第610話 折れる剣
「やぁっ! っと……そのまま、少し休んでて。エルサに結界を張ってもらえば、そっちに衝撃が行く事もないだろうから」
「……わかった。すまない……」
「エルサ、ソフィーを頼んだよ?」
「わかったのだわ。私を吹き飛ばしたあいつを許しちゃいけないのだわー!」
ソフィーの方を見ていた俺に、襲い掛かって来たエクスブロジオンオーガを、剣で斬って倒しつつ、すぐにその場から離脱。
爆発の衝撃を利用して、少し大きめに飛んでソフィーの近くに着地して、声をかける。
どうやら、目が回ったとか、脳が揺れたとかが原因なのか、立ち上がってもまだ足元がおぼつかないソフィー。
このまままたエクスブロジオンオーガと戦うのは危険だろうから、その場で休んでもらう事にする。
柔らか結界は張ったままだから、後ろ側は大丈夫だろうし、正面はエルサが結界を張れば近くで爆発されても大丈夫だろう。
謝るソフィーに頷きながら、エルサにも声をかけて、体勢を立て直しつつあるエクスブロジオンオーガへと向かう。
さすがに、そろそろ半分くらいの数になったかな。
というかエルサ……ソフィーと一緒に吹き飛ばされて憤慨しているようだけど、結構楽しそうな声を上げてなかったかな? まぁいいか。
「なんだ……? 吹き飛ばされていたはずの女が、途中で止まった? 何が起こっているのだ……」
「お前には、教えてやらないっと! ふっ!!」
「ギィ!」
爆発の衝撃でしりもちをつきながらも、ソフィーの方を見て先程の様子に驚いている男。
結界を知らなければ、透明で見えないから何が起こったのかわからないらしい。
とはいえ、親切に教えてやるような相手じゃないし、ゆっくり話す余裕もないため、大きく声を出しながら近くのエクスブロジオンオーガへと斬りかかる。
そのエクスブロジオンオーガは、爆発威力の小さい方だったらしく、小爆発が起こっただけなので、すぐに別の方へと剣を振り上げた。
「あっ!」
「ギ……ギ……」
しかし、集中が途切れたためか、それとも限界を超えて酷使し過ぎたのか……エクスブロジオンオーガのお腹を斬り裂くはずだった剣は、パキッという音を立てて真ん中から折れてしまった。
「くそっ!」
一瞬動きの止まった俺に対し、大きく腕を振りおろすエクスブロジオンオーガ。
すぐに横へ体ごと飛んで離れる事で、避けた。
「剣が……」
「はっはっは! どうやら、ここまでのようだな! いかにAランク、英雄と呼ばれようとも、剣がなければどうする事もできないだろう! さぁ、エクスブロジオンオーガに囲まれて、まとめて爆破するがいい!」
距離を取って、半ばからポッキリと折れてしまっている剣を見る。
同じく俺を見ていた黒装束の男は、俺が頼みの武器を使えなくなったと考え、大きく笑ってエクスブロジオンオーガへ指示を出すように、叫んで俺を示した。
まぁ、エクスブロジオンオーガ自体は、やっぱり命令を聞くわけじゃないんだけど、近くにいる標的が俺だけだからか、囲むようにして距離を詰め始めた。
さすがに、前後左右を囲まれて至近距離で威力の高い爆発をされたら、危ないかもね……。
それはともかく……
「なんて事だ……剣が折れるなんて……これで、これで……モフモフ禁止される!」
「はぁ……」
「リクは少しくらい禁止してもいいのだわ……」
わなわなと震える俺。
エアラハールさんとの約束で、剣を折らないように戦うやり方を身に付けるために、もし折ってしまったらモフモフ禁止になってしまう。
後悔するように叫ぶと、離れた場所からソフィーの溜め息や、エルサの呆れた声が聞こえた気がするけど……気にしない。
というかエルサ、モフモフが禁止されたら、風呂に入れて洗ってやる事もできないんだからな?
「何を言っている! やれ、エクスブロジオンオーガ!」
「……はぁ。こうなったら仕方ないよね。ちょっと荒っぽくなるけど……ソフィー、そっちの結界を解除するから、気を付けて」
「……これは……巻き込まれる、か?」
「リクが何をやっても、とりあえず全力で結界を張るのだわ!」
「巻き込むと言う程ではないと……いや、巻き込むとも言えるのかな?」
俺がワナワナと震えている間にも、またエクスブロジオンオーガに指示を叫ぶ黒装束の男。
やっぱり命令を聞くわけじゃない様子だけど、それはともかく、剣がなくなった以上別の方法で戦わないといけない。
穴を通る時の事を思い出して、ちょっとしたやり方を思いついてしまったけど、少し荒っぽいため一応ソフィーにも注意を促しておく。
巻き込むとか、酷い事にはならないはずだけど……エクスブロジオンオーガが爆発したら、ヨハが無効に行くのは間違いないし、巻き込むと言っていいのかもしれない。
ともあれ、だ……折れて使い物にならなくなった剣の、残っている部分を鞘にしまい、イメージを開始。
「体を覆うように……息はしないといけないから、ちょっと大きめかな? それと、隙間は開けておこう」
「ギ……ギ……ギ……」
「ギィ! ギィ!」
爆発威力の高い奴も、低い奴も、混在して俺をぐるりと囲み、包囲を狭めて来るエクスブロジオンオーガ。
残りは大体二十体もいないくらいか……これが一度に爆発したら、衝撃だけでも結構酷い事になりそうだね。
囲まれていたら前後左右からの衝撃で、体が翻弄されるだろうし……お互いの衝撃が相殺し合ってくれればいいんだけど、そんな都合のいい事にはなりそうにない。
エクスブロジオンオーガの様子を窺いながら、魔法を発動させるためにイメージを固めて行く。
使おうとしている魔法はそんなに難しいものじゃないし、よく使っているのだから失敗はしないだろう。
「ふははははは! 剣も折れ、もう一人は動けない! いかなAランク冒険者といえど、どうしようもあるまい!」
黒装束の男は、ソフィーが動けなくなったと見て勝ち誇っている。
確かに、剣が折れてしまったから直接戦う戦力は低下したように見えるだろうけど……元々手加減用の剣だったしなぁ。
ため息が出そうになる程、勝手な事を言っている男の声を無視して、イメージに集中する。
んー……息をしないといけないから、十センチ以上の空間は必要だね。
それと、全力で飛ぶエルサに乗った時の応用で、少しだけ隙間というか穴のようなものを作っておかないと……。
爆発の衝撃が入り込む可能性もあるだろうけど、針の穴のように小さな穴を一か所じゃなく、色んな箇所に散らばらせておけば大分軽減されるだろう。
よし……イメージはできた、あとは発動させるだけだ。
「そろそろ危ないのではないか? そら、行け! エクスブロジオンオーガ!」
「ギ……ギ……ギ……」
「ギィー!」
「……結界!」
「ギィ?」
男の声に反応したのか、エクスブロジオンオーガが一気に距離を詰めて来る。
命令というわけではなく、ただ単に声によって勢いが付いた……という感じっぽいね。
迫って来る様子を見ながら、魔法を発動……使ったのは、頼り過ぎておなじみになっている結界だ!
「よし、大丈夫そうだね……」
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