第514話 国の要所と貴族不足



「ふーん、成る程ね。それぞれの場所で魔物がね……」

「できれば原因を調査。次点で魔物の殲滅もしくはある程度の討伐。これは考えられる中で、依頼達成ポイントの最大条件みたいだね。最低限の達成条件は、集まっている魔物がどこから来てるか……だね。特に鉱山は内部から発生しているのか、それとも外部からなのかの調査は絶対ってなってる」


 食事中に少々行儀が悪いとは思ったけど、冒険者ギルドで受け取った依頼書を取り出して、内容を確認しながら姉さんに説明。

 調査の依頼といっても、できれば脅威の排除という意味で魔物を殲滅または、減少させる事が望ましいと書いてある。

 森の方は街へ押し寄せる可能性もあるし、鉱山は採掘の障害になるからね。

 かといって、本来はどんな魔物がいるのか、どこからきているかなどの調査が目的の依頼なため、最優先というわけじゃない。


 討伐数などによって追加報酬が出るみたいだけど、ある程度の調査をするだけで依頼は達成したものとみなされるらしい。

 まぁ、調査は少数でやる事が多いから、それで魔物がどうにかできない場合は、改めて情報をもとに討伐依頼を出す事にするんだろう。

 早い話が、詳細がわからないために調査依頼をするけど、討伐依頼をするための前段階なだけで、個別に討伐依頼を出すか、指名依頼も含めて、大規模な討伐依頼を出さなければいけないかの判断材料にしたいんだと思う。

 魔物の強さや種類、数がわからないと、冒険者ギルドの方もどういった依頼を出せばいいかわからないからね。


 ちなみに、散発的な討伐依頼ではなく、こういった街や村などの大勢の人達にかかわる事は、国そのものや領地を治める貴族、街の代官や村長といった人達と相談して、報酬や依頼内容を決める事が多いそうだ。

 規模が大きくなると、個人で報酬が払えなくなってしまうしね。


「それで、りっくんが鉱山の方に、ユノちゃんが森付近にね……。ユノちゃんの方は大丈夫だろうけど、りっくん……鉱山を潰したりしないでね?」

「いやいや、さすがにそんなことしないから。大丈夫だって」

「そう? それならいいんだけど。えぇと……鉱山がブハギムノング鉱山ね。確か、金属を採掘している鉱山だったわね。主に、武器に使用される金属が採掘されているわ。時折、銀や他の金属もあって資源が豊富ね」


 姉さんが俺達からの説明と、どこの鉱山かを聞いて、情報を教えてくれる。

 こういうところはさすが国を治める女王様なだけあって、国内の地名などには詳しいらしい。

 武器に使用される金属という事は、鉄だろうか……? 銀や他の金属も採掘されるらしいけど……どちらにせよ、大事な資源が得られる要所である事に間違いないようだ。

 いや、この世界の事だから、もしかしたら魔法的な金属があったりもするかもしれないけど……俺にはよくわからないから、気にしないでおこう。


「そこで働いている人も大変そうだし、国にとっては大事な場所みたいだから、しっかり調査しないといけないね」

「そうね。まぁ、りっくんの事だから、調査と言いつつ魔物を全て排除しそうな気もしないでもないけどね……」

「それは……確かにリクさんならあり得るかも……」

「できるのであれば、そうした方がいいんだろうがな」

「いやまぁ、それは調査次第……かな?」


 鉱山で働く人達が、魔物によってまともに働けなかったりしているかもしれないし、いずれ誰かが討伐するだろうとしても、できるだけ助けになりたいよね。

 調査期間に余裕はあるけど、入り組んでいそうな坑道内を順調に調査できれば、魔物を倒して回るのも悪くないかもしれない……。

 あくまで、調査が最優先だけども。


「あとは……森に集結する予兆が見られる方ね。こちらは……ヘルサルの北側の街と言うと、ルジナウムの街ね。地図で見るとヘルサルから大きく離れていないように見えるけど……山や森が多くて直接街道が繋がっていない場所よ」

