第565話 エクスブロジオンオーガとの戦い



「まずは俺が角から様子を見るよ。エクスブロジオンオーガがいる場所の空間を把握して、結界をどれだけのものにするか決める必要があるから」

「わかった。それでは、私は他の場所から別のが来た場合に備えて、周囲を警戒しておこう」

「リク、わかっておるな?」

「はい。魔法は結界だけ、ですね。倒すのはこの剣で……ちょっと自信がありませんが、何とかやってみます」

「うむ。まぁ、聞いた話じゃと爆発する以外は大した魔物じゃないようじゃしの。剣を折らずに使えるかどうか以外は、問題あるまい」

「そうですね」


 ボロボロの剣は、ちょっと横から強めの衝撃を与えるだけでポッキリと折れそうなくらいだ。

 剣でエクスブロジオンオーガを斬ろうとしても、しっかり刃筋が通っていなければ同じく折れるだろう。

 しかも、闇雲に振ってもし坑道の壁に当たったりしたら、そちらでも当然折れてしまう。

 全く使わないで……鉱夫さん達でも倒す事だけ考えれば、あまり苦労しない相手らしいから、それこそ素手で戦う事もできるだろうけど、それじゃ訓練にならないしね。


 後ろの事はソフィーに任せ、剣を抜いて構えながら、角へと近付きエクスブロジオンオーガがいるだろう通路をソッと覗き込んだ。

 というかこの剣、刃こぼれもしているから鞘から抜くのですら、妙な引っかかりがあるなぁ……抜いたり収めたりするのでも折れないかと心配だから、気を付けよう。


「……一、二……五体か……道は大きそうだし、固まっているから全部結界で包むのは簡単そうだ」


 覗き込んだ先の道では、俺達のいる方へ背を向けている魔物が五体、固まっていた。

 エクスブロジオンオーガは、俺が以前に見た事のあるオーガよりも小さく、肌の色も違う。

 小ささは話に聞いていた通りだね。

 肌の色は……薄暗いからはっきりとは見えないけど、照明に照らされて見えるのは、赤茶色っぽいかな。


 身長は大体俺のお腹程あるかどうかだけど、腕は太く、オーガというだけあって力は強そうだ。

 俺の視線の先、エクスブロジオンオーガのうち二体は、坑道内に捨てられていたのを拾ったんだろう、離れた場所から見てもわかる程ボロボロのツルハシを片手で持っていた。

 エクスブロジオンオーガよりも大きいツルハシを、軽々と持っている事から、その名の通り力が強い証左だね。

 他にもスコップを持っているのもいるけど……どれもボロボロで、俺が持っている剣と大差なさそうだ。


 まぁ、ボロボロでもう使えないから捨てたんだろうけど。

 折れそうな道具を使って採掘していたら、いざ折れた時になにかしらの怪我をする可能性もあるしね。

 それならちゃんと持って帰って処分してくれと思わなくもないけど、そういう意識がないんだろうし、道具が集まって積まれたりでもしていない限り、邪魔になるわけでもないんだろうし、仕方ないか。

 とにかく、もしエクスブロージオンオーガが、道具を使って向かって来ても、絶対剣で受けたりしないよう気を付けないとね。

 どちらもボロボロだけど、それで俺の持っている剣の方が耐えられる保証なんてないだろうから。


「結界、大丈夫そうだよ」

「そうか。任せた」

「うん。それじゃ行くよ。……んっ!」

「「「ギギィ!?」」」

「結界!」


 後ろで警戒してくれているソフィーへと声をかけ、頷き合ってエクスブロージオンオーガの元へと駆け込む。

 俺の事に数体のエクスブロージオンオーガが気付いたようで、耳障りな声を上げながら振り向いたけど、その時には既に結界の準備は完了していた。

 エクスブロージオンオーガ達との距離が三、四メートルくらいになったところで結界を発動。

 俺を含めて五体のエクスブロージオンオーガを包み込んだ。

 向こうは突然の事に驚いている様子ではあるが、人間が来たとツルハシを構える奴もいる。


「さて……とりあえず数を減らさないとね」


 結界の中、外からの音すら遮断された空間の中で、剣を構えてエクスブロジオンオーガを見据える。

 衝撃を鉱山に響かせないため、密封する必要があるから、早めに倒さないと酸素が薄くなって俺も危ないから、手早く片付けたい……けど、問題の剣を使う事になっているため、闇雲に斬りかかったりはできない。

