった様子はなく、魔物達が襲撃した形跡も一切ないので、まだ無事な事がわかる。

 いっそ、黒装束の男の言っていた事が、嘘なんじゃないかと思うくらいだ。

 そんな中、俺達が初めてルジナウムに入る時に使った、西門付近で人が集まっているのが見えた。


 なんであんな所に集まっているんだろう……?

 理由はわからないけど、とにかくそこの様子を見に行くため、付近に降りるようエルサにお願いする。

 上空から、急にエルサのような巨大な生物が降りて来たら、集まっている人達も驚いてしまうだろうと、離れた場所って言ったんだけど……気遣いさんって……。


「リクさん!!」

「あれ、モニカさん?」

「リクなのー!」

「ユノもいるのだわ」

「そうみたいだね……どうしたんだろう? あ、エアラハールさんもいる」


 西門から少し離れた場所で、大きな木の陰に隠れるように降り立つエルサ。

 すぐに小さくなってもらっていると、モニカさんが俺を呼ぶ大きな声が聞こえた。

 こちらに走って向かっているようだね。

 それと一緒に、ユノの声も聞こえてさらに後ろにはエアラハールさんもいるようだ。


 モニカさんとユノはともかく、エアラハールさんも全力疾走している様子で、離れて見ているとちょっと面白い。

 って、今はそれどころじゃないか。


「はぁ……はぁ……リクさん、来てくれてのね!」

「モニカさん。えっと、どうしてここに? それに、西門に人が集まっていたけど……モニカさんが来たって事は、集まっている中にいたんだよね?」

「そうよ、あの中にいたわ。えっとねリクさん、話せば色々あるのだけど、簡単に言うと魔物が街を目指して動き始めたのよ!」

「……やっぱり、か」

「数はリクがこの街にいた時から増えてないの! でも、急に街を目指すように大移動を始めたの!」

「何があったかわからぬが、予想が外れたようじゃ。魔物達は一定以上の数にならずとも、街を目指し始めたんじゃよ。……しかしリク、驚いておらんの?」

「確かに驚いていないわね?」

「まぁ、ちょっとした事があってね。ルジナウムに向かって魔物が動き出すのがわかっていたというか……これも、話すと長くなるかな?」


 走って俺の所まで来たモニカさん、息を整えながらも嬉しそうな声。

 まだ魔物達が来ていないようで、無事なのと喜ばれているのがわかって、俺も嬉しいね。

 まぁ、そんな事はともかく、西門に人が集まっていた事やモニカさんが来た事を質問。

 空を飛んでいるエルサが見えたから、モニカさん達が来たんだと思うけど、駆け付ける時間で考えると、人が集まっている西門に一緒にいたんだと思う。


 息を整え終えたモニカさんから、口早に魔物が街へ向かっている事を教えられる。

 ユノやエアラハールさんも、同様の事を伝えてくれた。

 やっぱり、あの男が言っていた事は本当だった……って事だね。

 モニカさん達は、俺に魔物の事を伝えたら驚くと思っていたんだろう、俺がただ納得するだけに留めていると、首を傾げていた。


「リクさんの方も、何かあったようね? でも、今はゆっくり話している時間はないわ」

「魔物が来ているんだよね?」

「えぇ。リクさんと考えた通りに、調査をしながら集まろうとしている魔物を倒していたの。……ほとんどユノちゃんとエアラハールさんが、だけどね」

「頑張ったのー!」

「一応、危険が低そうな魔物は、モニカ嬢ちゃんにも相手をさせたがの。……まさかユノ嬢ちゃんが、キマイラを遊ぶように倒すとは思わなかったのう」

「あははは……まぁ、ユノは特別でしょうけどね」


 一定以上の魔物が集結しなければ、付近の街へ襲い掛かる事はないだろうと予想していた。

 実際、黒装束の男はその条件も言っていたし、間違ってはいなかった。

 その予想をもとに、モニカさん達が調査をしながらも一定数へ達する事がないよう、魔物を倒していたんだろう。

 まぁ、ユノが遊びの延長で魔物を倒すのはいつもの事だから、もう驚かないけど、大活躍だったようなので、頭を撫でたらすごく喜んでくれた。


「魔物を倒すだけなら何も問題はなかったんだけど……フランク子爵も協力してくれて、フィネさんを始めとした数人を魔物討伐に充ててくれていたから。でも、少し前に集まっていた魔物が急に動き出したのよ」

「異変はすぐにわかったのう。大きな魔物もいるせいじゃが、今まで森付近でおとなしくしていた魔物が、急にルジナウムの街に向かって移動を始めたのじゃよ。幸い、数種類の魔物がいるおかげで、集団行動が上手くいっていないから、移動自体は遅いがの?」

「少し前……そうなんだね。それでモニカさん達は西門に?」


 もしかしなくても、俺が実験施設のような場所で、男を逃がさないように結界を張った時くらいからだろう。

 あれで繋がっていた魔力の線が途切れ、魔物達が一斉に動き出したんだと思う。

 どうやって集結させたのか、魔物同士が争わないのはなぜなのか、わからない事は多いけど……これが人為的に仕組まれた事だというのはわかる。

 おそらく、モリーツさんのような研究者が、今回の事を実現させる方法を使ったんだろう。

 開発したのか、発見したのかはわからないけど。


「えぇ、西門に駆け込んで、フランク子爵とギルドマスターを呼んでもらってね。幸い、リクさんの仲間と知られていたから、すぐに連絡が取れたわ。で、今は魔物を迎え撃つべく、西門に戦力を集中させているの。街にいる兵士だけでなく、冒険者や戦える人達は全員駆り出される事になっているわ。魔物が近付いているのは南からだけど、西門寄りだからね」

「ただのう……いささか心許ないのも正直なところじゃ」

「強力な魔物が、混じっているからですね?」

「そうじゃ。訓練された兵士や、それなりのランクになっている冒険者はともかく、低ランク冒険者や、ただ戦えるだけの者達は悪く言えば有象無象と言ったところじゃ。それで、どれだけ戦えるかじゃの。ゴブリン程度ならなんとかなるかもしれんが……」

「キマイラだけでなく、マンティコラースやキュクロップスもいたの!」

「マンティコラースにキュクロップス……」

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