第533話 土を固めた物の用途



「……確かに、何もないように見えるわね。こんな透明度、この世界ではないと言っても過言じゃないわよ? でも、ちゃんと感触はあるのね」

「そりゃ、透明なうえに触れなかったら、空気と一緒だしね」


 俺が手の平に乗せた結界を、姉さんがツンツンしながら確認している。


「光を通すくらい透明というのは聞いていたけど、ここまでとは思ってなかったわ。……これ、単純に張り巡らせているだけだったら、誰にも見えないわよね?」 

「そうだね。多分、魔物も見えないと思う。まぁ、魔力を感知する力に優れていたら、何かがあるってわかるだろうけど」

「……それなら、ハウス栽培をもう少し煮詰めいないといけないわね。通常では見えない壁なんて、危険だろうし……絶対、何もないと思ってぶつかるわ」

「だから、ヘルサルでは目印を付けたり、木材か何かで囲むようにお願いしたんだけどね」

「というか……ふぬっ……このっ……やっぱり言っていた通り壊れないわね……」

「まぁ、簡単に壊れたら意味がないからね……」


 姉さんは、ハウス栽培に結界を利用する事を優先的に考えているらしく、透明なままでは誰かがぶつかってしまうと想像していた。

 俺も、同じ想像をしたなぁ。

 対策を考えながらも、姉さんは俺の手に乗っている結界を両手で圧迫してみたり、叩いてみたりしているけど、それくらいじゃ結界はビクともしない。

 結界の球が乗っているだけだから、俺の手に押しつけられている感覚くらいはあるけど。


「……これ、農業だけじゃなくて、他の事にも使えそうね。例えば、城壁とかに使えば外敵からの攻撃にかなり耐えられるでしょ?」

「それは……確かにそうだけど。でも、維持するのがなぁ」

「あぁ……そうね。りっくんの魔力を蓄積する鉱石がいるんだったわね。あるかどうかはともかく、様々な用途を考えると、どれだけあっても足りなさそうだから……無理ね」

「でしょ? まぁ、どうなるかはわからないけど、王城を守るくらいには使えるかもね。ハウス栽培と、どちらを優先するかにもよるだろうけど……」

「帝国がどう動くかわからない現状、王城や主要な場所を守る方法は必要だけど……うーん、国民の生活向上も大事だしね……向上させれば、自然と国力も上がって守りも固くなる、と。難しいわね」


 姉さんは、他にも結界に使い道があると考えているようだ。

 結界は無色透明で光を通すから、壁とかにも使えるように思えるけど、そのための維持が問題だね。

 農業にも転用する事を考えると、鉱石とやらがどれだけ必要になるのか……。

 というかそもそも、結界は空気を通さないから、強固な壁になる代わりに完全に密閉したら中にいる人間が窒息する可能性すらあるから、使い方はよく考えないとね。


 エルサに乗った時のように、空気穴を開ければいいかもしれないけど……そうなると建物の大きさ形に加えてだから、うまく使えるかあまり自信がない。

 ヘルサルの時も、ちょっと複雑な形にはしたけど、空気穴がなければ建物に沿うような形でもないからね。

 それに、空気穴を開ければそこから色んな方法で内側に対して何かをする事ができそうだしなぁ……水を流し込むとか、火を当て続けて内部を熱するのと同時に空気を薄くするとか……。

 間違いなく堅牢な建物になるんだろうけど、そういう弱点に対処する方法も考えなきゃいけないから、さらに難易度が上がりそうだ。


 それならいっそ、結界に頼らず壁そのものを強化した方がいいんじゃないかと思う。

 ん? 壁と言えば……。


「そういえばリクさん、ヘルサルの時に使った土魔法の話はしたの?」

「何、その土魔法って? いえ、土に関係する魔法なのはわかるけど」


 俺がヘルサルでの事を思い出すのと一緒に、モニカさんの方も思い出したみたいだ。

 ソフィーも、あの時の事を思い出して頷いていた。


「えーとね、簡単に言うと、土を圧縮して硬くするんだ。ヘルサルでは、棒にしてそれに魔法を伝わせて……という使い方をしたけど……これなら多分、結界よりも建物の壁とかに使えるんじゃないかな?」

「土をねぇ……? レンガみたいなものかしら?」

「あれは、土を焼くでしょ? それとは違って固めるだけなんだけど……まぁ、似てるかもね」

「あまり良さそうには思えないけど……りっくんの事だから、考えられない結果になったのね?」

「ちょっと気になる言い方だけど……そうだね」

「結界同様、壊す事ができませんでした。衝撃や打撃には十分過ぎるくらい強いかと」

「結局、ヘルサルで作った棒は、壊して土に還すのを諦めて埋めたしね……」

「今思えば、もう一度土に対して魔法を使って、分解するようにさせたら良かったと思うけど……あの時は魔法を使い過ぎない方が良かったしね」


 ヘルサルで使った魔法の事を姉さんに説明。

 確かあの時は、俺が叩いても他の誰かが壊そうとしても、ビクともしなかったっけ……。

 多分、水に濡れたら柔らかくなった可能性はあるけど、あの時はそこまでしなかった。

 それに、分解するための魔法を使えば良かったという事も考えられるけど、魔力溜まりの近くだったから、あまり魔力を含んだ物を増やすのもね……。


 結界で内側に魔力だまりを封印するようにしたのに、また別の場所で発生なんて事になったら目も当てられない。

 土を固めたり、分解させたりで結構な魔力になりそうだから。

 あと、姉さんがレンガと言われて思いついたけど、もしあの土の棒を焼けたら、水にも強い壁ができるかも……?


「元が土で、一度形を作れば維持にも手間はかからないか……りっくん!」

「ん?」

「是非、その土魔法とやらで作った物を見せてくれないかしら? 強度を確かめて、使えるかを検討してみたいわ」

「まぁ、俺が魔法を使うだけだし、元手はかからないから別にいいけど……冒険者の依頼をこなさなきゃいけないし、帰って来てからでいいかな?」

「それで構わないわ。なんにせよ、検討したり話し合ったり……こちらでも色々やる事があるしね。……りっくんが帰ってくるまでに、その土を使うよう決めておくわ」


 姉さんがこれだけやる気なのは、帝国が何かをして来る可能性があるという不安からだろうか。

 また以前のように、王城へ魔物が……という事はそうそうないだろうけど、帝国から攻め入って来るという可能性は考えられる。

 実際に、バルテルが動いた時はその準備をしていたみたいだし……。

 いざという時、守りを強固にしておくことは必要な事なのかもね。

 それが、女王様というか、上に立つ者の責務なのかもしれない。


 結界を農業に、土を固めた物を城壁などに使える可能性を考えて、高揚した様子で部屋を出て行った姉さん。

 その後、皆がそれぞれ部屋を出て行き解散となった。

 部屋にはエルサとヒルダさんだけになった段階で、気付いた。


「姉さんに頼まれたから、頷いたけど……よく考えたら全部俺が魔法を使わなきゃいけないんだよね?」

「多分、私でもできるのだわ。けど、リクと比べると規模が小さいのだわ。だから、全てリクがやるべきなのだわ」

「そうだよなぁ……」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る