第532話 帝国の企みと結界の説明
「いや、帝国がどう動こうとしているかまではわからないけど……上空から見た感じだと、単純に境目にある壁のようなものが、暗がりに薄っすら見えただけだし、人は見えなかったんだ。でも、その壁から空に向かって結界が張ってあったんだよ」
「結界……結界っていうと、あのヘルサルでりっくんが農場を覆うのに使って、ハウス栽培にも使えるかを考えている、あの?」
「わかっているとは思うけど、元々農業に使うためのものじゃないからね? ともかく、それが張り巡らされていて……無理矢理通る事もできただろうけど、向こうに侵入した事を知られてもいけないし、何もせずに戻ってきたんだ」
「そう……やはり帝国は何か企んでいると考えても良さそうね。ありがとう、りっくん。貴重な情報を得られたわ。さすがに、空までは調べられないからね」
国境の境目を隔てている壁の上に結界がある事を、姉さんに説明。
これは帝国がまだ何かを狙っている、という裏付けにもなったようで、姉さんからお礼を言われた。
「けどあの結界、何のためにあるんだろう? 空から移動するなんて、エルサに乗った俺達くらいでしょ? 空を飛ぶ魔物を警戒するという意味があるのかもしれないけど……」
あの場での予想は、俺達に向けての警戒じゃないかと考えた。
でも、国一つが俺やエルサに対してそこまで警戒をするというのは、やり過ぎじゃなかなぁとも思う。
まぁ、エルサのようなドラゴンが、空から急襲すると考えての措置とも考えられなくもないけどね。
ワイバーンもそうだし……アテトリア王国の王都へ大量のワイバーンが襲来した事から、空への警戒を強めた、という事も考えられるかも?
「まぁ、りっくんの事を知っていれば、国全体で警戒する気持ちはわからなくもないわね。でも、りっくんは帝国と直接関わっていないし……それを話を聞いただけで警戒するというのは、確かにやり過ぎね。何か確証みたいなのがあれば別だけど。……空を飛ぶ魔物を警戒というのは、理由としてはありだけどね」
「それこそ、この王城に来たワイバーンのような事を想定してとか?」
「あの時の状況を考えると、警戒するのもわかる気はするけれど……どうも違う気がするのよね。これは、私の勘のようなものだけど。とにかく、帝国に対しては警戒を強める共に、対処を考えるようにするわね」
「うん、そうだね。また前みたいなことが起こったらいけないしね」
バルテルの行動で、犠牲になった人は多い。
さらに、王城目指して魔物が押し寄せてきた事で、兵士さん達も多くが犠牲になった。
帝国が今、何を狙っているのかわからないけど、こちら側も警戒するに越した事はないだろうね。
俺にできる事は少ないけど、冒険者として困っている人を助ける事で、間接的にでも姉さんを助けられたらと思う。
「ところでりっくん」
「うん?」
部屋の皆がピリ付いた雰囲気で、帝国の事を考えている中、姉さんだけがいつも通り……というより、楽しそうな雰囲気に変わって俺に声をかけてきた。
あ、皆と言っても、エルサとユノは相変わらず暢気にまだ料理を食べているね。
エルサ達が緊張感を出すような時って、あるんだろうか?
