第543話 鉱山へ向かって出発
「わかりました。とりあえず、その場所を見てから……ですね。何かわかったら報告します」
「あぁ、そうしてくれ。職員には言って、冒険者カードと俺の名前を出せばすぐに出てくるようにしておく。少しの情報でもいいから、報告してくれると助かる」
「はい、わかりました」
モニカさんとノイッシュさんの話し合いが終わる。
一応隣で聞いていたユノも、頷いているけど……本当にわかっているかどうかは怪しいな。
まぁ、俺よりよっぽど鋭いユノだし、モニカさんもしっかりしているから、なんとかなるだろう。
「あぁそうだ、さっきの詫びという事で、帰りにでもギルドで何か食べて行け。俺から言って、タダにしといてやるから。そろそろ腹も減っているだろ?」
「そうですね……ありがとうございます」
「太っ腹なのー!」
俺達が部屋を退室しようとすると、後ろからノイッシュさんから声をかけられ、ギルド内でお昼を食べて行けと言われた。
丁度いい時間だし、おごってくれるみたいだから、ここはお言葉に甘えよう。
食べ物という事で、すぐに上機嫌になった食いしん坊ユノは、手を上げて喜んでいた。
……さっきまで喧嘩してたのに……結構ユノは安上がりだなぁ……。
お礼を言って部屋を出て、ギルドにある食事処となっている場所に移動した。
建物の出入り口付近で、見渡せばカウンターとかも見えるから、落ち着くための場所とは言えないけどね。
それはともかく、テーブルに付いて店員……ギルド職員さんが持って来てくれた、食事メニューが書かれた物を見て、各々好きな物を頼む。
料理メニューには、しっかり価格が書かれていたけど、街中にある店で食べるよりも半分程度の金額に設定されていて、お財布にも優しいのがよくわかる。
ソフィーが言っていた、冒険者にありがたくて安いというのは、こういう事だったんだろう。
味の方はまぁ……特別美味しいとは言えなかったけど、不味いわけでもなかった。
値段相応と言えばそれまでだけど、多分、低ランクで食べる事に困るくらいの冒険者さんにとっては、重宝するんだろう。
というより、情報交換だけでなく、そのために設置されているという意味合いもあるのかもしれない。
食費が節約できれば、その分生活も多少は楽になるしね。
タダだからか、たらふくエルサとユノが食べていた……いや、いつも通りか。
「それじゃ、リクさん。頑張ってね」
「うん、モニカさんもね」
「私も頑張るの!」
「あぁ、ユノにも期待してるよ」
昼食を頂き、モニカさん達の宿を決めてから、街の外へ出る。
宿は平均的な宿で、モニカさんとユノは同室にする事にしたらしい。
お金には困っていないから、一人一部屋にしても良かったんだろうけど、そういうところはモニカさんらしいかな。
まぁ、同じ部屋で楽しく過ごしてくれそうだ。
外へは、入る時に使った西門ではなく、鉱山へ向かう街道が伸びている北門からだ。
街から見えなくなるだろう距離まで離れて、念のため大きな木の陰に隠れながらエルサに大きくなってらう。
モニカさんとユノに声をかけてエルサに乗り込み、出発だ。
「気を付けてー!」
「美味しい物があったら、教えるのー!」
「そっちも気を付けて!」
浮かび上がるエルサに向かって、モニカさんとユノが大きく手を振ってくれている。
大きな声で俺達を見送られたので、地上に向かって俺からも返した。
というかユノ、鉱山へは美味しい物を食べに行くわけじゃないんだけどな……食いしん坊め……。
「それじゃ、北へ向かってひとっ飛びなのだわー」
「頼むよエルサ」
「……高さは、少し低めに頼む」
「うむ。あまり高所を飛ぶと、眼下の景色を楽しめないからのう……」
「はいはい、わかりました。だってさ、エルサ?」
「根性なしなのだわ。仕方ないのだわー」
モニカさん達がほとんど見えなくなった辺りまで上昇した後、北へ向かって移動を始めるエルサ。
ソフィーとエアラハールさんは、ルジナウムの街までに試しで高度を上げた事を思い出したらしく、あまり高く飛ばないとの要望だった。
速度がそれなりに出ている分、低いと地上への影響もあるから、あまり低空飛行はできないけど、エルサが承諾してくれる。
そのまま、いつもより低い高度で北へ向かう。
ただ、高度が低いと地上からはっきりエルサの事が見えてしまうから、街道を通っている人に見られて、魔物が……とかになると面倒なので、街道からは見えないような離れた所を北上した。
眼下には森や山が行き過ぎるくらいで、人の姿はこちらから見えなかったし、こんな所を通っている人も少なそうだから、大丈夫だと思う。
「到着なのだわー」
「ありがとう、エルサ」
今まで通ってきた山よりも大きな山から、少し離れた場所へエルサに下りてもらう。
遠目に見える山は、標高こそ他の山の方が高そうではあるけど、山そのものが東西南北に広いようだね。
面積が大きく、鉱石などが産出されるから、アテトリア王国にとって要所となっているんだろう。
冒険者ギルドからもらった依頼書によると、山の中には数か所鉱山への入り口があって、それぞれの場所で集落や村になっているらしい。
鉱山の場所によって、産出される鉱石の種類が違うためで、それぞれの場所から採れた鉱石を混ぜないためとかなんとか……。
ともかく、いくつかある村のうち、一番大きく一番人の多い所に行くといいらしい。
その村というか街になっている場所が、全体の拠点となっていて、中心部のような役割を担っているとの事だね。
点在する村々に、それぞれ冒険者ギルドの支部を置く事も難しいため、その一番大きい場所に一つだけあるって、依頼書には書いてあるから、そこに行けば話を聞けると思う。
ただ、冒険者ギルドと言っても、このあたりは冒険者が少ないらしく、建物自体も質素らしい。
まぁ、鉱山で鉱夫が集まる場所だし、魔物が出る事は稀らしいから、仕方ないのかなと思う。
冒険者の仕事がないわけじゃないんだろうけど、それでも魔物と戦う事をメインに考えると、冒険者がそこに留まる利点は少ないしね。
「ふむ……中々に寂びれておるのう……」
「依頼書では、鉱石を発掘する鉱夫達で賑わっている……って書かれていますけど……?」
「ふむ、鉱山の内部に魔物が出た事と関係しているのかもしれんな。とにかく、冒険者ギルドに行って話を聞いてみよう」
「そうだね。それが手っ取り早いか」
少しだけ山を登ってある程度歩いたあたりで、背の低い建物群が見えてきた。
一応、柵はあるけど魔物の侵入を防ぐ壁などはなく、入り口にも見張りをしている衛兵さんとかはいなかった。
ちなみにこの街の名前はブハギムノングの街と言い、鉱山の名前をそのまま取ったようだ。
入り口横に立て看板があって、そこに書かれていたからわかった事だけど。
鉱山の名前しか依頼書に書かれていなかったのは、名前が同じだからだったんだろうね……入り口に看板があるから、ここに来たらわかるっていう理由もあるんだろうと思う。
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