第597話 穴の中へ



「……服が切れているな。見ている限りでは、リクに攻撃を当てたエクスブロジオンオーガはいなかったから、確かに風の魔法を使ったのだろう」


 不可視の刃だから、離れて見ているソフィーにはよくわからなかっただろうと思い、ソフィーへ腕を持ち上げて切れた服を見せる。

 手首まである服の袖は、数か所が切れており、魔法が当たった事を証明していた。

 威力が弱くて鋭い刃ではなかったんだろう、切れると言うよりも破れると言った方が正しいかもしれないけど。

 アルネ達だったら、もっと鋭く剣で斬ったのと似たような感じになったんだろうね。


「魔法を使って、意識がなくなっても爆発しない……しかも肌が緑……これって」

「リクが聞いた特徴と一致するな。もしかすると、これが本来のエクスブロジオンオーガなのか?」

「どうなんだろう……? 他の赤みがかった肌の方も、爆発するからエクスブロジオンオーガなんだろうけど……爆発の威力も鉱山じゃなければ危険、という程でもないし」

「そう、だな……だが、実際に別の種類と言える程の違いだが……」


 緑のエクスブロジオンオーガは、魔法を使い、意思の力で爆発するから瞬時に決着を付ければ爆発しない。

 大して赤いエクスブロジオンオーガは、魔法を使わず、意思の力以外にも爆発するため、爆発しないように倒す事はできないに等しい。

 突然変異とか、色違いによる差異とも言えるかもしれないけど、どちらが変異でどちらが正しいのか……。

 いや、フィネさんから聞いた話や、最初に発見されていたのは緑の方だから、そちらが正しいんだろうけど。


 でもそれにしては、俺達が鉱山に入ってから赤い方ばかり遭遇していた。

 突然変異だと、そんなに数が多くなりそうにないから、違うんだろうし、色違いだとしても赤い方とばかり遭遇する理由がわからない。

 もっと混在しててもいいはずだからね。


「これは、やはり無理にでも穴の向こうを調べる必要があるかもしれないな」

「……そうだね」


 倒れたままのエクスブロジオンオーガから視線を外し、穴の方へと向けるソフィー。

 このエクスブロジオンオーガは、間違いなく穴を通って出て来たのだから、向こうには何かがある可能性が高くなってきた……のかもしれない。

 これだけ頻繁に、エクスブロジオンオーガが通り道として使っているうえに、今までと違う事があれば怪しさ倍増だね。


「それじゃ、予定通り向こうへ行く事にしよう。エルサは、もう食べ終わったの?」

「あぁ。満足したみたいだ」

「お腹いっぱいなのだわぁ」

「そのまま寝ないでくれよ? 穴を取っている時にエクスブロジオンオーガが来たら、結界を任せるからな?」

「わかってるのだわぁ。そのくらい昼飯前なのだわー」

「……それを言うなら朝飯前だろ……しかも昼は今食べたばかりだし」


 予定通り、穴の向こうへ行くため準備を開始する。

 とは言っても、結界の形をイメージするだけだけど。

 エルサの食事が終わっている事を確認し、声をかける。

 満腹になって人の頭にくっ付いてたら、寝ている事が多いから、そうならないためだね。


 エルサに頼る部分もあるから、今寝られると困る……というか寝ていたら起こしてたところだ。

 妙に俺の記憶から言葉を引っ張って、気楽に言うけど、使い方というか微妙に間違っているのがエルサらしい。

 ともかく、穴へと近付いて結界を発動させ……。


「あ、リクちょっと待つのだわ」

「ん?」


 穴の中に体を潜り込ませ、結界を発動させようとした直前で、後ろからエルサの声で止められた。

 どうしたんだろう?


「結界で完全にふさいだら、その外へ私が結界を張れないのだわ。結界は完全に遮断する事を目的にしている魔法だからだわ。魔力が通らないのだわ」

「あぁ、そうか。だったら、俺達を完全に包むんじゃなくて、後ろの方は開けておこう」

「ちょっと通りが悪くなって、発動に時間がかかるけどそれでいいのだわー」

「時間がかかる?」

「魔力を迂回させないといけないのだわ。けど大丈夫なのだわ。数秒程度の誤差なのだわー」

「それなら大丈夫か」

「……魔法の使えない私にはわからない話だな。まぁ、リクの魔法は人間の魔法からもかけ離れているが」

「そうかな? まぁいいや。それじゃ、結界!」


 魔力といえど、結界で完全に塞いだら通り道すらなく、外側で魔法を使えないって事か。

 そういえば、魔力溜まりから漏れ出す魔力というか、気配というか……そういったものも結界で遮る事ができるから、そうなってしまうのも当然だろうね。

 魔力は、空気のように見えなくともちゃんとそこに存在するものなのだから。

 匍匐前進のような格好で、前に俺、後ろにソフィーという並びを考えて、ソフィーのさらに後ろを開ける事で、魔力の通り道を作る事に決めた。


 前方はエクスブロジオンオーガと接触する可能性のある部分で、しっかり塞いでおきたいから。

 数秒のタイムラグのようなものができるようだけど、その程度なら問題ないだろうと、結界をイメージ通りの形になるよう気を付けながら、発動した。

 話が分からないと言っているソフィーは、魔法を使えないのだからある程度は仕方ないかなと思う。

 というより、俺自身もわかっていない事が多いからね……ちゃんと勉強した方がいいかもしれない。

 アルネあたりに教えてもらおうと一瞬だけ考えたけど、興奮して話が長くなりそうだから、フィリーナやモニカさんとかが適任そうだね。


「あ、明かりはどうしよう……?」

「仕方ないのだわー。暗いのは私もあまり好きじゃないのだわ」

「おおう。ありがとう、エルサ」

「……別に、リクのためじゃないのだわ。ただくらいのが嫌だっただけなのだわ」

「く……モフモフが……」


 穴の中に潜り込み、結界を発動していざ進もうとしたところで気付く。

 今はまだ入り口付近で、俺やソフィーの体で遮ってはいても、広場の方から多少の明かりが差し込んでいる。

 そのため、かなり暗くはなっていても何も見えないという程じゃない。

 けど、穴の奥までは届かないので、視線を向けた先ではどこまで続いているのかもわからないくらい、黒い暗闇が続いていた。


 その事に気付いたあたりで、後ろにいるソフィーから俺の頭にコネクトしたエルサが、以前地下通路を通る時にやってくれた明かりを灯してくれた。

 頭にくっ付いているから見えないけど、エルサの目から光線が出ているような……? いや、ここはあまり気にしない方がいいか。

 エルサは俺と同じでイメージをもとに魔法を使うから、どこから光を放ってもおかしくないだろうしね。

 お礼を言うと、照れ隠しのような事を言うエルサを撫でたいけど、狭いから手を自由に動かせない……後でしっかり撫でてあげよう、モフモフも堪能したいし。

 自分の頭から気持ちの良い感触が消えて、寂しそうに後ろで呟くソフィーの事は気にしない。


「随分、奥まで続いているのだな。ん……中々、こうして進むのも疲れるものだ」

「そう、だね……剣を振ったり、戦闘する程ではないけど、それなりに運動している感じだね……」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る