第568話 穴を発見



「ふむ……これだけの空間があれば、休息できそうじゃの。しかし……」

「んー……っと。はい……あの道ですね?」

「うむ。どうやら、地図にはなかった道というのは、やはりあるようじゃの」

「あちらからなら、狭くもなく簡単にここまで来られたんだろうな」


 広場で体を伸ばしたりしながら、一息つく。

 そうしたながらも、エアラハールさんは俺達がやってきた道の右側を見て目を細めている。

 そちらには二人くらいなら並んで通れるような道があり、天井も少し高い。

 地図を持って来ていないので、見比べたりはできないけど……覚えておいた内容には、その道の事はなかったはずだ。


 エアラハールさんも同意して頷いているし……多分、これが地図にも記されてない道の事なんだろう。

 完全に網羅している地図じゃないから、仕方ないんだけどね。

 ともあれ、もしかすると魔物を目撃したらしい鉱夫さんは、迷ってあの道を通ってここまで来たのかもしれないね。

 あっちなら、大柄な人でも楽々通る事ができるだろうし。


「まぁ、地図が完璧じゃない事はわかっていた事ですけどね。それで、あっちがエクスブロジオンオーガが来たという道、ですかね?」

「そうじゃろうな。人が通れるような道とは思えんが……どうやってできたのじゃ?」

「這ってなら、通れるかもしれないが……そもそもあれくらいの大きさで掘るという事はしないと思うがな」


 次いで、魔物が来たという道へと視線を向ける。

 そちらは、俺達が来た道から左斜めくらいの場所にあり、ぽっかりと小さく穴が開いているように見えた。

 ソフィーが言うように、這って行けば進めなくもないだろうけど……鉱山でそんな通路を作る方がおかしいと思う。

 もしかして……。


「……やっぱり、採掘のために掘った道じゃなさそうですね」

「そのようじゃな。崩れたような跡があるのう」

「魔物が通った跡も、同様にあるな」


 その穴へ近付いて調べてみると、奥は暗くてどれだけの長さかはわからなかったけど、他の坑道とは違って壁に人の手が入った形跡がなかった。

 天井や壁、今まで通ってきた坑道では人が通る事を考えられてか、ある程度整備されていた。

 それに対しこの穴は、照明すら設置されておらず、岩肌がむき出しに……というより、崩れたままになっている。

 さらに、ソフィーが言うように魔物が通った跡なのだろう、地面には何かを引きずった跡……多分、エクスブロジオンオーガが持っていたツルハシやスコップが、地面に擦り付けられたような跡があった。


「エクスブロジオンオーガがここを通る時、持っていた道具を引きずったんでしょうね……」

「そうだな。穴も人は這ってくらいでしか通れないだろうが、エクスブロジオンオーガなら通れそうだ」

「そうじゃな……」


 穴の盾幅一メートルと数十センチ程度で、横幅も同じくらいだ。

 エクスブロジオンオーガは一メートルそこらの身長だったから、難なく通れるだろう。

 ただ、持っている道具が大きかったりして邪魔なので、引きずって運んでいたため、地面に跡が付いたんだろうね。


「この先に何かがある……とは言えないけど、通り道にはしているようだね」

「あぁ。だが……この先を調べるにしてもな……這って通るのか?」

「それは……できれば避けたいなぁ……回り道とかないんだろうか?」

「探せばあるのかもしれないな。地図にない道もあったんだ、この穴もエクスブロジオンオーガが通るのなら、別の場所に繋がっているのだろう」

「だろうね……けど……」

「問題は、入り組んでいるために回り道を探すのも手間、という事じゃの」

「はい……」


 エクスブロジオンオーガがここを通っているのは間違いなさそうだけど、この先に何かがあるのかはわからない。

 もしかするとただの通路で、何もないかもしれないという可能性だってある。

 とにかく調べないと何もわからないんだけど、この通路を這って通るのはできるだけ避けたい。

 そんな状態で向こうからエクスブロジオンオーガが来たら、こちらは何もできないしね……。


 道どれだけの長さかも、奥が見えないのでわからないし……。

 かといって、穴の奥へと回り込もうとしても、そういった道があるのかもわからない状況だ。

 坑道は入り組んで色んな道があるため、回り込める道もあるのかもしれないけど、それを歩いて探すには時間がかかり過ぎる。

 それこそ、地図にない道を通っていたら、鉱山内の別の所へ繋がる道で遠ざかる……なんて言う事もあるしね。

 これが外なら、エルサなりに乗って空から観察したりもできるんだけど……山の内部なんだから仕方ない。


「……とりあえず、回り道があるかどうかは、帰って地図を確かめよう。よく知らない道に入って、迷ったりしたら余計に時間がかかりそうだしね」

「そうだな。元々、調査をするにしても一度で全て判明させなければいけないわけでもないからな」

「危険や無駄になる可能性を避けるのも、良い冒険者の条件じゃな。根拠のない自信や無謀、無茶な事を強行しても、悪い結果になるからの」

「はい、そうですね」

「じゃが、このまますぐに帰るのかの?」

「いえ……とりあえず少し待とうかと思います。もしかしたら、エクスブロジオンオーガがここを通ってくるかもしれませんし」

「休憩をしながら待っていればいいだろうな。もし本当にエクスブロジオンオーガが来れば、目撃情報は正しいし、倒せばそれだけ数を減らせるからな」

「そうじゃの、それが良いじゃろう」


 空が見えないので、正確な時間はわからないけど……体感では鉱山に入ってまだそんなに時間は経っていないはずだ。

 エクスブロジオンオーガが本当にこの穴を通るのかを、待つ時間はあるはず。

 まだエルサがお腹空いたと騒いだりしていないから、夕方にもなっていないだろう。

 エルサの腹時計、実は割と正確だからなぁ……さっきソフィーがおやつにキューをあげてたけど、それだけじゃ狂ったりしない程度には、ね。


 それに、本当に通って来るかどうか以外にも、エクスブロジオンオーガと遭遇する事で、何か新しい発見があるかもしれない。

 さっき皆で疑問に思った事が解決するかはわからないけど……実際に遭遇する事でわかる事だってあるはずだ……多分。

 何もわからなかったら、ソフィー達に謝ろう。


「しばらく、ワシは休ませてもらおうかの。リク、周囲の警戒は怠るなよ?」

「はい」


 エアラハールさんは、この場所から離れない事が決まるとすぐ、穴から離れた場所で壁を背にして座った。

 もう結構な年のようだから、鉱山内を歩いて疲れたんだろう……結構身軽に座る場所まで行っていたから、まだまだ大丈夫そうではあるけどね。

 ともあれ、ずっと警戒して神経を尖らせていたから、外を歩くより疲れているのは、俺やソフィーも同じはず。

 体力的にはまだ大丈夫でも、精神的な疲れもある事だし……警戒はしておくけど、ひと時の休息をと、ソフィーも俺もエアラハールさんと同じように、壁を背にして座る。

 こういう時、探査魔法が使えたら慣れない警戒をする必要もないんだけどなぁ……。



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