第535話 朝と予定の確認



「っと、話し込んでしまいましたね。遅くまですみません。昨日も遅くまで起きていたのに……」

「いえ、これくらいはお気になさらず。それでは失礼致します。何か御用がおありでしたら、何なりと……。話し相手というだけでも構いませんので、遠慮なさらずに」

「ははは、また話したくなったら呼ぶかもしれませんね。それじゃ、お休みなさい」

「お休みなさいませ、リク様」


 話し込んでしまって、夜が深くなっている事に気付き、話を切り上げる。

 昨日も空を飛んで帰って来るまで、起きて待っていてくれたからね。

 ゆっくり寝て疲れを癒して欲しいと思う……まぁ、明日からしばらく王城を離れるから、その間に休むのかもしれないけど。

 色々自分の心情なんかを吐露してしまった気がして、少し恥ずかしい。


 ヒルダさんと挨拶を交わし、部屋から出て行くのを見送る。

 とは言っても、扉一枚を隔てた部屋で待機していていつでも呼べるようになっているけど。


「さて、明日は移動があるから、さっさとお風呂に入って寝ようか、エルサ」

「話が長いのだわ。早く私を洗うのだわ~」

「……すっかりお風呂がお気に入りだなぁ」


 エルサに声をかけ、抱き上げてお風呂場へと移動する。

 ようやく話が終わったと、小言を言うようなエルサだが、その声は機嫌良さそうだ。

 俺がヒルダさんとゆっくり話して、溜めている物を吐き出せたと喜んでくれているのだろうか……考え過ぎかな?


 それはともかく、お風呂やドライヤーが好きなドラゴンっていうのも、中々面白いなぁ。

 いくら撫でていても、飽きないくらいモフモフだし……なんて考えながら、エルサのモフモフを保つため念入りに洗って、乾かしてやった。

 いつもならドライヤー中に寝るエルサが、ベッドに入った俺に寄って来るようにして寝たのが、嬉しかった。

 やっぱり、さっきヒルダさんと話した事を考えてくれてるんだろうな……。

 ありがとう、エルサ。



――――――――――――――



「朝なのー!」

「うぉ!?」

「んー……だわ」


 夢を見ているような見ていないような……そんなまどろみの中で、急に大きな叫び声が聞こえた。

 慌てて飛び起きた俺が、ベッドの横を見るとそこには、既に旅支度を整えたユノやモニカさん、ソフィーがこちらを見て苦笑していた。

 いや、ユノは楽しそうだったか……俺を起こすのって楽しいのか?

 それはともかく、以前の注意を聞いてくれて、お腹に飛び乗るのは止めてくれたようで何より。


「あー、おはよう皆」

「おはよう、リクさん」

「おはよう。今日も少し起きるのが遅いな。疲れているのか?」

「おはようなのー!」

「ユノは朝から元気だなぁ。疲れは溜まってたりしていないと思うから、大丈夫」

「そうか、それなら安心だ」


 隣でまだ寝ようとしているエルサを持ち上げ、頭にくっ付かせながら皆に朝の挨拶。

 昨日に引き続き、俺が起きるのが遅かったから、ソフィーに心配をかけてしまったようだ。

 いつもなら、皆が部屋に来るよりも先に起きている事が多いからね。

 でも、特に疲れは感じていないし、ユノの叫びで起こされても体が重いとかそういう事はないから大丈夫。


 というか、この世界に来て……というよりエルサと契約してからというもの、疲れを感じる事が少ないんだけど、これもやっぱり魔力がどうのという関係があるんだろうか?

