第539話 衛兵に歓迎されて街の中へ



「おい、お前もこちらへ来い! ――失礼致しました。まさかあのリク様だとは知らず……」

「は……はっ!」

「あぁ、いやいや、特に気にする事はないですよ?」


 隊長さんが、俺と一緒にいた衛兵さんに声をかけ、自分の後ろへと下がらせる。

 それを見てからもう一度、俺に向かって深々と頭を下げた。

 ……あぁ……そういう事ね。

 モニカさん達が何を話していたのかわかった。

 

 最近はこういう事が少なかったけど……俺が勲章を持っているからだとか、英雄だからとかで驚かれたパターンだね。

 別に俺は、普通にしてくれていれば大丈夫だから、気にしないしさっきのままで良かったんだけど……。


「噂に名高いリク様と、こうしてお会いできて光栄です。……この街には何用で?」

「冒険者としての依頼でちょっと……」

「は、左様でございますか。やはり、最近この街周辺の魔物が増えた事と関わりが?」

「うーん、多分あるかなと思うんですけど、はっきりとそうだとは言えませんね。とりあえず、冒険者ギルドに行ってから確認してみます。あ、この街の冒険者ギルドは、どこにありますか?」

「了解しました! 冒険者ギルドでしたら……おい!」

「はっ!」


 隊長さんは、俺が来た事で何かがあったのかと思ったのか、少し窺うような視線。

 観光とかで来たわけではないけど、俺が来たからと何かが起こると考えるのは、止めて欲しい……そこまで考えられているかはわからないけど。

 ……まぁ、いままで俺が行った街で、何も起こらなかった事なんてないようにも思えるから、間違いじゃないんだけどね。

 でもそれは、俺のせいじゃないじゃなく、偶然のはずだ……きっと……多分。


 内心自信をなくしながらも、隊長さんと話す。

 ついでだから、冒険者ギルドが街のどこにあるのかも聞いておこう。

 もしかしたらエアラハールさんが知っている可能性もあるけど、これくらいは頼らずに自分で聞くくらいはしないとね。

 隊長さんが、別の衛兵さんに声をかけ、詰所から街の地図を持って来てもらっていた。


「ふむふむ……成る程。ここですね、わかりました。わざわざありがとうございます」

「いえ、これくらいは。また何かあれば、街の兵士には伝えておきますので、遠慮なく声をかけて下さい」

「はい」


 地図を確認し、冒険者ギルドまでの道筋を教えてもらい、隊長さんにお礼を言う。

 隊長さんは遠慮なくと言っているけど……兵士さんに頼む事はそうそうありそうにもないから、その機会はなさそう、かな。

 それに、この街に残るのはモニカさんとユノで、俺は今日中にでも街を出て北へいくからね。

 一応、連絡のために二日から三日に一度は様子を見に来るつもりだし、モニカさん達に何かあれば、心おきなく兵士さん達に頼んでもいいと思う。


「それでは……」

「はっ!」


 隊長さんや周囲に集まっていた衛兵さん達に挨拶をして、皆で街の中に入る。

 ルジナウムの街は、逆台形の形をしていて、南以外に出入り口となる門がある。

 南は、森が近いために魔物が襲って来る可能性を考えて、門がないらしいと、隊長さんに教えられた。

 西側の門は王都へ続く街道、東側は別の街へ……北側は俺が行こうとしている、鉱山方面へと続いている街道がある。


 街の南と森の間はそれなりに離れているけど、街道は通っていない。

 東もそれなりだけど、北側が特に人の往来が多いようで、街北が発展した結果、外壁を拡張したりしいくうちに、今の形になったらしい。

 三つある門の周辺は、食べ物屋や宿が多くあるらしく、街外に近いという事はあるものの、訪れた旅人や商人、冒険者にとってはありがたい配置になっているらしい。

 さらにその宿や店屋を内側へ行くと、冒険者ギルドや街の行政を行う施設等々があるらしく、一番内側は民家や市場があるようだね。


 そのため、外壁近くは冒険者や旅人が多く、そこから内側へと行くにつれ、街に住んでいる住人の割合が多くなっていくようだ。

 ある意味住み分けができていて、外から来た冒険者と街の住民の間で、諍いが起こる事が少ないらしい。

 さすがに、全くないわけじゃないみたいだけどね。


「えーと、確かこの道を真っ直ぐ進んで……」

「へー、食べ物屋も、ある程度固まってあちこちに点在しているのね。……競争が激しそうだわ」

「ふむ……あちらは工房街となっているのか。区画整理されているためか、それぞれの場所に固まっている事が多いようだな……」

「初めて来る街なの! 色々見て回るのー!」

「そういえばこの街は、比較的覚えやすい街じゃったの。店が乱立して、道が入り組んでいる事もあるが……全体は覚えやすい」


 教えてもらった地図を頭に思い浮かべながら、皆を先導して歩く。

 後ろについて来る皆は、街の様子を見ながら付いて来ている。

 昼が近くなってきているからか、モニカさんが注目している食べ物屋の方へ人が集まっているようだ。

 ソフィーが見ている方向では、武具を売っていたり作っている建物が多いらしく、冒険者風の人達が多く向かっていた……けど、本当にそこが工房街なのかは、時折見える建物の煙突から煙が出ている事でしか確認できない。


 ユノはキョロキョロして、楽しそうに歩いていて、エアラハールさんはやはりこの街にも来た事があるらしく、街の事を思い出しながら呟いていた。

 そのまましばらく進むと、急に周囲から店屋がほとんど見られない区画に出る。

 多分、ここから行政区とも言える区画になるからだろう。

 段々と、周囲を行き交う人達も、冒険者や旅人に見える人達に混じって、この街に住んでいると思われる人達も多くなってきた。


「あ、あれだね」

「王都のような、特徴ある建物じゃないみたいね?」

「まぁ、あれは特殊過ぎる例だろう」


 しばらく進むと、冒険者ギルドの看板が掲げられた建物を発見。

 王都にある中央冒険者ギルドとは違い、ヘルサルやセンテにあるような普通の建物だ。

 それでも、他の建物に比べると大きいけどね。

 ほとんどの場合、訓練場みたいなのも併設するのが当然になっているようだから、大きくなるのも仕方ないか。


 冒険者ギルドの建物へ入り、皆と一緒に中を見渡す。

 センテやヘルサルに近い造りで、入り口から大きく空間を取って、所々にテーブルが置いてある。

 奥にはカウンターが備えられており、その向こうには一定の間隔を空けて三人の職員と見られる人が座っていた。

 そこで、依頼を受けたり報告したりするんだろう。


「思っていたより、人が少ない……かな?」

「もう昼になるからな。食事をするためという者もいるだろうが、大体は依頼を受けて外に出ている頃合いだ」

「高ランクならまだしも、それ以外のランク……特にCランク前後は、依頼の取り合いじゃからなのう。条件の良い依頼を求めて、朝のうちにギルドへ詰めかけ、昼にはもう依頼進行中じゃ」

「それに、早いうちから依頼に取り掛かれば、その日のうちに終わるものもありますからね」

「そうじゃの」

「へー……そうなんだ」

「リクさんは、ほとんどが冒険者ギルドの偉い人から頼まれる事が多いからね。ソフィー達が話している事とは、無縁よね……」


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