第552話 リクの実験と魔物対策
「それで、リクはどう調査をするんだ?」
「まだ、魔物を見ていないのでなんとも……それに坑道は入り組んでいると聞きます。あ、地図は見せてもらえますか?」
「あぁ、問題ねぇ。おい」
「今すぐ持ってきます!」
フォルガットさんに聞かれるけど、どうした物かと頭を悩ませる。
そもそもまだ魔物を見てすらいないし、鉱山の中にも入ったわけじゃない。
今の段階で、絶対に解決して見せると言えるような、確証とか確信があったりはしないし、無責任な事は言えないからね。
とりあえず、入り組んでいるらしい坑道の地図を見せてもらえるか聞くと、すぐにフォルガットさんは頷いて、隣の女性に持ってくるように言った。
パタパタと駆けて奥の部屋へ行く女性……そこまで急がなくてもいいんですよー。
あと、エアラハールさんはお尻を見ない!
「ただ……なんとなくですけど、魔物自体は問題ないと思ってます。あくまで、俺が倒すぶんには……ですけどね」
「ほぉ? 随分な自信だな。英雄だとか言われているから、そこから来る自信か?」
「大丈夫なのか、リク?」
「いえ、英雄だとかそういう事は関係なく……ちょっとした考えがあるので……」
頭の中で考えている事が可能であるなら、多分大丈夫だと思う。
魔物がもし爆発しても、鉱山へと衝撃を伝わらせない方法……また、魔法に頼ってしまう事になるけど……あ、エアラハールさんに言って、魔法禁止を解いてもらわないといけないなぁ……。
モフモフ禁止になるのは嫌だから、許可されなかったら、他の方法を考えないといけない。
フォルガットさんが訝し気に見て、ソフィーからも心配な様子で尋ねられるけど、とりあえずは自信があるように見せておくように話す。
「お待たせしましたー!」
パタパタと音を立てて、奥から大きな羊皮紙を持ってくる女性。
丸めてはあるけど、女性よりも大きな羊皮紙だね……広い鉱山の地図なんだから、網羅しているわけじゃなくとも大きくなるのは当然か。
すぐにその地図をテーブルに広げてくれる女性。
だけど、さすがにテーブル一つでは大きさが足りなかったためか、端の方は床に向かって垂れている。
「……これが、坑道の地図だ。さすがに、全てを網羅してかきこまれているわけじゃないがな。鉱夫達はこれを頼りに採掘の計画を立てたり、区画を決める。そして、次に掘り進める方向や場所も決める」
「成る程……確かに入り組んでいますね」
「目がしょぼしょぼするのう……」
「覚えるのも一苦労だな……」
広げられた地図を皆で見ているけど、確かに地図に書かれている坑道は入り組んでいた。
エルフの集落で、俺達が泊まった家に行く道よりもよっぽど細かい道が多く、本当に人が通れるのか怪しい道すらある。
しかも、鉱山なのだから、平面で見る地図に対し実際は高低差もあるはずだから……これは全体を把握するのは難しいね。
日本にあったような、計測器だとかがあれば、把握する事も可能だろうけど……それは無い物ねだりだしね。
そもそも、俺には使い方とか作り方すらわからないし。
エアラハールさんは、細かい道が書き込まれた地図に、目をこすっているようだ……老眼かな?
まぁ、ジッと見ているのは確かに辛いよね。
ソフィーは道を覚えようとしているようだけど、これを一度見ただけで覚えられる人は、特殊能力を持っている人だけだと思う。
瞬間記憶とかそういうやつだけど、生憎とそんな能力を持っている人は俺達の中にはいないし、見た事もない。
「それでリク、どうするんだ? 魔物の方は大丈夫だと言っていたが……?」
俺がどうするのか気になるようで、フォルガットさんから聞かれる。
対処に困っている魔物に関する事だから、気になるのは当然か。
「えっとですね……俺にはこういう魔法が使えまして……結界!」
「ん?」
とりあえず考えている事をわかりやすく説明するために、結界を発動。
テーブルに置いてある、飲み干して中身のないカップを包んだ。
結界は目に見えない透明になっているため、俺が手をかざしたのを見るだけのフォルガットさんは、不思議そうに首を傾げていた。
……結局、また結界に頼る事になるけど……仕方ないかなぁ、便利だし。
最近、結界の話ばかりをしているけど、探査魔法も坑道内で便利に使えると考えている。
あれは、魔力が含まれている物ならなんでもわかるから、多分坑道内で迷わないようにしたり、魔物がいるかどうかを調べるのに役立つだろうからね。
「これでよし。それからこれを……こうして……」
「あ、おい! そんな事をしたら……」
「大丈夫ですよ。見てて下さい」
「っ!」
カップを持ち上げ、床へと落とすように手を離す。
それを見ていたフォルガットさんは、またカップが割れてしまうと焦ったようだけど、とりあえず声をかけておいた。
女性の方も、カップが割れる事を予想して、音に備えるように目をきつく閉じている。
「……? なんだ……割れない?」
「?」
「はい。見た通り割れていません。魔法でカップを包んだからなんですけど……どうやら成功のようですね」
床に落ちたカップは、それなりの高さから落とされたにもかかわらず、コトッ……という小さな音がしただけで、割れたりはしなかった。
拾って結界を解除し、確認してみたけど、ヒビすら入っていないようで、実験成功と言ったところかな。
フォルガットさんと女性は、予想していた事とは違う結果に、驚き戸惑いながら首を傾げていた。
「これは、結界という魔法をこのカップを包むようにしたのですが……」
結界の事を、フォルガットさん達へ簡単に説明。
今回は、丸い結界で包むのではなく、カップの形に沿うようにイメージして発動させた。
おかげで落とす時も拾う時も、カップの持ち手をちゃんと持てたんだけど……それともかく。
小さいカップだから、簡単にイメージしてできた事だろうから、魔物……エクスブロジオンオーガ相手には通用しないだろう。
一メートルくらいの大きさらしいし、動いてもいるからね……イメージがしづらい。
その辺りは、いつもの結界と同じように丸く包もうとしていたから、問題ない。
今回のカップで実験して確認した事は、結界が衝撃を通すのかどうか。
どれだけ強固な壁を作ったとしても、衝撃はその壁を伝い、奥まで届く。
衝撃の強さにもよるけど、強固でも薄い壁ならそこからさらに空気を震わせて、他の場所へと伝搬するだろう。
かなり弱められるし、元々の爆発が大した事がないとはいえ、鉱山への衝撃はほんの少しあるかなと予想していたんだけど……落としたカップを見る限りは大丈夫そうだ。
結界で完全に包むと、音すらも遮断されるのだから、それも当然かなと思う。
音は空気の振動だからと考えて、それなら結界で相手を包んでやればいいんじゃないかと考えた。
ちなみに、これを思いついたのは、エルサが騒々しい周囲の音や声を遮断するのに結界を使っていたからなんだけどね。
空気の振動だとか、衝撃の伝搬だとか……ある程度日本での知識があるからこそ思いつく事……なのかもしれない。
この世界、この国で、そこまでの研究がされているかどうかは知らないけど、経験上衝撃が伝わって鉱山全体に影響を及ぼす可能性は考えられても、遮断するという事は考えられないと思う。
まぁ、結界が使える俺だからという反則技でもあるわけだけどね……他に遮断できる方法があるのなら別だけども。
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