 まずは数を減らそうと、五体いるうちのエクスブロジオンオーガ、その中から端にいる奴に狙いを定めた。

 その頃には、五体とも俺の事に気付いており、こちらへ向かって敵意を放っている。

 さすがに結界に包まれている事までは気付いていないようだけど、それで何か変わるわけでもないか。


「ギギ!」

「ギィ! ギィ!」

「剣で受けないように……刃筋を通す事を意識して……はっ!」

「ギッ!」


 俺に向かって、持っている道具を振りかぶるエクスブロジオンオーガ達。

 そのうち二体が俺へと距離を詰めてきたけど、振り下ろされる前に横を通過し、狙いを定めていた一体に対して刃筋を通す事を意識してボロボロの剣を振り抜く。

 エクスブロジオンオーガの動き自体は、その小ささに似合わず鈍いため、簡単に脇を通過する事ができた。

 体の大きさに関わらず、膂力だけでなく動きの素早さもオーガそのものらしいね。

 これなら確かに、油断さえしなければフォルガットさん達でなんとかなるだろう……爆発さえしなければ。


「んっ……これが言われていた爆発かぁ」


 なんとか折れる事なく、剣で深手を負わせる事に成功したエクスブロジオンオーガが、短い悲鳴を上げた後すぐにポンッ! という軽い音を立てて、爆発する。

 その爆発は、周囲を巻き込むような大きな規模ではなく、エクスブロジオンオーガの体そのものの大きさで爆発し、近くにいた俺に多少の衝撃を伝えただけだった。

 確かに、反響する坑道内では、この衝撃が鉱山にほんの少しずつ影響を与えるのかもしれないけど、結界の中ならやっぱり問題はなさそうだ。

 ちなみに、四散したエクスブロジオンオーガの体は、鉱山の壁にぶつかる前、包まれている結界ぶつかった後、煙のようになって消えて行った。


 ……魔物という存在だから、そういうものなんだろうと思うけど、死体も残さないのか。

 考えていたオーガとは違う特性っぽいね……もしかすると、エルフの集落を襲ってきたゴーストに近い性質なのかもしれない。

 あっちは完全に剣とかの武器は効かないけど、倒したら空気に溶けるようにして消えるのが同じだ。


「ギギィ!」

「っと、そんな事を考えている状況じゃなかった!」

「ギィィィィ!」

「ギ! ギ!」


 耳障りな声を上げつつ、俺を囲むようにしてエクスブロジオンオーガが襲い掛かって来る。

 悠長に考えるのは、こいつらを倒してからだね。

 死体も残らないのなら、倒した後の事を考える手間が省ける!


「おっと……剣で受けないように、剣で受けないように……」

「ギ!」

「ギィ!」


 思わず振り下ろされたツルハシを剣で受けそうになって腕を止め、体をずらして避ける。

 ツルハシもボロボロとはいえ、こちらの剣もボロボロ。

 エクスブロジオンオーガの膂力で振り下ろされたツルハシを受けたりなんかしたら、どちらの武器も壊れて当然だからね。

 ブツブツと自分に言い聞かせるようにしながら、反射的に剣で受けようとするのを止めさせながら、次々と来る攻撃を避けて行く。


 囲まれて攻撃されていても、受ける事なく避けられているのは、エアラハールさんによるモニカさんとソフィーを同時に相手した経験が生きているんだろう。

 二人に比べたら、エクスブロジオンオーガの動きなんて、鋭さの欠片もない。



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