第609話 吹き飛ばされるソフィー



 俺の言葉を受けたソフィーは、威力を低い方を狙うつもりのようで、突っ込んだりせず、立ちあがり向かってくるエクスブロジオンオーガを注意深く見据え、振り下ろされる腕を避けていた。

 エルサは……まぁ、結界もあるし、エルサ自身は爆発の威力が高くても低くてもなんともなさそうだから、気にしていない様子だけど、ソフィーは違うからね。


 結界で防いでくれると信じていても、どうしても警戒してしまうかもしれないし、もし剣を突き刺した状態だと、結界で完全に前方からの衝撃を防ぐ事はできないから。

 俺なんて、剣が折れないように絶対突き刺したままで、爆発の衝撃とか受けられないしね。


「ギ……ギ……」

「このぉ! くっ! ……この衝撃は、やっぱりちょっと厄介だね」

「ギィ!」

「はぁ! ふぅ……エルサが防いでくれるとはいえ、急に横からリクの倒した奴が爆発した余波が来るのは、驚くな……」

「リク、もう少し加減するのだわー!」

「無茶言うなよエルサ……爆発は俺がやってるんじゃないんだし、倒したら勝手に爆発するんだから……」


 一体のエクスブロジオンオーガを倒して、すぐに後ろへ飛んで爆発に備える。

 ソフィーの方は、俺が倒した奴の爆発をエルサが結界で受け流しながら、目の前の威力の弱い爆発を耐えていた。

 広い場所とはいえ、エクスブロジオンオーガが密集しているため、ソフィーとあまり距離が取れなくて、どうしても爆発の影響が向こうへ行ってしまう。

 とはいえ、エルサから文句を言われてもなぁ……爆発するのは仕方ないんだし、どうしようもない。

 やっぱりまず凍らせてから、一体一体確実に溶かして爆発させる方が良かったかな?


 とは言え、それでも威力の高い爆発が起こると、こちらに有利となる部分もある。

 俺やソフィーはなんとかして衝撃に耐えたり逃したりしているけど、密集しているエクスブロジオンオーガはそうじゃないからね。

 実際今も、俺が爆発させたエクスブロジオンオーガの爆発した衝撃で、体勢を崩した奴をソフィーが倒していた。

 衝撃が強い分、向こう側への影響もあって、威力が弱い爆発の時よりも倒しやすい……戦いやすいわけではないんだけども。


「なぜだ……なぜお前達は爆発に怯まない……。一体で建物を爆発させるほどの威力なんだぞ!?」

「……そう言われても……ねっ! っと……」


 俺達が爆発を受けても、怯む事なく戦っている様子を、黒装束の男が愕然とした表情で見て叫んでいた。

 確かに爆発は、人間を軽々と吹き飛ばす威力があるし、近くにいる他のエクスブロジオンオーガすら巻き込んでいる。

 時折、誘爆のようになって爆発するのが厄介だけど、備えていれば耐える事ができるし、ソフィーの方はエルサのおかげで受け流す。

 男の方は、ある程度備えてはいるんだろうけど、何度か爆風に飛ばされて結界に体を打ち付けている事があった。


 まぁ、自分でけしかけておいて自分が影響を受けているのは、ちょっと考えなしのように思うけど、男の本来の考えでは、さっさと逃げる予定だったのだろうから、仕方ないのかもね。

 ともあれ、建物を破壊させる威力があろうとも、ここにはそんな破壊できる建物なんてない。

 ちょっと厄介なのは、割れたガラスが飛んで来る事だけど、最初の爆発で広場の端まで飛んでいて爆発する起点の近くにはもうないため、あまり影響がない。

 もっと威力が高ければ危険な事も多かったと思うけど、爆発で一番怖いのは破壊された物が衝撃で飛ばされ、それに当たる事。


 エクスブロジオンオーガが爆発しても、散らばるのはその体の破片だけで、ガラスのような硬質な物じゃないし、量も多くない。

 衝撃に吹き飛ばされる事に注意していれば、多分俺じゃなくても怪我する危険は低いんじゃないかな?

 ある意味、爆発に意味を持たせる事ができなくて失敗とも言えるけど……建物の中で爆発したら、瓦礫などの破壊された物が飛散して危険度は跳ね上がっていただろうから、場所が悪いとしか言いようがないね。


「……こうなったら……おい!」

「ギ……ギ……」

「何を……?」


 狭い坑道とかでなら、破片はなくとも爆発は厄介だっただろうなぁ……なんて考えながら、襲って来るエクスブロジオンオーガに対処していると、黒装束の男が自分から近い奴に叫んで呼びかけた。

 何か判別する方法があるのかは知らないけど、呼びかけたエクスブロジオンオーガは爆発威力の高い方のようで、声の出し方が他と違う。

 命令を聞くわけではないけど、大きな声がしたからだろう、男の方に振り向くエクスブロジオンオーガ。

 実験時に埋め込まれていたため、男を襲う事がないのは、離れて見る俺からは少し異様に思えた。


「くそがぁ! くらえ! っ!」

「な! ソフィー!」

「はぁ! む?」


 何をするつもりなのかと、エクスブロジオンオーガからの攻撃を避けながら観察していると、先程モリーツさんを突き刺した剣を、振り向いた奴へと突き刺し、両足で蹴り飛ばした。

 その反動を利用して、男は剣を引き抜くついでに、離れた場所へと着地。

 蹴り飛ばされたエクスブロジオンオーガは、そのままソフィーの後方へと飛ばされる。

 まさかエクスブロジオンオーガを突き刺すとは思わず、驚いた声を出してしまったけど、すぐにソフィーの方へと叫んだ。


「きゃあああ!!」

「だわ~!」

「ソフィー!!」


 俺が叫んだ時には遅く、目の前のエクスブロジオンオーガに止めを刺したところだったソフィー。

 しかも、ちょうどエルサが正面に結界を張ったため、後ろには備えられない。

 前後で爆発の衝撃を浴びたソフィーは、結界ごと吹き飛ばされる。

 悲鳴を上げながら飛ばされるソフィーと、緊迫感のない声を上げるエルサ。


「くそっ! ……受け止める方法は……やっぱり結界だ!」


 大きく飛ばされたソフィーは、放物線を描いて広場の端へ向かって吹き飛ばされている。

 咄嗟に、受け止める方法を考えて、浮かんだのが結界。

 ただ、今までの結界は壁を意識していたために、硬く強固なもの。

 当然そこに吹き飛ばされたソフィーが当たったら、土の壁にぶち当たるのと大差ない……というか、それなら今張っている結界に当たるのと変わらないからね。


 そう考えて、すぐに頭の中でイメージしたのは、柔らかい結界。

 羽毛のような……とまでは言わないけど、優しく受け止めるようなイメージで魔法を発動。

 柔らかさの主なイメージは、エルサのモフモフが一番に思い浮かんだけど、咄嗟の事だから詳しくイメージする余裕はない。

 むしろ、それでも浮かんだだけマシだろう。


「……っ!」

「だわ~あ~あ~あ?」

「……大丈夫……かな?」

「つ……っ」

「ソフィー!」

「くっ……だ、大丈夫だ。体が揺さぶられて、少しふらふらするが……」

「良かった……」


 ボフッという、布団に受け止められたような音……はしなかったけど、そんな風に見える受け止められ方をしたソフィー。

 吹き飛ばされて体が振れられたためか、ヨロヨロと立ち上がっているけど、怪我はない様子で安心した。

 エルサはむしろ楽しそうな声を出してたから、心配する必要はなさそうだ。



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