第567話 爆発への違和感



「あ」

「まぁ、こんなもんじゃろう」


 そんな事を考えているうちに、左腕を振り上げたエクスブロジオンオーガの首をさっさと跳ね飛ばすソフィー。

 まぁ、右腕がなくなってさらに動きが鈍っていたようだし、ソフィーなら止めを差すのも簡単だっただろうね。

 首と胴体が分かたれた瞬間、頭と体がそれぞれ爆発。

 その爆発で飛び散ったエクスブロジオンオーガの破片も、難なく距離を取って当たらないソフィー。


 爆発するとわかっていたから、剣を振った後すぐに距離を話すように後ろに飛んでいたからね。

 でも……。


「うーん……」

「どうしたんじゃリク?」

「いえ……その……エクスブロジオンオーガが爆発する時なんですが……」

「ふぅ。まぁ、こんなものかな。やはり、大した魔物ではないんだろうな。……爆発する事を除いたら」

「一仕事したのだわー。おやつを要求するのだわー」

「もちろん、わかっているぞ。ほら」

「おーなのだわ。……モキュモキュ、やっぱりキューは美味しいのだわー」

「あぁ、お疲れ様、ソフィー。……エルサ、食べ過ぎるなよ?」

「わかってるのだわー」


 エクスブロジオンオーガが爆発する瞬間の事なんだけど、少し気になった事があったので、エアラハールさんに話そうと思った時、結界を解いたエルサとソフィーの声が聞こえた。

 約束通り、ちゃんと結界を張ってくれたエルサに、ソフィーがキューを取り出しておやつとしてあげてる……。

 もしかして、エルサが何も言わずにおとなしくソフィーにくっ付いてるのって、キューをご褒美にあげるとかなんだろうか……? エルサ、ドラゴンとかは関係なく、キューがあれば簡単に釣れそうだしなぁ。

 それはともかく、エルサに一応の注意をしつつ、エアラハールさんとソフィーに気になった事を話す。


「えっと……エクスブロジオンオーガが爆発した時、微かにですけど、赤く光った気がしたんです」

「ふむ……」

「まぁ、爆発するからな。赤く光ったのは、そのための予兆のようなものなんじゃないか?」

「多分、それはその通りなんだと思う。魔法を使う時も、魔力を変換する過程でその色が変わったりするからね。多分、魔力が反応して爆発してるんだと思う。けど……それだったらなんで頭と胴体が切り離されたのに、両方爆発したんだろう?」

「単純に、体の中にある魔力が反応したんじゃないのか? 頭部にも、魔力ぐらいあるだろうしな」

「それはそうかもしれないけど……」


 微かに光ったように見えた、エクスブロジオンオーガの体。

 自分で戦っていた時は、剣を折らない事へと意識を向けていたためにわからなかったけど、離れて落ち着いて見てみると、確かに光っていた。

 それ自体は、ソフィーが言った通り魔力反応とも思えるから、不思議じゃないんだけど……特に気になったのは、頭部が体と切り離されていたにもかかわらず、両方爆発した事だ。

 魔物だからなんとも言えないけど、通常の生き物だと頭の中にある脳から信号を送って、体が反応する。


 先程腕を斬り落とされても爆発しなかったのは、まだエクスブロジオンオーガの意思が戦おうとしていたからだと考えたけど……だったら、頭を切り離された場合、頭部が爆発しても体は爆発しないと思うんだ。

 頭からの伝達が完全に、断ち切られているという事だからね。

 ソフィーは、俺が何に疑問を感じているのかわからない様子だけど、エアラハールさんの方は顎に手をやって考え込んでいる様子。

 エアラハールさんには、俺が疑問に思っている事が伝わっているようだ。


 お互い、ソフィーの戦いを見て腕がなくなっても爆発しないエクスブロジオンオーガを見て、疑問に感じていたからかもしれない。

 ソフィーは戦いに集中していたから、そこまで意識が回っていなかっただけなんだろうね。


「ふむ……何か仕掛けがあるのかもしれんのう……」

「そうですよね? 体と頭部が切り離されても、両方が爆発する理由……」


 エアラハールさんも、頭部が切り離されているのになぜ体の方も反応していたのか、気付いたようだ。

 仕掛けか……この鉱山にいるエクスブロジオンオーガが特殊なのか、それとも元々そういう性質を持つだけなのかはわからない。

 皆エクスブロジオンオーガを見るのは初めてだし、鉱夫さん達もそういう知識があるわけじゃないからわからない事だ。

 ともかく、解けない謎は一旦隅に置いておき、ひとまず目的の場所へと進む事にした。


 ここでこのまま考え込んでても、答えが出る事じゃなさそうだしね。

 道中は、俺やエアラハールさんが何を疑問視しているのかわからず、はてなマークを頭に浮かべたソフィーに説明しながら進んだ。

 すぐに理解してくれたソフィーも、俺と同じようになぜなのか考え込んだけど、結局答えは出なかった。


「これは、狭いのう……」

「そうですね……」

「モニカがいたら、少し厳しかったかもしれないな」


 目的の場所近く。

 一段と狭くなった道をゆっくり進みながら、エアラハールさんが呟いた。

 道幅は本当に狭く、天井も低い。

 身長が高い方とは言えない俺でも、頭が当たりそうで少しだけ前かがみになっている。


 横幅は、人ひとりがギリギリ通れるくらいで、少し腕を動かしただけでも壁に当たってしまうので、ここでは剣を使って戦ったりはできないだろう。

 良くて、突きを放つくらいだろうけど……それもかなり窮屈な格好になるから、力を込めるのは難しそうだね。

 俺やエアラハールさんの後ろで呟いたソフィーは、細身だし女性だしで難なく歩けるようだけど……多分、モニカさんの事を言っているのは、胸部の事だろうと思う。

 横にならないと通れないような場所もちらほらあるので、その時あの豊かな胸がひっかかるとか言いたいんだろうなぁ、とは思うけど、さすがに言及したりはしない……後でモニカさんに知れたら怒られそうだしね。


「この先に、酒場の人が言っていた場所があるらしいです」

「そのようじゃの。しかし、迷ったとはいえここを通ったのかの? これだけ狭い道なのじゃから、通りはしないと思うのじゃが……」

「そうですね……鉱夫さん達は体格もいいので、その人が通ろうとするともっと窮屈でしょうし……」


 迷っていたとはいえ、通るのが厳しそうな道をわざわざ通ったりはしなさそう。

 まぁ、焦っていたりすると、人ってなぜそんな事をしたのかと後になって思うような行動をする事もあるから、もしかするとそれなのかな?


「あ、広い場所に出ますね。一旦、そこで休憩しましょう」

「そうじゃの。近くに魔物はおらんようじゃし、狭い場所を歩き続けるのも疲れたわい……」

「あぁ、わかった」


 目線の先に、ぽっかりと空いた穴のように広い場所が見えた。

 確か地図では、そこからさらに狭い道があって、そこからエクスブロジオンオーガが来たという目撃情報だったはずだ。

 狭い場所を歩くのは、姿勢が自由に取れなくて体が固まったりもするから、とりあえずその広場で少しだけ休憩しよう。

 ソフィーは多少余裕があるから、平気そうだけど……年齢の高いエアラハールさんは疲れてるみたいだしね。


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