第546話 鉱山にいる魔物
ベルンタさんの説明で、この街に冒険者が少ない理由のうち、大きな原因がよくわかった。
ソフィーも頷き、エアラハールさんは溜め息を吐くように呟いている。
住み分け……つまり、魔物と戦ったり、護衛をしたりする事の多い冒険者の仕事だけど、そのほとんどを鉱夫達がさっさとやってしまうため、冒険者ギルドへの依頼が来ないんだろう。
それだけ、そこに住む人達で問題を解決しているわけだから、いい事ではあるんだけど……そのせいでこの街に冒険者がほとんどおらず、大きな問題が出た時に対処がしづらくなっているという状況なんだろうね。
うーん……鉱夫さん達に冒険者の仕事を奪うなとは言えないし、難しい問題だなぁ。
「まぁ、この冒険者ギルドの状況はともかくじゃ。本題に入ろうかの?」
「あ、はい。えーと、鉱山で魔物が出たから、どこから来たのかとかを調べて欲しいと……」
逸れてしまった話を戻し、依頼の話をする。
仕様書を取り出してベルンタさんに見せつつ、調査依頼に関する情報を聞く。
「鉱山の中での、ちょっと困った魔物が出たのじゃよ。最初は、奥から来ているのかと思っておったんじゃが……それも違うようでのう……。鉱山の奥に繋がっていない道にも、魔物がいたのじゃ。どこからか移動して来ているようではあるのじゃが、鉱夫達はそういうことを調べるのには向いておらんからの」
「成る程、それを調べて欲しいんですね?」
「その通りじゃ。おそらく、どこかに穴が開いて別の道と繋がり、そこから魔物が移動しているのじゃと思うがの……あと、魔物も発見次第討伐して欲しいが……これはさしもの英雄も難しいかの?」
「討伐はもちろんしますが、そんなに強い魔物なんですか?」
「いや、鉱夫達でも楽に倒せるような魔物じゃ」
「それじゃ、討伐が難しいとは……」
「じゃがのう……その魔物、鉱山内で爆発するんじゃよ」
「「爆発!?」」
「ふむ、あの魔物か……厄介な……この街が寂れているわけがわかったわい」
ベルンタさんからの説明は、ほとんどマティルデさんから聞いた事と似たような感じではある。
でも詳しい話を聞くと、鉱山のどこかが、別のどこかと繋がっているために、魔物が移動して来ているのではないかという情報。
さらには、その魔物が鉱夫達で倒せるはずなのに、冒険者に頼む理由は爆発するからという事だ。
俺とソフィーは鉱山内で爆発と聞き、驚いて声出したけど、エアラハールさんは納得したように呟いた。
どんな魔物か知っているようだけど……爆発かぁ……確かに厄介そうだなぁ。
頭の中には、どこぞのゲームで岩の魔物が自爆するのを思い出していた。
「その魔物はのう、倒される時に周囲を巻き込んで爆発するんじゃ」
「それじゃあ、危なくて鉱夫の人達は相手にできませんね……」
「いや、それは問題ない。何せ、爆発は小規模じゃから……近くで爆発されても、大したことはないからの。ほとんどが、飛んできた破片に当たって小さな怪我をするくらいじゃ。それだけなら、鉱夫達でも何とかできるのじゃが……鉱山じゃからのう」
「鉱山じゃと、衝撃が山への影響があるのじゃな?」
「そっちの爺さんはわかっておるようじゃの。その通りじゃ。じゃから、調査とは言ってもあまり刺激したりはせず、魔物が来る原因を探って欲しいのじゃ。どこかに穴が開いて、移動して来るのであれば、そこを塞いで通れなくするだけで、被害は抑えられるからの」
そういう事かぁ。
鉱山では、採掘をするために坑道を作り、山の内部で作業をする。
坑道は入り組んでいるらしいというのは聞いたけど、つまりは山の中が穴だらけという事だ。
魔物は小規模な爆発で、それ自体は脅威ではないけど……穴だらけの鉱山内部で爆発されたら、衝撃が発生してしまう。
少しなら問題ないだろうけど、それでも複数が同時に爆発したらそれなりの衝撃になるはずだし……。
