第512話 基礎的な訓練も忘れずに
「模擬戦でもそうじゃ。誰かが止めるまで、もしくは有効な一撃が入るまでは続くものじゃ。防御できたり、避けられたから終わりというものではないからの?」
「はい……その通りです」
模擬戦でも……と考えていたら、エアラハールさんからも同じ事を指摘された。
一度の攻勢をしのいだだけで終わり、という事ではないのだから、さっきの油断は俺の失点だね。
こういうところが、真剣な戦いに慣れていないと言われるところなんだろうなぁ。
「Aランクならば本来、もっと戦闘を経験してからランクが上がるものじゃが……最年少の最速記録というのは、そうなるのかもしれんがの……」
Aランクになるには、依頼をこなして着実に冒険者活動をしていかなければならない。
そのためには、数多くの戦闘を経験するだろうけど、俺にはそれがないからね。
魔物の大群を魔法で……という事を何度かやっているから、倒した数は多いのかもしれないけど、回数ではまだまだだ。
まぁ、だからこそのヴェンツェルさんに頼んで、エアラハールさんとの訓練なんだけど、こういう事をちゃんと指摘してくれるあたり、エアラハールさんはしっかり育ててくれる事を考えているようなので、安心する。
いや、安心してばかりもいけないか……しっかりしないと。
「モニカ嬢ちゃんとソフィーにも、反省点はあるぞ?」
「「はい」」
俺への指摘を終えたエアラハールさんが、今度はモニカさん達に視線をやる。
二人は真っ直ぐ立って、真剣にエアラハールさんの言葉を聞いて頷いた。
「攻撃距離の短いソフィーちゃんが真っ直ぐ向かって一撃、モニカ嬢ちゃんは長い槍で外側から援護するように攻撃、というのは基本中の基本。そして、上下に横と突きという避けづらい攻撃というのも評価てんじゃ。じゃがのう……まず、ソフィーちゃんが速過ぎるために、最初の攻撃を避けた後、モニカ嬢ちゃんの繰り出す突きに対する余裕を与えておる」
上と下、さらには突きと、横薙ぎの攻撃は確かに避けづらいだろう。
けど、今回の場合ソフィーが先に走り込んで来た事と、距離が近いために体の向きを変える余裕があったくらいだ。
モニカさんの方は、回り込むために動く距離が長かった事と、ソフィーの後に動いていたのも影響しているね。
「相手が避けられない同時攻撃という事ならば、もう少し息を合わせねばならんな。それこそ、ソフィーちゃんが速度を落としてモニカ嬢ちゃんの動きに合わせたり、モニカ嬢ちゃんの動きを早くするか先に動いて、ソフィーちゃんの速度に合わせたりじゃが……」
「それだと、相手に察知される可能性があるんですね?」
「そうじゃ、モニカ嬢ちゃん。正面から向かって来るソフィーちゃんが、一番注目をされるのは当然じゃが……それで速度を落としたりしたら相手に余裕を持たせる事に繋がる。当然それは、対処される可能性が高くなるという事じゃ。モニカ嬢ちゃんが先に動いても同じじゃな。動きを見て、何をしようとするのかがバレてしまう。それでは、同時攻撃の意味も半減してしまうじゃろう。……まぁ、それを逆手に取っての攻撃という事も考えられるが……それは今の話ではないな。まずは、二人の連携を確かな物にする事じゃ。そうすれば、もしかしたらリクにも怪我をさせられるやもしれんぞ?」
「いえ……怪我をさせたいとまでは……」
「倒したいのはリクではありませんからね……いえ、リクよりも強くなりたいという思いはありますが……せめて剣だけでも……」
エアラハールさんの講義を真面目に聞く二人。
どちらかが速度を緩めたり、どちらかに合わせるような動きをするだけで、何をしようとするのか相手に悟られて、対処される怖れもあるのか……奥が深い……。
最後にボソッと俺に怪我をさせられるかもというのは、余計な気がしたけど、もし二人が全力の連携攻撃を繰り出して来たら、俺も危ないのかもしれない。
木剣や模造槍なら大丈夫かもしれないけど、真剣や本物の槍だったら……ね。
「ともかく、もう一度じゃ。モニカ嬢ちゃんとソフィーちゃんは、連携をもっと上手くやる事。こういうのはワシがどうこう言っても難しいじゃろうから、二人で息を合わせる事を考えて慣れていく事じゃの。――リクの方は、多少回避や防御が上手く行っても、油断はせぬ事じゃ。ワシが止めるまで、模擬戦は終わらんのじゃからな? 受け止めてもまた別の方向から攻撃が来ると考える事じゃ。緩める事と油断する事はちがうからのう」
「「「はい!」」」
エアラハールさんの言葉を受け、声を揃えて返事をした俺達は、再び配置について模擬戦を始める。
モニカさんとソフィーは、さっきよりも連携が上手く行かないようで、お互いがぶつかったりバラバラな攻撃を仕掛けてくるという事があったけど、途中途中で見ているエアラハールさんから注意を受けたり、自分達なりに考えて、ある程度は同時攻撃に近くなっていた。
多分、連携という事に意識を向け過ぎて、逆にもたついてしまったんだろうけど、慣れてくると元々仲の良い二人だし、息を合わせるのは難しくないみたいだね。
……俺も誰かと連携攻撃とか、格好良さそうな事をしてみたいけど……まずは自分の事をと考えて、二人から繰り出される攻撃を必死で受けていた。
なんとなくだけど、エアラハールさんが言う緩みと緊張状態の切り替えがどんなものなのか、わかったようなわからないような……そんな感じだね。
すぐになんとかなるとは思っていないけど、できるだけ早く身に付けないと、教えてくれるエアラハールさんに失礼だし……頑張ろう。
ある程度モニカさん達との模擬戦を行った後は、三人並んでの素振り。
何故かそこの時だけユノも一緒に、木剣を持って参加してたけど、それはともかく……基礎は大事という事で、剣の型のようなものを軽く教えてもらい、それをなぞるようにして素振りをした。
モニカさんとソフィーには、模擬戦の時使っていた物や、実戦で使う槍や剣よりも少しだけ重い物を使っての素振り。
これは、いつもより重い物を持って体を鍛える目的と、重さに振り回されても型を崩さないようにする訓練という事らしい。
俺とユノは、自分の持っている剣と同じくらいの大きさや重さの木剣でとなった。
ユノはまだしも、俺は力が有り余ってるし、重い武器を使わせても意味がないだろうという事と、まずは基礎を固める事も重要と言われた。
模擬戦をしたり、エアラハールさんと手合わせをした時に、剣の振り方が滅茶苦茶だと感じたかららしい。
……握り方やある程度の振り方は教わってたけど、型とかそういうものは、割と自己流みたいなものだったからなぁ……ほとんど、誰かのを見て見様見真似とかだったし。
力任せに振る事が多かったから、仕方ないし、こういうことを教えてもらえるのはありがたい。
素振りは結構な時間していて、息も切らしていないユノを除けば皆汗だくになっているけど、一番訓練をしているという気分になって、少し気持ちがいい。
いや、模擬戦も立派な訓練なんだけどね。
なんというか、素振りの方が訓練って感じがしただけなんだどね。
ヒルダさんがそろそろ夕食の用意ができそう……と呼びに来るまで素振りをした後、解散となった。
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