第513話 マティルデさんは要注意人物?
訓練が解散となり、エアラハールさんはお金が入ったからと街の酒場に繰り出すようで、さっさと王城から帰って行った。
朝食や昼食に続き、夕食も食べていくのかと思ったけど、そうじゃなかったみたいだね。
お酒の飲み過ぎや、酔って捕まるような事はしないで欲しいと思うけど……さすがに誰かが見張ってなきゃいけないという人でもないと思うから、大丈夫だと思う。
モニカさんとソフィーは、汗を流すために以前も行った大浴場へ。
二人はいつの間に親しくなったのか、訓練場で訓練をしていた女性兵士さん数人と、仲良さそうにお風呂へ向かった……ついでにユノも。
俺も誰か仲のいい人とと一緒に……と思ったけど、男同士で裸の付き合いという程の事をする人もいないし、なんとなく微妙な感じがしたので、おとなしく部屋のお風呂に入る事にした。
気心の知れた兵士さんというのも、あまりいないしね……。
そのうち、アルネとかエフライムあたりと一緒に入ればいいか。
あ、アルネはそういうのって、あんまり好きそうじゃなかったか……ちぇ。
「ただいま、リクさん」
「おかえり、モニカさん、ソフィー」
「すまないが、髪を乾かしてくれるか?」
「わかった」
先に部屋へ戻り、汗を流してエルサの毛を乾かし終わった頃に、モニカさん達がいい匂いをさせながら戻ってくる。
お風呂上がりの女性の匂いって、なんでこんなに……なんて考え続けていると、変態と思われたりエアラハールさんと同じ人種に思われそうなので、できるだけ意識を向けないようにして、二人の髪をドライヤーもどきの魔法を使って乾かす。
……この魔法もエルサに毎日使っているし、随分慣れたなぁ。
もしかしなくても、この世界に来て一番使っている魔法だと思う。
「リク様、皆様、夕食の支度が整いました」
「ありがとうございます」
変な事に意識を向けないよう、適当にドライヤー魔法の事を考えながら二人の髪を乾かし終わった頃に、夕食の支度を終わらせてくれるヒルダさん。
タイミングを見計らって準備してくれるのは、さすがだね。
気持ち良さそうに、魔法の温風を浴びているモニカさんとソフィーを、ヒルダさんはチラチラと見ていたから、今度やってあげようかなと思う。
まぁ、男の俺に髪を触られてもいいと思ってくれるなら……だけど。
あと、ソファーから見ていた姉さんやレナと、一緒にいるメイさんもかな?
メイさんは、天井に張り付くのを忘れて見入っていたしね……。
「あ、そういえばりっくん。冒険者ギルドに行ったんだって?」
「うん。マティルデさんが王城にも来たみたいだし、一度顔を出しておこうかなって。まぁ、エアラハールさんにお金を払わなきゃいけなかったし……」
「気を付けなさいよ? りっくんのようにぼんやりしていたら、あの女狐……ギルドマスターに襲われるから」
夕食を食べながら、姉さんからなんとなしに聞かれる。
地下通路を通ったし、兵士さんに案内までしてもらっているから、姉さんが知っていてもおかしくないね。
「えっと……襲われても力づくで逃げられそうだけど。……そんなに危険人物なの?」
マティルデさんがどういう人物なのか、詳しくは知らないけど……例え元冒険者だとしても、ヴェンツェルさんのように筋骨隆々というわけでもなし、武器を持っているようにも見えないから、多分大丈夫だと思う。
暗器とか、武器を隠し持ってて……とかだったらわからないけど、そういう感じでもない。
そもそも、襲ってくるような人ではないしね。
「多分、りっくんの考えている襲うとは違うと思うけど……」
「ん? 違う襲うってのがあるの?」
「……陛下、リクさんは私やソフィー、ユノちゃんが見ていますので……あの人におかしなことはさせませんよ」
「……そうね、りっくんはわからなくても、周りに頼もしい人達がいたわね。……お願いね、モニカちゃん?」
「はい」
「ん? え?」
姉さんの言う襲うというのは、俺が考えている事とは違うみたいだけど……他に意味があるのだろうか……よくわからない。
モニカさんが俺の代わりに、見張っておくという事で、姉さんと頷き合っていたけど……最後まで結局わからなかった。
人って、良くわからない事が多いんだなぁ。
「あ、そうだ姉さん。明日……はちょっと早いか。明後日にでも、また依頼のために王城を離れるから」
「また依頼を受けたの? ヘルサルでも、依頼を受けてたみたいだし……もう少しゆっくりしたらいいのに。でも、訓練をするっていうのもあるんでしょ? そっちはどうするの?」
訓練はともかく、俺もゆっくりしたいと思うけど……依頼があるのなら冒険者として受けないと、とも思うからね。
それに、マティルデさんがわざわざ俺に……と言って用意してくれたんだし、断るというのはほとんど考えていなかった。
モニカさんやソフィーも、俺が依頼を受ける事に反対していなかったし、冒険者は依頼を遂行する事が本分でもあるんだから、問題はないだろう。
「訓練の方は大丈夫。エアラハールさんも同行してくれて、空いている時間に見てくれるみたいだから。それに、元とはいえAランクの冒険者が付いて来てくれるんだから、心強いよ」
「そうなのね……話に聞いていると、ちょっと不安な人みたいだけど……まぁ、ベテランの人から助言がもらえるようなら、確かに助かるわね。……りっくんだと不安だし」
「……そんなに信用ないかな、俺って?」
「んー、りっくん自体は信用しているのよ? 自慢の弟だし、可愛い弟でもある。それに、知らないうちにとんでもなく強くなっちゃったみたいだしね。でもねぇ……のんびりしているところもあるし、姉として思うところがあるのよ……」
「そうなのかなぁ……?」
訓練はエアラハールさんが同行するのでなんとかなるし、ベテランの人が付いていてくるというのはある意味チャンスだ。
調査をするというのは初めてじゃないけど、行く場所自体は初めてだし、冒険者としてはまだまだ新米な俺にとって、経験豊富な人が付いていてくれるというのはありがたい。
まぁ、問題行動が多い人でもあるようだから、そっちの意味では大丈夫なのかという心配はあるけど……多分、ユノがなんとかしてくれると思う。
……してくれるといいなぁ。
それはともかく、エアラハールさんの事とは別に、姉さんは俺に対して不安を感じているらしい。
そんなに信用がないのかと思ったけど、そうではないらしく、複雑そうな表情をしていた。
うーん……元ではあるけど、昔から知っている姉弟という事で、何か思う事でもあるのかもしれない。
俺も、不安とまではいわないけど、姉さんが女王様という事で色々と心配している部分はあるんだけど、それと似たようなものなのかもしれない。
信頼していても大事な人に対しては、無用な心配というものをしてしまうものなのかもね。
「まぁ、それはいいわ。今回も無事に依頼をこなして帰って来ると信じているから。……普通の冒険者じゃないしねぇ……」
「でも、今回はちょっと特殊なんだけどね……」
「特殊? どんな依頼なの? 私か聞いても良ければだけど」
「えっと……」
今回受けた二つの調査依頼の事を、姉さんに説明する。
魔物に関する調査なだけで、秘密な事ではないはずだから、姉さんに説明しても問題ないだろう。
というより、調査をする場所の事で、情報を得られるのなら女王様という国内の事をよく知れる立場にある姉さんに説明して、話を聞くのはありだと思う。
もちろん、冒険者ギルドの依頼には極秘と言う物もあるらしく、依頼書にはその旨が書かれている事もあるみたいだから、そこには注意してだけどね――。
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