第566話 ソフィーも戦う



「……でもっと! 避けてばかりもっ! いられないっと! ……よし、次はお前だ! てや!」

「ギッ!?」


 前後左右、それぞれ道具や腕を使って繰り出されるエクスブロジオンオーガの攻撃を避けながら、一体へと狙いを定めて、刃筋を通す事に意識を集中させつつ、斬りつけた。

 エクスブロジオンオーガの攻撃は、数が多いためにあらゆる所から襲い掛かって来るけど、頭上から来る事がないのは楽だったね。

 一番死角になる所だから、そこへと注意を向けなくていいのはエクスブロジオンオーガが小さいためだ。

 まぁその分、振り下ろされるツルハシとかは、丁度俺の心臓部分辺りの高さなんだけど……当たったら痛そうだなぁ。


 俺が斬りつけた奴は、さっきの奴と同じく、短い悲鳴を上げて再びポンッ! と軽い音を立てて小規模の爆発。

 今度は深手と言える程ではないのに爆発したね……これが、危機を感じたら爆発するって言われてた事かな。

 俺が斬れたのは、エクスブロジオンオーガの肩口を浅く斬っただけだ。

 攻撃を避けながらだから、あまり深く斬りつけられなかったのが理由だけど、それでも爆発するとなれば、確かに鉱夫さん達は爆発しないようにするのも苦労するだろう。


 というより、どうあっても爆発するように仕向けられてるような気がするのは、俺の気のせいなんだろうか……?

 いや、余計な事を考えずに、今は目の前のエクスブロジオンオーガを倒す事に集中しないとね。



「ふぅ……」

「とりあえず、問題はなかったようじゃの」

「こちらは何も来なかったぞ。お疲れ、リク」


 エクスブロジオンオーガを全て倒し終えて結界を解除し、一息吐く。

 俺の様子を離れた場所から見ていたエアラハールさんや、周囲の警戒をしてくれていたソフィーも近付いて来て声をかけてくれた。


「一応、剣を折らずには済んだようじゃの」

「まぁ、なんとかなりました。とは言っても、確実に相手を倒すまではできなくて……少し深めの傷を負わせるのが精一杯でした」

「最初はそんなものじゃろう。力任せに振らず、刃筋を通す事を意識しておったようじゃしの。おかげで、深く踏み込んだりはしていなかったようじゃが……まぁ、エクスブロジオンオーガが爆発するという性質に救われた形かの?」