帝国の大規模な結界を前にした時は、確かに真面目だったけど……緊張してたとまでは言えないしね。
「その結界って言うの? 私はまだ見た事ないんだけど、どんな魔法なの? 話には聞いているし、ハウス栽培にも使えないかと考えはしたけど」
「あれ、そうだったっけ? んー……」
「以前、私に乗ったのだわ。その時に結界は見ているはずなのだわ」
「……エルサちゃんに?」
「あー、そうだね。ワイバーンを相手にしようとした時だっけ。確かに乗ってたね」
「もちろん、ワイバーンをわざと近付けて倒すために、結界のオンオフは頻繁に行っていたのだわ。……多分、リクではまだできなさそうだけどだわ」
「そんなに器用な事をしてたんだな……まぁ、確かに短時間でオンオフはちょっと難しいか……。それにあの時、ワイバーンが何の抵抗もなく、エルサに乗っている俺や姉さんに向かって近付いて来てたね」
「ちょっとちょっと、エルサちゃんと話していないで、ちゃんと説明してよ!」
姉さんが好奇心を前面に出して知りたいのは、結界の事らしい。
確かにこれが結界……という感じでは見せていなかったっけ。
そう思っていたら、キューを齧りつつエルサから以前に見た事があるとの指摘。
ワイバーンと戦う時、姉さんも一緒にエルサに乗ったから、確かに見ていたんだよね。
エルサは、基本的に誰かを背中に乗せる時、結界を張っているから。
オンオフをしていたらしいから、わかりにくかったと思うけど……というか俺もそんな事をしていたなんて知らなかったけど。
エルサとあの時の事を思い出しながら話していると、姉さんからツッコミが入った。
そんな様子を、先程まで真剣だった皆は表情を崩して見ていた……ほとんど苦笑だけど。
「説明と言われてもね……えっと、透明な壁を作って、外側と内側を完全に隔離する魔法? 一応、ユノが剣を使って壊したりはしたけど、それ以外ではそうそう壊れる事はないかなぁ……? 透明だから、光は通すみたいだけどね、でも隔絶する感じだから、空気は通さないよ」
「補足としてだが……陛下、私が全力で斬りかかっても、壊れる事はありませんでした。ヘルサルにいた他の冒険者も、武器や魔法を使っていましたが、誰も壊せる者はいませんでした。少なくとも、ヘルサルに設置された結界は、余程の事がない限り壊れません」
「透明な壁ねぇ……? ガラスみたいな物かしら? それともビニールとかプラスチックとか……いえ、あれらは必ずしも透明とは限らないか。でも、光を通して空気は通さないのなら、似たような物かしらね? でも……ソフィーを始めとしたヘルサルにいる冒険者が攻撃しても、壊れる事がなかったって……どれだけ頑丈なのよ……」
結界の性質を考えながら、姉さんに説明する。
ソフィーが補足してくれ、どれだけ壊れにくいかも説明してくれたけど……俺がクラウスさんとスイカの事を話している間に、そんな事をしていたのか。
武器を使うだけならまだしも、魔法まで……まぁ、壊れなかったみたいだから良かったけど。
もし壊れてたら、張り直さないといけなかったかな。
穴が空いてたりしたら、魔力溜まりから漏れ出した何かが、マギアプソプションを呼び寄せるからね。
俺の説明と、ソフィーの補足を聞いて結界がどんなものかを姉さんが考えている。
ガラスだけでなく、ビニールだとかプラスチックという単語が出てくるのは、日本での記憶があるおかげだろう。
俺やユノ、エルサを除いた他の皆は、それがどういうものかわからず首を傾げていた。
プラスチックとかビニールとか……あれば便利なんだけどなぁ。
自然環境的には、悪いのかもしれないけども。
「って、透明って事はもしかして?」
「うん。透明だから姉さんは見てたけど見えてなかったんだよ。結界を張っても、そこに何があるかとかは触ってみないとわからないくらいだからね」
「あー、だから私はエルサちゃんに乗った時に、見たはずなのに覚えがなかったのね」
「そうだね。んー……結界! ほら、こんな感じ」
姉さんは透明という事で、自分が見たけど見えなかったため、結界を見た事がないと認識していた事に気付いたみたいだ。
説明されたり、実際に触れてないと、そこに結界があるなんて気付かないよね。
だからこそ、ヘルサルの結界にも何か目印をして欲しいと、クラウスさんにお願いしたんだし。
ついでだし、別に疲れる事でもないため、ヤンさん達に見せた時のように手の上に丸い結界を出して、姉さんに見せた――。
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