第614話 ルジナウムの街へ急ぐ



「楽ちんなのだわー!」

「おぉ、これは中々……。ただ、壁にぶつかるから、勢いが削がれるね……」

「足側の結界を少し開けるのだわー」

「わかった」

「そこから、こうだわ!」

「風の魔法? って……うわあぁぁぁぁ!!」

「楽しいのだわー!」


 勢い込んで入った穴の中、飛び込みのような格好のまま、俺とエルサは氷の上を滑るスケート状態で移動していた。

 エルサが凍らせた部分の表面はツルツルで、結界がその上を滑っている……。

 これなら、匍匐前進をするより速いのは間違いないけど……穴の道はくねくねしているため、途中で軌道を変えられない俺は、さっきから壁に何度もぶち当たっている。

 結界があるから、痛くもなんだけど……飛び込んだ勢いが削がれているため、このままだと途中で止まってしまいそうだ。


 途中で止まったらどうしよう、と考える俺の言葉にエルサが指示。

 言われた通りに、足側……足首から先の結界を開くようにして、結界の形を調整すると、そちらに顔を向けて再びブレスを放つようにするエルサ。

 それは風の魔法で、ただ勢いよく風が吹き荒れるだけのようだったけど、それが凍った壁に当たる事でエルサが押されるようになったり、壁から跳ね返る風が結界を押し出すようにして、今まで以上に勢いよく滑り出した。

 推進力を加えた……という事なんだろうけど、ちょっと勢いが強すぎる!