そうなると、今度は魔物自体の危険よりも、鉱山内部で崩落の危険が発生するというわけだね。
多少の補強はしているんだろうけど、日本にあるトンネルのようにコンクリートで補強していたりはしないはずだし、ある程度計画的に採掘していたとしても、崩落の危険性があるくらいだ。
もしかしたらの可能性ではあるけど、誰も鉱山内部を崩落させて生き埋めになんてなりたくないからね。
運が良ければ別の道から外に出られるだろうけど……もし内部の全体が崩落してしまえばと考えると、被害は甚大だ。
人の被害もそうだし、採掘作業への影響から国への影響も計り知れないと言えるかな。
……これは、予想していたよりもずっと重要な依頼だったようだ。
「魔物が出没する事もあって、今では鉱山内での採掘作業はほとんど行われておらん。もし遭遇しても倒す事もできず、逃げるしかないからの。鉱夫にとって危険ばかりが増している状況じゃ」
「……排除する方法はないんですか?」
「ない事もないが……ほぼ不可能じゃの」
「不可能なんですか?」
「鉱山内で爆発させないためにはじゃ、魔物を外へ連れ出せばよい。じゃが……追いかけて来る魔物から逃げながら、外へ誘導するのは鉱夫にとって危険が伴う。魔法も使うからの、爆発よりも直接的にはそちらの方が危険じゃ。かと言って、捕獲しようにも危機を感じた瞬間、魔物がドカンッじゃ……鉱夫だけでなく、そこらの冒険者も対処が難しいじゃろう」
「それは……確かに……」
爆発自体は小規模なんだから、鉱山の外で爆発させれば確かに鉱山への影響は少なくて安全だろう。
だけど、そのためには魔物を引き付けたり、捕獲しなければならないんだけど……ベルンタさんの話では魔法を使う事もあって、引き付ける事も危険だし、攻撃して魔物が爆発したら台無しになってしまうのだそうだ。。
どんな魔法を使うのかはわからないけど、爆発よりも危険という事は、それなりの魔法なんだろうと思う。
つまり、こちらから下手に手出しはできないのに、向こうは自由に攻撃してくるという事。
さらには、倒したりしないように捕獲しようにも、魔物自体が危機を感じたらすぐに爆発してしまうと……。
これじゃ確かに、鉱夫だけでなく冒険者でも手の出しようがないよね。
「魔物の名前は、エクスブロジオンオーガじゃ」
「エクスブロジオンオーガ……」
エクスプロージョン……? 爆発という事、かな?
少し発音というか、微妙に違う名前になって聞こえたけど、体を爆発四散させるという事なので、そうなんだろう。
「オーガ種ではあるのじゃが、体は小さく、人間の子供くらいの大きさしかない。じゃが、オーガである事は変わりはなく、体の大きさに似合わず力もそれなりじゃ」
「それなり、ですか?」
「うむ。人間が使うツルハシなども、平気で振り回したりもするようじゃ。エクスブロジオンオーガよりも大きい物でも、じゃな。坑道内には、時折使い捨てられた道具があったりするのじゃが……それを拾って使っておるようじゃの」
「成る程……そんなのを振り回されたら、近づくのも危険ですね」
「そうじゃ。まぁ、大きさもあって、鉱夫達には簡単に対処できる程度なのではあるのじゃがな? 魔法も使うので、少々厄介じゃ」
「どんな魔法を使うんですか?」
エクスブロジオンオーガの事を、ベルンタさんに聞く。
その横では、テルアさんが頷きながらその情報に聞き入っているけど、冒険者ギルドで働いているんだし、ここ最近鉱山に現れている魔物なんだから、知っておかなきゃいけない事のような気もするんだけど……。
少しだけ、ここの冒険者ギルドがこの先大丈夫なのか心配になった――。
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