 さすがに、精神的には疲れる事はあるけどね。


「ふむ、今日は昨日のように昼まで寝ている、なんて事はないのじゃな」

「エアラハールさん、おはようございます」

「うむ」

「偉そうなの……」

「いや、剣を教えてもらってるし、年齢も大分上だから、実際偉いんだけどな? 元とはいえAランクのベテランだし……」


 ソファーの方からは、ヒルダさんに淹れてもらったであろうお茶を飲みながら、エアラハールさんの声。

 そちらにも挨拶をしたら、鷹揚に頷かれた。

 ユノが若干胡散臭そうな目を向けているが、実際エアラハールさんの教えは適格だと思うし、偉い人だと思うから特に気にしてないんだけど……地位とかとは別に、ね。

 ただユノにとっては、女性に変な事をしたり言ったりする、失礼なお爺さんとしか思っていないのかもしれない。

 何度も、殴り飛ばしたり蹴り飛ばしたりしてるからなぁ……。


「おはようございます、リク様。ゆっくりとお休みになられましたでしょうか?」

「ヒルダさん、おはようございます。おかげさまで、ぐっすりと」

「それは何よりでございます」

「……ん?」


 エアラハールさんの次は、部屋の入り口付近で待機してくれているヒルダさんから声がかかる。

 昨日の事があるからか、ちょっとヒルダさんと目を合わせるのは恥ずかしい。

 いつもは、簡単に挨拶をしてお茶を淹れてくれるのに、今日は少し違ったので、モニカさんが不思議に思って首を傾げていた。

 とはいえ、特にそれで何かが変わるわけでもないし、いつものようにお茶の用意を始めてくれたので、特に説明したりはしない。


 皆を守りたいとか、一人になりたくないとか……改めてモニカさん達に言うのは恥ずかしいしね。

 ヒルダさんもそれはわかっているのか、モニカさんからの視線を受けながらも、気にした様子は見せずいつも通りに動いてくれた。


「さて、今日から冒険者の依頼をこなす事になるようじゃが……予定は考えてあるのかの?」

「はい。まずはエルサに乗って街へ移動。モニカさんとユノを下ろします。そこから俺とソフィー、エアラハールさんは鉱山へ向かおうかと」

「ふむ……調査依頼はAランクとなっておるかの?」

「えーと……そうですね」


 朝食を頂きながら、エアラハールさんから聞かれて予定の確認。

 モニカさんとユノは、街近くの森を調査する役目だから、まずはそちらへ向かう。

 さすがにエルサでそのまま街へは行けないから、近くで下ろして俺達街を迂回して移動しながら鉱山を目指す……というざっくりとした予定だね。

 今日は移動があるため、調査に関しては明日以降になるだろうけど、それぞれの場所で情報収取をしたりするつもり。


 そう考えながらエアラハールさんに話すと、少し考えて調査依頼のランクを聞かれた。

 依頼書を取り出して確認すると、確かにAランク以上が条件と書かれていた。


「だとしたら、まず街へはリクも一緒に行かないといかんじゃろうの。Aランクの依頼じゃ、いくらリクとパーティを組んでいるとはいえ、Cランクのモニカ嬢ちゃんではの……。まず冒険者ギルドへ行って、依頼と情報の確認が必要じゃから、リクも一緒に行く必要がある」

「……そうなんですか?」

「なんのためのランク制度だと思っておるんじゃ? 冒険者のランクは、強さを表す物でもあるが、信用できる者かどうかという判断にも使われるんじゃ。モニカ嬢ちゃんが信用できないとかではなく、Aランクの依頼なのじゃから、Aランクの冒険者がいるのじゃと示す必要がある」


 ランクというのは、ギルドからの信用度という側面もある……というのは聞いた事があるけど、確かにエアラハールさんが言う通り、Aランクの依頼なんだから俺が行かないといけないか……。

 モニカさんの方が、俺よりよっぽどしっかりしている……というのは、一緒にいる俺だから思う事であって、ランクで判断している人達には関係ない事だしね。

 もしかすると、マティルデさんに頼んだら多少の便宜を図ってくれそうでもあるけど、それは特別扱いしろと言っているようなものだし、贔屓はよくないと思うから――。


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