第544話 ガッシリした人の多い街



 ブハギムノングの街に入って、ソフィーやエアラハールさんと三人で、周囲を見渡してみる。

 人の姿はちらほらと見えはするんだけど、建物は大きな物がなく、ボロボロではないけど年季が入っている。

 さらになんというか……さっきから見かける人達の元気がなさそうに見える事から、雰囲気が暗い気がして、寂れているような印象だ。

 元気がない人達……ほとんど男性なんだけど、筋骨隆々とまではいわなくとも、結構ガタイがいい人が多い事から、あの人たちが鉱夫なんだろうね。


 時折、ツルハシだったりハンマーだったりを持っている人を見かけるから、間違いないと思う。

 持っている道具の大きさは大小さまざまで、両手で持たないと重そうな物から、手のひらサイズの物を持っている人もいた。

 腰のベルトに取り付けて、いつでも使えるようにしている人もいたね。

 ノミに近い形の物は……なんだっけ、確かタガネだったかな?

 それも、大きさはさまざまだった。


「申し訳ない、冒険者ギルドはどこにあるか、わかるか?」

「あん? あんたら冒険者か? だったらあっちだ……」


 俺が見かける人を観察して、鉱夫の人達が使う道具に感心していると、ソフィーが近くを通りがかった男性に声をかけた。

 いけないいけない、観察している場合じゃなくて、まずは冒険者ギルドに行って話を聞かないとね。

 ソフィーが声をかけた男性も、ガタイが良く身長も高い人だった。

 二メートル近い身長のその人は、軽々と身の丈程もあるツルハシを持っている事からも、鉱夫である事がわかる。


 道を教えてくれた男性にお礼を言って、ソフィーやエアラハールさん達と一緒に、街中を歩く。

 冒険者が少ない場所でもあるため、旅装をしている俺達の姿は街の人達から珍しく映ったんだろう、色んな所から見られている気がする……。


「ここ……だよね?」

「そのようだ。はっきりと書いてある」

「……小さいのう。ワシはここに来るのは初めてじゃが、これ程小さい冒険者ギルドというのは、ほとんど見た事がないぞ?」


 しばらく歩くと、教えてくれた通り冒険者ギルドらしき建物があった。

 らしきというのは、その建物が冒険者ギルドの使っている建物に見えなかったからだ。

 周囲にある民家よりは少し大きいけど、二階建ての建物で、エルサが大きくなったら軽く踏みつぶせそなくらいの大きさだ……そんな事はしないけども。

 今まで見てきた冒険者ギルドには、広い体育館……訓練場が併設されていたのに、ここにはないようだ……冒険者が少ないからなんだろうね。


 この街だと、冒険者になるよりも鉱夫になった方が見入りがいいだろうし、安定して仕事がありそうだし……他から来る冒険者も少ないんじゃ、規模も大きくできないのかもしれない。

 その建物の入り口横には、俺よりも少し背の高い木の板が立てかけてあり、そこにでかでかと「冒険者ギルド・ブハギムノング支部」と書かれているから、間違いないんだろう。


「とりあえず、入って見ようか?」

「そうだな。まずは話を聞かない事には、依頼がどうなっているのかわからないからな」


 ソフィーと話し、その建物へと入る。

 入り口のドアを開けるとき、やけに木の扉から音がしたけど、それはあまり手入れされていないうえ、建物が古いからなんだろうね……。


「……こんにちわー?」

「あら、珍しい。こんな辺鄙な場所に冒険者かしら?」


 中に入りながら声をかけると、すぐに奥から女性の声が聞こえた。

 建物の中は、入り口からすぐの場所に椅子が幾つかありと、その先にカウンターが設えられていた。

 そのカウンターの奥に扉があり、そこから声がしたようだ。


「えーっと、依頼を受けて来たんですけど……?」

「ちょっと待ってねー、今そっちへ行くからー。……っと、お待たせ! あら、若い冒険者ね? こんな寂れたギルドに何の用かしら?」


 もう一度奥へ向かって声をかける。

 聞こえた声に従って、少しだけ待つと扉の奥から女性が一人こちらへ来る。

 その女性は、大体20代くらいに見えるけど身長が低く、小さな耳と大きなモフモフ尻尾が付いていた。

 獣人だろうけど……リスっぽいかな?

 

「えーと、王都から調査の依頼で来たんです」

「王都!? はー、ようやく来たのね。いつ依頼を向こうに頼んだか忘れちゃうくらい……ようやくねぇ……」


 俺が王都からというと、耳と尻尾をピンと立てて驚く女性。

 いつ頼んだか忘れるくらい前って……ルジナウムの街が、一カ月前くらいって言っていたから、多分そこまで前じゃないんじゃないかなぁ?

 長く見ても二カ月くらいだと思うけど……それくらいの事を忘れるって、この冒険者ギルドは大丈夫なのか心配だ……。

 それとも、忙し過ぎて忘れてた……なんて事は、建物を見る限りありそうにないね。


 一応、今いる場所は十人程度が入れそうな空間になっているけど、俺達の他には誰もいないし……。

 受付にも、獣人の女性以外はいない。


「えーと……?」

「あぁ、ごめんね。ようやく来たからちょっと驚いてね。えーと、まずは冒険者カードを見せてくれるかしら? ランクなんかの確認もしたいしね。……それにしても、王都はなんでこんな若い子達を……一人、爺さんが混じってるけど……絶対ランクが高いなんて事は……えぇぇぇぇぇぇ!?!?」

「うるさいのう……」


 驚いた様子のままな女性に、どうしたらいいかを尋ねるように首を傾げると、ようやく落ち着いたようだ。

 女性に取り出した冒険者カードを渡し、確認をしてもらったんだけど……何やらブツブツ言いながらカードを見た女性は、耳と尻尾を立てるだけでなく、その毛まで逆立てるようにして驚いた。

 驚きと共に叫び声も上げたので、エアラハールさんがうるさそうにしていたけど、まぁ……仕方ないかな。

 とりあえず、尻尾と耳がモフモフした触り心地そうだなぁ……もちろん、エアラハールさんのように無許可で触ったり、初対面で触らせてくれなんて、女性に頼んだりはできないけど。

 ……我慢我慢。


「えぇぇぇぇぇぇAランクゥゥゥゥゥ!?」

「えっと、はい……」


 驚きの声から、Aランクに繋げて叫ぶ女性。

 よく息が続くなぁ……と思いつつ、頷いておく。


「ししししし……しかも、お名前がリク……ですって!? ……若い見た目とこの名前、しかもはっきりと冒険者カードに記載され、さんぜんと輝くように記されているAランク! まさかあの!?」

「……あのと言われても、どれかわかりませんが……とにかく、リクです」

「ほ、ほほほほ、本物の英雄リク様!?」

「えーと……まぁ、そんな風に呼ばれたりもしますね」


 カードを凝視するように見て、驚き続ける女性。

 見た目としては小柄……というより、ユノより少し大きいくらいの獣人さんだけど、声は大きい。

 ……ちょっと耳が痛いなぁ。

 ふとソフィーとエアラハールさんの方を見てみると、二人共耳を塞いでいた。


 エルサも、結界を張っているような感覚が後頭部から感じる……どうせなら俺も包んで防音して欲しかったなぁ……。

 まぁ、そんな事をしたら話を聞くための会話もできなくなるから、しなくて正解なんだけどね――。



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