第541話 喧嘩を始めるギルドマスター
「んで……森へと集結している可能性のある魔物の調査……か」
「はい。王都のギルドで依頼を受けて来ました」
「わざわざ、英雄様に頼む程かどうかはわからんが……高いランクの魔物も目撃されているし、その方が危険も少ないか」
「それなんですが……実は……」
森の調査に関する事を話し始める前に、ノイッシュさんへ俺は直接調査をしない事を伝える。
モニカさんとユノに任せて、他の場所の調査依頼をするためだ。
「……確かに、こちらよりも鉱山の方が緊急性はありそうだから、英雄様が行くのも間違っちゃいねぇが……そっちの嬢ちゃん達がねぇ……?」
「そうなります。一応、数日に一度はこちらへ来て様子を見るようにはしますが……」
この街に残って、実際調査をするのはモニカさんとユノだと聞いて、渋い顔をするノイッシュさん。
まぁ、Cランクのモニカさんと、冒険者ですらないユノなのだから、そうなるのも仕方ないかもね。
「こちとら、王都のギルドへ依頼をぶん投げた側だから、向こうが決めた事に異を唱える事はできんが……それにしてもな……」
「そうなんですか?」
「まぁな。ルジナウムの街は、森が近い事もあって魔物は少なくない。そのうえ、王都と他の街を繋いでいる要所とも言えるから、規模に対して冒険者の数は多い方なんだ。だが……今は生憎と、高ランクの奴らが少なくてなぁ……せめてBランクでパーティを組んでいる奴らが望ましいんだがな?」
調査の依頼はそもそもに、この街のギルドから王都へ頼んだ依頼だったらしい。
この街から近い場所での調査依頼なんだから、通常はここのギルドで処理するべき案件なんだろうけど、調査を任せられる冒険者がいなかったという事だ。
調査の依頼は信頼のおける冒険者に依頼するものらしいし、強い魔物も確認しているから、不足している高ランクに任せるためだろう。
となると多分、鉱山の方も同じような理由で、王都のギルドに依頼が来たんだろうなぁ。
「Bランク自体はこの街にもいるんだが、それが複数固まってパーティを組んでいるわけでもねぇ。いくつかのパーティを指名して、Bランクを固まらせる事もできたが……数が多くなると魔物を刺激しかねんからな。魔物の討伐が目的じゃなく、その前段階の調査なんだから、刺激して戦闘ばかりやられても駄目だろう。まぁ、それで得られる樹方もあるだろうが……今はまず何故魔物が森付近に集結しているのか、どんな魔物がいてどう対処するべきかの情報が欲しいんだ」
「それで、王都のギルドへ依頼を……」
「そうなる。王都には、この街以上に冒険者がいるからな。それに、高ランクも当然いる。まさか英雄様でAランクが来るとは思わなかったがな。だが……その本人が別の所へ行って、残るのがCランクの嬢ちゃんと子供じゃぁなぁ……」
段々と頭を悩ませるようになる、ノイッシュさん。
モニカさんはCランクとはいえ、マックスんやマリーさんに鍛えられているから、そこらのCランクよりいい人材だと思うけどなぁ……それなりに魔物と戦う経験もしているし。
それにユノは……まぁ、見た目はただの小さな女の子だから、そう思うのも無理はないかな。
それでも、剣を使って戦わせたら、この場にいる誰よりも……多分エアラハールさんよりも強いんだけどね。
あと、俺がわからなかった国境の結界にも気付いたし……もしかすると調査をするうえでは俺以上に適任かもしれない。
「私は子供じゃないの! ……見た目は子供だけどなの……」
うん、本当に見た目は小学生くらいの子供だね。
実年齢は……怒られそうだからあまり考えないようにしているけど、確かに子供とは絶対に言えないくらい生きているのは間違いない。
「いや嬢ちゃん、魔物もいるんだぞ? それも、とっても強い魔物だ。確かに剣や盾を持っていて、多少は戦えるのかもしれんが……それにしたってなぁ……」
ユノは今も、マックスさんから譲り受けた剣と盾を持っている。
さすがに、ずっと手に持っているわけにもいかないから、背中に背負っているけどね。
立派な剣と盾なのは、マックスさんが使っていた物だからだろうし、そこからノイッシュさんはユノも多少戦えると考えたんだろう。
それでもやっぱり、強い魔物には敵わないと思っているようだ……見た目からは、そう考えるのが当然なんだけどね。
「ママゴトは、宿に戻ってからしてくれねぇか? とにかく、調査の方をどうするかだな……」
「大丈夫なの、私は戦えるの! オジサンの目は節穴なの!」
「なに……?」
ユノへの話を切ったノイッシュさんが、俺が鉱山へと行くという事で、調査依頼をどうするか考え始める。
しかしユノは、ママゴトと言われたのが気に障ったのか、ノイッシュさんに対して叫んだ。
節穴と言われたノイッシュさんは、訝し気な表情でユノを見るが、そのこめかみは少しピクピクしている。
悪い人ではないんだろうけど、見た目通り喧嘩っ早い人なのかもしれないな。
そこからしばらく、ノイッシュさんとユノが口喧嘩のように叫び合う。
ユノはともかく、いい大人でギルドマスターという地位にあるノイッシュさんが、見た目はただの子供と対等に言い合っているというのは、なんというか……微妙な気分だ。
「見せかけの筋肉ダルマなの。頭の中にも筋肉が詰まっているの!」
「上等だ嬢ちゃん! これが本当に見せかけかどうか、思い知らせてやる!」
「こっちこそ上等なの! その筋肉にもわかるように教えてあげるの!」
「……止めなくていいのか、リク?」
「止めたいんだけど……でも、このまま言い合うだけならまだしも、実際に戦う方向へ行きそうだし、そっちの方がユノの実力を理解してくれそうじゃないかな?」
「まぁ、そうだな」
「ひょっ、馬鹿なギルドマスターじゃて。ワシがいつも殴り飛ばされるのは、嬢ちゃんに相応の強さがあるからなのにのう……」
「ユノちゃんも悪いけど……子供に対して本気で怒るギルドマスターは、一度痛い目を見るべきよね」
「あの人間……死んだのだわ……」
ヒートアップするユノとノイッシュさん。
ユノからの挑発に、腕まくりをするような仕草で立ち上がるのを見ると、本当に頭の中も筋肉が詰まっているという言葉は当たっているのかもしれない。
いや、ギルドマスターにまでなっている人なんだから、それは失礼過ぎるかもしれないけど。
ともかく、このまま放っておいても、ユノがノイッシュさんに実力を見せて、納得してくれるという流れになりそうだから、ソフィーに言われても止める気にはならなかった。
ずっと口喧嘩をするだけなら、さすがに止めたけどね……というか、ユノ、楽しそうだし……止める必要性は感じない。
エアラハールさんは笑って見ているし、モニカさんはユノというより、大人げなく子供を馬鹿にしたノイッシュさんに怒っている様子だね。
ただエルサ……俺の頭にくっ付いたままボソッと物騒な事を呟かないでくれ……。
さすがにユノだって、こうして喧嘩をしている相手とは言っても、殺したりはしないよう手加減するだろう。
……手加減、するよね?
さすがにギルドマスターという地位ある人を殺してしまう……なんて事になったらいけないので、注意してユノを見ておく事にする。
いざとなれば、結界も使わないとな……いや、あれはユノが破ったんだっけか……やっぱり、止めておいた方が良かったかも……。
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