「そうみたいだね。その事は冒険者ギルドで地図を見て確認したよ。まぁ、俺達はエルサに乗って行くから、森だとか山は関係ないんだけどね」

「それもそうね。……ほんと、エルサちゃんはすごいわねぇ」

「……食事の邪魔なのだわぁ」

「そんな事言わないで、いつもりっくんにモフモフされているでしょう? 私にもさせてよ」


 ユノが行く街の方も姉さんが確認するように言って、頷く。

 王都からでも、ヘルサルへ行って真っ直ぐ北へ進んだ方が近いんじゃないか……という位置にあるんだけど、高い山や森が多くあって、街道を作れていないみたいだ。

 結局はここからなら北東へ向かった方が早いし、ヘルサルからでも大きく東側から迂回するか、一旦王都に来てからルジナウムの街へ向かう方が早いらしい。

 俺は移動にエルサがいてくれるため、街道どころか山や森も関係ないから、直線で移動できるんだけど……これはエルフの集落の時と同じだね。


 そんな事を話しつつ、姉さんが感心するついでに、キューの漬物をポリポリ食べているエルサの頭を撫でる。

 食事を邪魔されて、少し不機嫌そうな声を出すエルサだが、俺達がヘルサルに行っている間にキューの漬物を用意してくれていた事もあり、逃げたり本気で嫌がったりはしない。

 ……漬物、美味しいなぁ。


「そうだりっくん。ルジナウムの街と言えば……」

「んぐ……どうしたの?」


 エルサを撫でてご満悦な姉さんを眺めながら、俺もキューの漬物をポリポリ食べていると、ふと何かを思い出したらしい姉さんに声をかけられる。


「ハーゼンクレーヴァ子爵って覚えてる?」

「えーと……?」

「リクさん、冒険者になっている息子がいて、リクさんに謝りに来た人よ」

「あー……あぁ! はいはい、思い出した。確か、フランクさんだっけ」

「そうそう、フランク・ハーゼンクレーヴァ子爵ね」


 確か……コルネリウスだっけ? お付きの人兼冒険者の人達が頑張っていたのは覚えている。

 キマイラ討伐の時に無茶をしてたっけな……俺は気にしていないんだけど、そのコルネリウスが迷惑をかけたと言って、父親であるフランクさんがわざわざ部屋に来てまで謝ってくれたんだよね。

 コルネリウスはともかく、フランクさんの方には結構気に入られてた気がする。

 俺のパレードにも満足そうだったし、半分以上失敗に思えた花火も喜んでいたみたいだしね。


「そのハーゼンクレーヴァ子爵……バルテルのせいで貴族不足という、ちょっと意味わからない事になっているから、近いうちに伯爵になる予定だけど……ともかく、その子爵の領地よ、ルジナウムの街」

「へぇ~。そこに住んでるの?」

「邸宅は別の街よ。王都に来る際には、ルジナウムの街にも寄るくらいかしらね。ただ、領内の森に魔物が集結中という事なら、もしかしたら滞在しているかもしれないわ。活動的な貴族だしね。王都の事も経験しているから、尚更ね」

「そうなんだね。俺は……鉱山の方だから、会うかどうかわからないけど……」

「もし会ったら、私が挨拶しておきますね。陛下がご壮健である事も伝えておきます」

「まぁ、必須な事ではないけれど、向こうから来るかもしれないから、頼んだわね、モニカちゃん」

「はい」


 貴族不足……というのは中々聞かない言葉だけど、バルテルがやった事でいくつかの貴族家がなくなってしまったらしいから、仕方ないのかもしれない。

 俺が貴族になるという話も、断ったし……多少影響しているだろうから、あまり突っ込みにくいんだけどね。

 活動的な貴族という事らしく、もしかしたら魔物が集結しているかもしれないという事で、ルジナウムの街に来ているかもしれないらしい。

 王都では、急に魔物の大群が押し寄せて来た経験もあるからね。



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