 滑ったり、壁に当たるのは結界があるため、痛みとかはないんだけど、酔ってしまいそう……。


「……うっぷ……」

「ほら、さっさと到着したのだわ。すぐに外へ出るのだわー。なんなら、ここを破壊して出るのだわ?」

「……それは止めてくれ。すぅ……ふぅ……よし、行こう!」


 穴から飛び出た俺は、そのままの勢いで広場の壁へと突き刺さってようやく止まった……もう少し加減してくれよエルサ……。

 結界を解いて壁から体を抜くようにしながら立ち上がると、三半規管への異常のためか、少しふらついて乗り物酔いのような不快感。

 そんな俺を気遣う事なく、急かすエルサは、鉱山を破壊するなんてとんでもない事を言い始める。

 エルサならできるだろうし、そうした方が速いのはわかるけど……後々の影響が出るしブハギムノングの人達に迷惑をかけすぎるので却下。

 不快感を抑え込むように深呼吸して、出口へと向かって走り始めた。


「ん? 今何かいたような……?」

「魔物がいただけなのだわー。今のリクは暴走特急なのだわー」

「暴走特急って……俺は電車かよ……」


 坑道内を入って出口へ向かう中、途中で何かが見えた気がしたけど、エルサによるとただの魔物だったらしい。

 エクスブロジオンオーガだろうけど、今はそちらに構っているよりも、まずルジナウムの街へ急いで向かわないといけない。

 また改めて、調査に関する報告と一緒に、魔物討伐もしなくちゃな。

 エルサが俺の記憶から取り出したと思われる単語に突っ込みながら、薄暗い坑道を走る事数分、ようやく出口から差し込む日の光が見え始めた。


「あれ……こんなに早く外に出られるんだなぁ」

「実際には、そこまで深く潜ってはいないのだわ?」

「そうみたいだ。まぁ、魔物を警戒しながらだったから、急いで移動してたわけじゃないし、走ったりしていないからね」


 通常の徒歩で動くよりも少し遅めで、奥まで進んでいたから、思ったよりも深くは潜っていなかったのだと、今更ながらに実感する。

 とは言え、頭に叩き込んだ地図だと、それなりに奥へは行っているようだから、急いで走ったおかげで早く感じているのが大きいか。


「……うぅ、ちょっと眩しい……」

「早くするのだわー。ここで大きくなるのだわ?」

「急ぎたいけど、ここはちょっとな……一応、フォルガットさんにも伝えておきたいし、街の中を突っ切ろう」

「わかったのだわー」


 鉱山の外に出ると、今まで薄暗い中にいたためか、日の光が目を突き刺すようにも思えるくらい眩しい。

 日が落ちるにはまだ早い時間だからね。

 エルサに急かされ、この場で大きくなって飛び立つかと聞かれたけど、さすがに街から近すぎる。

 大きくなるくらいのスペースは、鉱山の出入り口付近にはあるんだけどね。


 ソフィーがまだ鉱山の中にいるし、捕まえた男だとか施設の事もあって鉱夫さん達か、警備している兵士さんへ一言くらいは言っておきたい。

 急く気持ちもあるけど、ほんの数分程度なら、エルサが全力で飛んでくれたらなんとかなるはず……。


「あ、ベルンタさん!!」

「ほ? リクかの……そんなに急いでどうしたのじゃ?」


 鉱山の入り口から街を突っ切るように走っていると、通りがかった冒険者ギルドの建物の外で、椅子に座って日向ぼっこをしている様子のベルンタさんを発見した。

 すぐに止まって声をかける。

 

「俺、今すぐルジナウムの街の方へ行かないといけないので、鉱山の方を任せます!」

「いきなり任せると言われてものう……」

「鉱山の中に、まだソフィーがいるので、詳しい事はそちらから聞いて下さい! あと、鉱夫組合の方に行って、昨日俺が言っていた場所で原因発見をしたと言えば、多分どうすればいいか考えてくれると思います! あと、人間が原因だったとも! 原因になったと思われる人物も捕まえているので、衛兵さんいも伝えてくれると助かります!!」

「わ、わかった。言われた通りにするかの。じゃが、人間が原因とは……?」

「すみません! 急いでいるので、詳しい話はソフィーから聞いて下さい!!」

「ソフィーというのは、一緒にいた嬢ちゃんじゃの? 何を急いでいるのかはわからんが、わかった」

「お願いします! それでは!!」

「あれ、リク様……?」

「それじゃ、俺は行くので! 失礼します!!」

「あ~リク様~、たまにはお話でも~」

「こりゃアルテ! 急いでいる者を引き留めるでない! 急ぎの用事じゃ、鉱夫組合へ急ぐぞい!」

「え、え? お爺ちゃん、お茶は……?」

「のんびりお茶を啜っている場合じゃないわい! Aランクで英雄のリクが焦る程の事じゃ、緊急事態じゃぞ!?」

「え~!?」


 すみません、この街の方はそこまで緊急事態じゃありません……。

 早口でベルンタさんにまくしたて、ソフィーの事とと鉱夫さん達へ伝える事、さらに鉱山の事をとりあえず任せておいて、冒険者ギルドからすぐに走り出す。

 離れていく途中、後ろからベルンタさんとアルテさんが騒いでいる声が聞こえたけど、答えている暇はないため、そのまま振り返らない。

 ブハギムノングは、とりあえず緊急事態ではないんだけど、俺が焦っている様子だったせいだろう、ベルンタさん達が勘違いしてしまったようだ。

 とりあえず、心の中で謝っておいて、実際に謝罪とかはルジナウムから帰って来た時にしようと思う。


「ふぅ……ここなら、大丈夫だろう。エルサ、頼むよ」

「了解なのだわー!」


 ベルンタさんと簡単に話した後、他の事には目もくれず街中を疾走して突っ切る。

 街の外へ出て、少し離れた場所まで来たところで、エルサに頼んで大きくなってもらう。

 いつもと違って、隠れられるような場所じゃないけど、街からは離れているから大丈夫だろう。

 大きくなったエルサに乗って、空へと急浮上。


 いつもゆっくり浮上しているエルサだけど、この時ばかりは急いでくれているようだ、ありがたい。

 少しだけ、抑えつけられるような感覚があるのは、急いで浮上している影響だろうね。



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