第536話 冒険者ギルドは情報交換場でもある



「成る程……それなら、街の冒険者ギルドまで行って……時間があれば鉱山へ移動、かな?」

「そうね。それがいいと思うわ。私とユノちゃんはそこから宿探しと情報収集ね。……酒場が一番いいかしらね?」

「んー、情報収集といえば、酒場というイメージだけど……」


 どうなんだろう……?

 確かに酒場だと色んな人が集まるし、お酒が入っているから口も軽い。

 そのため情報収集という意味では酒場が最適なんだろうけど、モニカさんとユノだからなぁ……。

 ユノがいればモニカさんが危険な目に合うとは思わないけど、騒ぎは起こしてしまいそうだ。

 以前にも、モニカさんが声をかけられていた事もあるしね。


「それは早計というものじゃ。街中の情報や商売や噂という意味でなら、確かに酒場は最適じゃ。じゃがのう、今回は冒険者ギルドも把握している事なのじゃろう? それならば、ギルドの職員やそこに集まっている冒険者に聞く方が良かろうて。大抵の場合、冒険者ギルドには簡易的な食堂があり、酒も提供しておる。冒険者同士で情報交換をするためじゃな」

「そうだな。私もよくセンテの冒険者ギルドで、世話になっていた事がある。冒険者同士で情報交換をしたりと、交流の場だな。そこでパーティを組む事にするというのもよくある話だ。……まぁ、私がいた一番の理由は、冒険者用で登録している者は安く食べられるからなのだが……」


 成る程……そういう事もできるんだね。

 確かにヘルサルでもセンテでも王都でも、俺が行った事のある冒険者ギルドは全て、何かしらの食べ物を提供している感じだった。

 冒険者同士の交流か……そこでなら、調査する事に関する情報や、魔物の事も聞けそうだね。

 それに、酒場よりも安全そうだし、酔った冒険者に絡まれる事はあっても、他の冒険者がいたりギルド職員がいるから、あまりおかしな事にもならないだろう。


「そういえば、私はそういったところで話を聞いたりする事がなかったわね。いい機会だし、ギルドでの情報収集に努めるわ」

「もちろん、宿や他の場所での情報収集も重要じゃが、今回は魔物に関する事が多いじゃろうし、それで十分じゃろう」

「ありがとうございます、エアラハールさん」

「……なに、若い者達が冒険者としての務めを果たせるようにする事も、ワシのような引退者の役目でもあるわい。それにしても、マックスやマリーはこういう事を教えておらんのか? 基本じゃろうに……」


 酒場でも情報を集める事はできたかもしれないけど、冒険者相手だともっと詳しい情報が聞けるかもしれない。

 それに、モニカさんとユノの二人でそういった場所に行く事への心配も、エアラハールさんの助言で解消できた。

 感謝をすると、視線を逸らして照れた様子のエアラハールさんだけど、引退してもそういった心が前でいるというのは、冒険者として確かに信頼できる人だったんだろうと思う。

 女性にちょっかいを出さなければ……という注釈も付くんだけどね。


「マックスさん達は冒険者としての知識を教えてはくれましたけど……情報収集に関しては……獅子亭がありましたからね……」

「そうよね……うちの店自体が、情報収集の場でもあったのよね。だから、他で話を聞くというのはあまり考えていなかったわ」

「そういえば、店をやっていると聞いたのう……」


 踊る獅子亭は、ヘルサルでも人気のお店だ。

 近頃ではヘルサル以外でも、口コミで広まっているらしいけど……ともかく色んな人が集まるから、それだけで情報が集まる。

 ほとんどがお客さん同士での会話だけど、店で働いていると聞こえて来るしね。

 時折、マックスさんやマリーさんを含め、誰かを呼び止めて語り始める人もいるけど……大抵お酒が入っての与太話が多かったりもする。


「それに、冒険者ギルドに行ったらいったで、大体お偉いさんが出てくるのよね。リクさんと一緒だと」

「んー、そういえばそうだね。大体奥に案内されてそこで話を聞いて……ってのが多いね」

「英雄と呼ばれ、ドラゴンとの契約者……特別扱いにも繋がりかねんが、そういった扱いになるのも頷けるの。野放しにしたら何をするかわからん」

「えー、俺はそんな、おかしな事をしようだなんて考えませんよ?」

「本人はそう思っていても、周囲がどう考えるかじゃ。誰にも手が付けられないのなら、せめて話し合って行動を把握しておいた方が安心じゃろう?」

「……そういうものなんですかね」


 まぁ確かに、知らないところで何かしてしまいました……ってなるよりは、把握していた方がいいのかな。

 そんな事をするつもりはないけど、誰もが俺の考えをわかるわけでもないから、仕方のない事なのかもね。

 少しだけ腑に落ちない感覚がありながらも、エアラハールさんの言っている事ももっともなので、細かい事は気にしない事にした。

 朝食も終わり、荷物を確認して部屋を出る。


 予定に関してはまずルジナウムの街へ行き、冒険者ギルドで調査依頼の受付をする事。

 モニカさんとユノは、そこから情報収集にあたって、俺達は鉱山へという流れだね。

 ちなみに、鉱山に行ってからの予定に関しては、エアラハールさんからは「流れでいいじゃろう」なんて言われた。

 行き当たりばったりなのも冒険者の醍醐味……と言われて納得したけど……予定を立てない人なのに、俺達の予定を聞いて来たのは何だったんだと思わなくもない。

 一応、ルジナウムの街での予定や、俺が冒険者ギルドに行かないといけない……という事がわかったから、無駄じゃなかったけどさ。



「ほー、こんなに大きくなるのじゃのう……これは圧巻じゃ。逆らおうとか、戦いを挑もうとか考えるのが馬鹿らしくなるわい」


 中庭に出て、エルサに大きくなってもらい、荷物と一緒に背中へ乗り込む。

 大きくなったエルサを初めて見たエアラハールさんは、乗り込む前に見上げて感心していた。

 確かに、この状態で踏まれるだけでも命の危険があるだろうし、これで魔法も使うからね……戦いを挑もうなんて考える事自体がおかしな事に思えるかもしれない。


「りっくん、気を付けて……というのは言わなくても大丈夫そうね。りっくんに敵う魔物なんていないだろうし。けど、くれぐれも鉱山は壊さないでね?」

「いや、いないと限ったわけでもないと思うけど……というか、俺が鉱山を壊す前提なの?」

「だって……手加減しなかったらやりそうでしょ? ヘルサルの時の事を聞いているしね……」

「いやまぁ、あの時は確かに手加減とか考えてなかったけど。でも、さすがにもうあんな事はしないよ。今回はエアラハールさんもいるし、剣の訓練という意味合いも強いからね。魔法はできるだけ使わないと思うよ」


 姉さんの物言いに対して、微妙に納得いかないものを感じながらも、鉱山を壊したりしないと約束する。

 そもそも、魔法禁止って言われているからね。

 別に使おうと思えば使えるけど、それじゃ訓練にならないし、できるだけ守らないと。

 ……モフモフを禁止にされないためにも!



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