第608話 爆発威力の高いエクスブロジオンオーガ



 吹き飛ばされた格好のまま、背中から地面に倒れた状態で自分の状態を確認しながら周囲を見ると、ソフィーの方は壁の近くまで吹き飛ばされてしまったようだ。

 エルサが頭から浮き上がっているのを見るに、多分壁にまで飛ばされるのを止めてくれたのかもね。

 ……結界で受け止めたとかかな?


「爆発の威力が……上がっている?」

「くっ……ははははは! そのエクスブロジオンオーガ達は、全てではないが奴の作った爆発威力を増したのも混じっているはずだ! 今のは一体だが……全て倒すまで爆発の衝撃に耐えられるかな?」

「……モリーツさんが……そういえば言ってたっけ」


 確か、エクスブロジオンオーガの爆発威力を引き上げたとかなんとか。

 今までの爆発は多少の衝撃を受けるだけで、吹き飛ばされたりする程ではなかった。

 さっきのは……想像していたのと違ったから、思わず俺も吹き飛ばされてしまったけど……一応、耐える事はできるかな。

 でも、俺はともかくソフィーは……ちょっと厳しそうだね。


 爆発するたびに、壁の方まで吹き飛ばされてたんじゃ、たまったものではないだろうし……。

 衝撃そのもので怪我はしなくとも、吹き飛んだ際に体をぶつけて怪我をする事はありそうだ。

 壁際で爆発されて、体が壁……というか結界に打ち付けられたら、骨を折ったりしてもおかしくないだろうしね。


「ソフィーは、離れてて。ここは俺が……」

「待てリク。侮るなよ、私にも戦わせてくれ」

「でも……」

「問題ない……とさっき言っただろう? それに、私にはエルサが付いてくれているからな。――助かったぞ、エルサ?」

「仕方なしになのだわ……。一応、守ってやるのだわ」

「と、いう事だ」

「まぁ、それなら大丈夫か」

「何を暢気に話している! 行け、エクスブロジオンオーガ!」

「ギ……ギ……」

「ギィ、ギィ!」


 俺一人ならなんとかなると思い、一体目の爆発で吹き飛ばされて倒れていたエクスブロジオンオーガ達が、立ち上がって再びこちらへ向かって来ようとしているのを睨みつつ、背中で庇うように移動しながら後ろへ声をかけた。

 距離を離したうえで、俺が間に入っていれば爆発の衝撃で吹き飛ばされる事はないだろうからね。

 そう思ったんだけど、立ち上がったソフィーは俺の方へ歩み寄りながら、戦う意思を示すように剣を持ち上げる。

 ついでに、エルサに声をかけていた。


 エルサの方は仕方なさそうに返事をしていたけど、まんざらでもないような声。

 頼られるのが嬉しいのかもしれない。

 まぁ、今までのようにのんびり様子を見るだけでなく、エルサがちゃんとやってくれるなら、ソフィーも大丈夫だろう。

 ソフィーと二人で、改めてエクスブロジオンオーガを見据えると、結界を抜けるのを諦めた男が俺達を見ながら叫び、指示を出す。


 エクスブロジオンオーガの方は、命令を受け付けた風ではないが、声を上げて俺達へと向かって来る。

 叫んで命令したって、モリーツさんは指示を出すような事はできないって言ってたのになぁ。

 エクスブロジオンオーガが襲う対象からは除外されているようだけど……それだけだ。

 ……気分的なもので、自分が指示を出しているように見せたかったんだと思っておこう。


「それじゃ、行くよ!」

「あぁ! リクは右から、私は左から行く!」

「わかった!」


 大量にいるエクスブロジオンオーガ……さすがに正面から挑んで行くような事はせず、俺は集団の右から回り込むように動く。

 正面から行くと、囲まれる危険性もあるし、四方八方からあの強い爆発を受けたら、さすがに厳しそうだしね……怪我をするかどうかは微妙だけど。


「ギィ!」

「はっ! ……こっちは威力の低い爆発か。成る程ね……」


 固まっている集団の右側へ、ソフィーより早く回り込み、一番近かった一体を斬り倒す。

 すぐに爆発したけど、それは威力が低い今までの爆発だった。

 推測だけど、爆発する威力の違うエクスブロジオンオーガの見分け方は、声の出し方……だと思う。

 威力の弱い方は、意思を感じる声の出し方なのに対し、威力が高い方は苦しむような声というか、思わず漏れているだけの声、なのかな。

 これも、モリーツさんが施した実験の影響なのかもしれない。


「ギ……ギ……」

「リクには負けていられんな。とはいえ、一刀両断とはいかないが、私にだって戦える相手だ! はぁっ!」

「ギ……」

「まだまだ……これで! どうだっ!」

「ギ……ギ……ギ……」

「ソフィー、そいつは……!」

「任せるのだわー。結界、だわ」


 左から回り込んだソフィーは、声を出しながら俺と同じように、一番近いエクスブロジオンオーガに剣を振る。

 こちらも一振りで体を両断……というわけではないが、まず片腕を切り落とし、一瞬だけ怯んだエクスブロジオンオーガに対し、下がっていた剣を斜めに持ち上げるついでに切り上げて、お腹から胸にかけて斜めに斬る。

 それだけで致命傷というには、少し浅かったからなのか、さらに振り上げた剣を横に薙いで首を斬り離した。

 声を聞く限り、威力の高い方のエクスブロジオンオーガだと気づき、ソフィーへと声をかけようとするのを、エルサの声が遮る。


 瞬間、他のエクスブロジオンオーガを巻き込みながら爆発。

 その威力は、やはり強い方だったようで、備えていたのと少し距離があるおかげで、踏ん張っていられた俺と違い、付近のエクスブロジオンオーガはまた、吹き飛ばされている。

 ソフィーの方は……?


「ありがとう、エルサ」

「リクに言われたから、仕方なしになのだわ……」

「ふっ、素直じゃないな?」

「ソフィー程じゃないのだわー」

「……大丈夫なようだね」


 エルサが結界を張ってくれたようで、衝撃はソフィーまで届いていないようだった。

 衝撃に踏ん張っている時に見た様子だと、結界で受け止めるのではなく、流線型というのかな? 丸い形の結界をソフィーと至近距離のエクスブロジオンオーガとの間に発動させ、受け流しているようだった。

 成る程……受け止めるではなく、受け流すか……。

 あの爆発を目の前で受けても、結界が壊される事はないだろうけど、受け流す方が楽そうだね。


「ば、馬鹿な…あの爆発を目の前で受けて何もないだと……?」


 逃げられない黒装束の男は、俺だけでなく至近距離で爆発を受けたソフィーも、爆発の衝撃を受けて何事もなく立っているのに驚いていた。

 結界が透明で見えないため、何かで防いだというのが、離れていてわからないんだろう。

 近くで見ていてもわからないかな?

 ともかく、驚いているあいだに、さっさとエクスブロジオンオーガを倒すとしよう。


「ソフィー、エクスブロジオンオーガの声に注意して! 爆発の威力が大きい奴は、多分声の出し方が違うから!」

「了解した。――だそうだ、エルサ?」

「なんでもいいのだわー。目の前にいるのを倒せばいいのだわ」

「エルサはそうかもしないが……私はそうはいかないから……なっ!」

「ギィ!」


 声に注意するようにソフィーへ言って、体勢を立て直そうとしておるエクスブロジオンオーガの一体を、剣で突き刺す。

 このエクスブロジオンオーガは、威力の低い方だったらしく、さっさと剣を抜いて爆発に備えたけど、大した事はなかった――。



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