第547話 組合へと向かうリク達
「魔法は、風の魔法を使うようじゃな。見えない空気の刃で、こちらを切り裂いて来る。威力はそれほどでもないが、革の鎧程度なら切り裂いて怪我をする事もあるようじゃ」
「成る程……見えない刃だと、避けづらいですね。だから、引き寄せるのも危ないと……」
「その通りじゃ。そして、取り押さえて捕獲しようとすると、生命の危険を感じたからなのか、すぐに爆発しおる。魔法の方が怪我をする可能性が高くて危険な程、小規模な爆発じゃが、体が弾け飛ぶのとその衝撃で、崩落する危険があるというわけじゃの」
近くで爆発しても、かすり傷くらいしか負わない程度の爆発なら、確かに魔法の方が危険だろう。
けどその衝撃は確実に山へと伝わる。
まぁ、一体や二体地度なら大した事はなくとも、複数が同時に爆発したりすると危険だろうし、崩落の確立も高まるのか。
さらに言えば、爆発で起こった衝撃は確実に山へと蓄積されるため、一体ずつ処理したとしてもいずれは崩落する危険があると……。
時間をおいて、崩落しそうな場所を補強したりできればいいんだろうけど、魔物が徘徊している坑道内では、そういう事もできないだろう。
確かにこれじゃ、安心して採掘作業なんてできないよね。
しかも、どこかから来たエクスブロジオンオーガは、段々と数を増やしているという事だし、放っておいても駄目、対処しようとしても駄目……これじゃ鉱夫の人達が元気をなくすのも当然か。
もしかしたら、エアラハールさんはこの魔物の事を知っているから、さっきは納得したように頷いていたのかもしれない。
「話に聞く最年少のAランクに、国が認めた最高勲章を授かる英雄なのじゃから、相当戦えるのじゃろうが……今回は戦うのはご法度じゃな。もちろん、どうしても戦わないといけないような状況ならば、仕方ないじゃろうがな?」
「そう、ですね……わかりました。まずは魔物との遭遇を避け、どこから移動して来ているのかを調査する事にします」
「うむ、頼んだぞ」
「はい」
相当戦えるとか、荒事に慣れているように俺を見るベルンタさんだけど、そんなに慣れている方ではない気がするんだよね。
まぁそれはともかく、爆発して鉱山に影響を出したり、崩落させるわけにはいかないから、まず調査をして魔物が移動して来ている原因を探るのが先決だろう。
原因を取り除けば、増える事はないし、後は対処しにくくとも少しずつ数を減らせばいいわけだしね。
最悪の場合……俺が結界を使って魔物を閉じ込めて、外へ運び出してから爆発させる……とかかな?
……結界に閉じ込められた時点で、爆発したりしなければ……だけど。
「あぁ、そうじゃ」
「?」
話を聞き終わり、冒険者ギルドを出ようとした俺達にベルンタさんが、何かを思い出したように声をかけてきた。
出入口の扉ん手をかけようとしていた手を引っ込め、カウンターの方へと振り返る。
「鉱夫達が集まる組合がある。そこにも一度顔を出しておいた方が良いぞ? 何も言わずに、鉱山内へ入ると不審な者扱いされかねんからの。それに、そこでなら入り組んだ坑道内の詳細な地図を見せてもらえるじゃろう。さすがに、全てを網羅しているわけではないがの」
「わかりました、ありがとうございます。その組合というのはどこに……?」
「えーとじゃの……」
鉱夫達の組合というものを教えられ、ベルンタさんにそこまでの道順を教えてもらう。
幸い、冒険者ギルドからそう離れていない場所のようだったので、宿を決めたりするより先にそちらを訪ねてみる事にした。
坑道内の地図は見ておきたいし、不審者扱いされるわけにもいかないからね。
国が管理する鉱山でもあるんだから、無断で入るわけにもいかないだろうし。
ちなみに、その時聞いたんだけど、鉱夫達の組合には街の治安を守る兵士さんも混ざっているらしく、自警団的な事も兼ねているらしい。
屈強な鉱夫と、訓練された兵士がいるので、少しくらいの魔物が出たとしても、冒険者に頼まず何とかできるのも納得だね。
ここらは、あまり強い魔物の発見情報もほとんどないみたいだし。
話を聞き終わった冒険者ギルドを後にし、俺達は教えてもらった組合へと向かう。
建物の外へ出てすぐ、中から「お爺ちゃんばっかり英雄様と話してズルい!」というテルアさんの叫び声が聞こえた気がしたけど、気のせいという事にしておこう。
……今度冒険者ギルドに来る用事があったら、もう少しテルアさんと話をしてみてもいいかな?
騒いでばかりいないで、ちゃんと普通の会話ができれば……だけど。
「ここが組合かぁ」
「そのようだな。看板もある」
「冒険者ギルドと、代わり映えせんのう……」
ベルンタさんの説明通りに街を歩き、ほどなくして組合があるという建物へと到着した。
組合の建物は、冒険者ギルドとそう大差のない大きさで、他の民家などよりは大きいけど、立派な建物とは言えない……というのは、少し失礼かもしれないけども。
まぁ、鉱夫達が主な組合員らしいし、本来は鉱山で採掘をしている人達なんだから、大きな建物にして常に集まったりしている必要はないからなんだろうね。
「すみませーん……」
「はーい!」
建物の入り口を開け、中へと入りながら声をかける。
冒険者ギルドと同じような木の扉だったけど、こちらは整備されているのか、変な音を立てたりもせず、すんなりと開いた。
俺が臆へとかけた声が聞こえたんだろう、奥から女性が返事をする声と、パタパタとこちらへ駆ける音が聞こえた。
「はーい、お待たせしましたー。ノング組合へようこそー。本日はどのようなご用件でしょうか? 取引ですか?」
「あ、いえ……」
パタパタと足音をさせて奥にあるらしい部屋から駆けてきたのは、大柄な女性。
女性としては、身長が高めなソフィーよりも大きく、俺よりも高い。
大体……百八十センチ以上はありそうだなぁ……俺もこれくらいの身長が欲しかった……という願望はさておき、大柄な体に似つかわしくないと言ったら失礼だけど、軽快に喋って俺達を迎え入れてくれた。
「冒険者ギルドから来たんですけど……」
「冒険者ギルド……? んー、ギルドに依頼をしている事なんてなかったと思いますけどねぇ……」
冒険者ギルドと聞くと、訝しげな表情をする女性。
この街では、依頼をする事がほとんどないために、思い当たる節がないんだろう。
「あーいえ、王都の冒険者ギルドで依頼を受けて、鉱山に魔物が出るという原因の調査に来ました。先程冒険者ギルドで話を聞いたら、こちらにも顔を出しておけという事だったので……」
「あぁ、成る程。そういう事ですかー。ほんと、最近は魔物のせいで困ってるんですよねー。安全に採掘ができないので、商売あがったりですよー」
「はぁ……」
魔物が原因で……というのは先程ベルンタさんから聞いた事ではあるが、この女性はそれを随分と軽い調子で話すんだなぁ。
そういう性格なのかもしれないし、街そのものに元気がないから空元気で……という心遣いなのかもしれないけど――。
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