第540話 ルジナウムの冒険者ギルドもリクに驚く



 ギルド内には、ちらほらとしか人がいなかった。

 しかもほとんどが、テーブルに座って何かを食べている様子だから、ちょっと早めの昼食にしていたところなんだろう。

 もう少し人がいるかと思っていた俺が漏らした言葉に、ソフィーとエアラハールさんが解説してくれた。

 確かに、朝一番で依頼を受けて取り掛かれば、その日のうちに終わる事もあるだろうし、できる事なら翌日にまで繰り越したりはしたくないか。


 Cランク前後は依頼の取り合い……というのは、多分CやDランクの冒険者が一番多い層である事と、依頼のランクもそこに集中しがちだからだろうね。

 依頼は多いけど、冒険者も多いから、より良い条件の依頼を求めてというわけだね。

 モニカさんの言う通り、俺の場合はほとんどがヤンさんやマティルデさんと話して……という事が多かったから、そういった事を経験した事がない。

 とはいえ、大勢がバーゲンセールに群がる様子を思い浮かべているから、積極的に参加したいとは思わないけどね……想像違いかもしれないけど。


「ようこそ、ルジナウム冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 この時間に人が少ない理由に納得しながら、カウンタへと近付く。

 受付の人が三人いる中、一番右側の人へと近付くと、すぐに向こうから声をかけられた。


「えぇと、依頼は既に受けているんですけど……」

「依頼達成不可の申し出でしょうか?」

「いえ、そうではなくて。王都の冒険者ギルドから受けてきたんです。えっと……これですね」

「王都からの……拝見させて頂きます。……失礼ですが、冒険者カードを確認させて頂いても?」

「はい、どうぞ」


 既に依頼を受けているのに、冒険者ギルドの受付に来るというのは、そういう風に取られるのか……。

 もちろん、俺達は依頼が達成できないからという報告をしに来たわけじゃない。

 マティルデさんから預かった、ルジナウム近くの森を調査する依頼書を取り出して、受付の女性に見せた。

 それを受け取った女性は、依頼書を確認後俺の冒険者カードを求められた。


 依頼書にはAランクの依頼とはっきり書かれているから、ランクとかを確認する必要があるんだろう。

 ……エアラハールさんに言われて、俺が来て良かったかもしれない。

 もしかすると、Cランクの冒険者カードしか持っていないモニカさんだと、訝しがられただろうからね。


「……えぇっ!?」

「どうかしましたか?」

「あ、いえ……その……失礼しました! ただいまギルドマスターを呼んで参ります!」

「え?」

「あぁ、ここもあれね」

「そうだな。いつもの通りだ」


 俺の冒険者カードを見た女性は、驚いて何度も俺とカードを見ていた。

 首を傾げて、何か問題があったかと声をかけると、素早く頭を下げた女性はギルドマスターを呼んで来ると言って、奥に引っ込んでしまった。

 他の場所に座っていた受付の人達も、何事かとこちらを注目していて、少し恥ずかしい。

 後ろでは、モニカさんとソフィーがまた何事かを話しているけど、これはさすがに俺でもわかった。


 中央冒険者ギルドでも、似たような事があったしね……。

 Aランクなのはカードを見ればわかるし、英雄だとかってのはもうここでも知られている事らしいから、責任者を呼んで来るという事なんだろう。

 そこまで大事にしなくても、依頼の確認と情報を教えてもらえれば、それでいいのにな……。


「ある意味、話が早くて助かるんじゃないかの?」

「まぁ、受付で話すだけだと、確認したり許可を取って来たりだとか、多少時間がかりますよね」

「だが、ギルドマスターと話すのも、それはそれで時間がかかったりするぞ? 目的の話自体はすぐに終わる事が多いが……」


 冒険者ギルド内の、あらゆるところから視線を向けられながら、受付の女性がギルドマスターを呼んで来てくれるのを待つ。

 その間、俺の後ろではモニカさん達がのんびりと話しているけど、皆視線が集まっている事は気にしていないようだ。

 人が少ない事もあるけど、多分王都で慣れてしまったんだろうなぁ……。

 俺なんて、未だに慣れなくて今もいたたまれない気持ちなのに……ズルい。


「お待たせしました!」

「おう、待たせたな。お前がリクか? ふむ……見た目は特に変わったところはないな」

「あ、どうもです。リクと言います」

「あぁ。すまないな、俺ぁこんな喋り方で、例え英雄様と言えど畏まった話し方はできねぇんだ。無作法は許してくれ」

「それは気にしなくても大丈夫ですよ。ギルドマスターですし、年齢もそちらの方が上ですしね」

「話がわかるなぁ。さすが、英雄様ってところか? おっと忘れてた、俺の名はノイッシュだ。ここのギルドマスターをやってる」


 受付の女性が連れて来たのは、スキンヘッドで強面のオジサンだった。

 割と大きめの声で、マックスさんやヴェンツェルさんよりも大柄なのには、少し驚いた。

 喋り方も相俟って粗雑な印象を受ける。

 マックスさんよりも少し若く見えるくらいで、大柄な体格と強面なのもあって現役冒険者……しかもそれなりの高ランクと言われても通じそうだ。


 一応、喋り方について謝られるけど、俺はギルドマスターや年上の人に畏まられるほど偉い人間じゃないからね、特に気にしていない。

 むしろ、こっちの方が話しやすくて楽かも、というくらいだ。

 気にしていないことを伝えると、ニッと歯を出して笑い、自己紹介。

 ノイッシュさんね……強面だけど、歯を出して笑う表情は悪い人には見えない。


「それで……例の依頼に関してか。奥で話そう。――案内してやれ」

「畏まりました」


 ノイッシュさんが受付の女性に指示を出し、奥へと案内される俺達。

 カウンターの内側にいたノイッシュさんは、準備があるようで、少し後に来るようだ。

 奥へと案内される道すがら、案内してくれている女性に聞こえないよう、ソフィーとモニカさんがボソボソと話していた。


「言った通りだろう? やはり少し時間がかかりそうだ」

「そうみたいね。まぁ、ギルドマスターが出てくる以上、不確かな情報が出て来る事はないでしょうし、それはそれで時間を割く意味もあるかもしれないわ」


 二人の話し声をちらりと聞いて、俺はやっぱり冒険者ギルドに付いて来ない方が良かったんじゃ……。

 なんて一瞬考えたけど、ギルドマスターから直接話が聞けるのなら、ただ依頼を受けて調査をするよりも、正確な事を事前に知っておけるだろうから、それでいいのかなと考え直した。

 特別扱いにもなるんだろうけど、これくらいは問題ない……かな?


「待たせたな!」

「いえ、大丈夫です」


 部屋へと案内され、テーブルへとついて待っていると、数分遅れてノイッシュさんが入ってきた。

 その手には、書類の束を持っているから、依頼に関する情報が書かれている資料でも持って来てくれたんだろう。


「……こういう事は、あまり得意じゃないんだが……ギルドマスターをやっていると、やらなきゃなんねぇからな……」


 見た目通りというか、ノイッシュさんはヴェンツェルさんと同じようで書類仕事は苦手なようだ。

 ヴェンツェルさんと違うのは、仕方なくであっても逃げずにちゃんとやっている事か。

 テーブルの向かいに座り、持って来た書類を確認しながら、ぼやくノイッシュさんに苦笑した――。



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