「そうですね……もっと頑張ります!」

「うむ。ともかく、反省は帰ってからじゃ。邪魔者も排除したわけじゃし、さっさと移動するかの」

「はい」


 剣が折れなかったのは本当に良かった。

 刃筋を通す事を意識してはいたけど、結局爆発するのに任せて倒すまではできなかったのが悔やまれるけど……それは宿へ戻ってから反省だね。

 エクスブロジオンオーガではなく、他の魔物が相手だったらもっと苦労してただろうなぁ……と考えつつ、元の道へと戻って調査目的地への道を進もうとする。

 と、その時広めの一番進もうとしていた道に近かったソフィーが足を止めた。


「待て……何か、聞こえないか?」

「ん?」


 俺やエアラハールさんを止めて、道の奥を鋭い視線で見ながら、耳を澄ませるソフィー。

 同じく耳を澄ましてみると、道の奥から何かが聞こえてくる。


「……足音?」

「のような音、だな。段々近付いて来ているような気がする」

「一人……いや、一体といったところかの」

「魔物なんでしょうか?」

「絶対とは言えんかもしれんがの。じゃが、ワシ達が進もうとしていた道は、鉱山の奥へと続く道じゃ。そちらから来るのじゃから、鉱夫という可能性は低かろうの」

「確かに……」


 足音のようなものが聞こえるのは、俺達が進もうとしていた道……つまり、鉱山の奥で調査をしようと考えていた目的地の方からという事だ。

 今はほとんど、鉱夫さん達も鉱山の中へ立ち入ってはいないようなので、そちらから人間が来るというのは考えにくい。

 エアラハールさんの言う通り、魔物だろう。


「リク、ここは私がやる。一体だけなら、なんとかなるだろうしな」

「わかった。気を付けてね」

「なぁに、先程も警戒しながら見ていたが、あの程度の鈍重な動きでは負けたりはしないさ」

「まぁ、ソフィーならそうだよね」

「油断は禁物じゃぞ?」

「はい、わかっています」


 こちらへと近付いて来る音は、エクスブロジオンオーガ一体が出している音と判断。

 それならとソフィーが戦う事になる。

 結界はエルサがいるから大丈夫だし、さっき戦った感じではそこまで強く感じなかったし……特に動きが遅いから、素早い動きをするソフィーなら簡単に倒せるだろう。

 まぁ、爆発で飛んできたエクスブロジオンオーガの破片で、怪我をしないとも限らないけど、それも軽い怪我だろうし、何かあれば治癒魔法で治せばいいしね。

 もしもの場合はエルサもいるんだから、滅多な事にはならないね。


「……来たな。エルサ、頼むぞ」

「わかったのだわー」

「ギィ!?」


 しばらく、道の角で息を潜めて魔物が近付いて来るのを待つ。

 すぐそこまで足音が近付いて来るまで待って、ソフィーが動き出した。

 角から姿を出したのは、やはりエクスブロジオンオーガで、俺達には気づいていなかったようで、急に前に出てきたソフィーに驚いている。

 エクスブロジオンオーガが驚いて声を出した瞬間、エルサの結界が発動。


 透明だから、外にいる俺やエアラハールさんからもソフィーの事が見えるけど、内部からの音は全く聞こえなくなった。

 なんとなく、目の前にちゃんんといるはずなのに、立体的な映像を見ている感覚で少し不思議な感じだ……。

 ソフィーやエアラハールさん達も、さっき俺が戦う場面をこういう感覚で見ていたのかな?


「お、ソフィー嬢ちゃんが動いたの」

「ですね。エクスブロージオンオーガは……驚いているせいか、反応が少し鈍いですかね?」

「それもあるじゃろうが、元々あれくらいの速度でしか動けないんじゃろう。リクと戦っている時もあんなものじゃったぞ?」

「そうなんですか……」


 結界の中からは全く音がしないが、動きはわかる。

 ソフィーから距離を詰め、剣を大きく振り上げた。

 対してエクスブロジオンオーガは驚いていたためか、持っていたスコップを持ち上げてソフィーへと向けるのに、手間取っているようにも見えた。

 エアラハールさんが言うには、俺の時もあれくらい鈍い動きだったらしい。


 やっぱり、近くで実際に戦う時と、離れた場所で見るのとでは感じ方が違うんだなぁ。

 当然、ソフィーの動きに対して、そんな鈍い動きで間に合うはずもなく、あっさりとエクスブロジオンオーガはスコップを持っていた右腕を、肩のあたりから切り落とされた。

 ……あとは、爆発して終了かな?

 というか、俺もあれくらいよく斬れる剣が使いたい……。


「あれ?」

「リクの時と違って、爆発せんのう? まだ、戦う意思が十分なのかの?」


 俺と戦った時と違い、まだ爆発をしないエクスブロジオンオーガ。

 さっきは、深手と言える怪我を負わせたら即座に爆発していたのに……と思って首を傾げていると、エクスブロジオンオーガの方がソフィーを睨んで、残っている左腕を振り上げようとしていた。

 多分だけど、まだ負けると考えたりしておらず、ソフィーをどうにかしようという意思があるために爆発しない……とかかな?

 俺が斬ったのは、お腹とか首元で腕を攻撃はしなかったから、もしかするとそれもあるのかな。

 ちょっと、爆発するまでの条件が曖昧だな……いや、エクスブロジオンオーガ自身の意思が重要なのかもしれないけど。



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