第506話 集まる魔物と調査の依頼



 国外ではどうなのかはわからないけど、今アテトリア王国内では、魔物が集まる例が多く報告されているらしい。

 しかも、単一の種族ではなく複数の種族が集まっているとか。

 ヘルサルや王城へ押し寄せてきた魔物達、オシグ村でも数の差こそあれ魔物が集まっていた。

 まぁ、ヘルサルは一応ゴブリンだけだったけど、代わりに数が膨大だったね。


 ともあれ、そういった例が他でも増えてきているようで、何かあるのではないかと冒険者ギルドが調査に乗り出したという事だろう。

 もしその集まっている魔物達が、どこかしらの街や村に押し寄せるような事があれば、被害が甚大になりそうだから、今のうちに動き出しておかないといけないのかもね。


「ヘルサルもそうだけど、この王都でも、魔物が押し寄せるという事態が発生しているわ。両方、リク君がいてくれたからなんとかなったけど、もし複数の場所で同じような事が起きたら……というのは、あまり考えたくないわね。だから、あらかじめ手を打っておいて、未然に防げるのであれば防ぐ……これがアテトリア王国での冒険者ギルドの考えになるわね」

「私も、統括ギルドマスターに賛成しています。各地のギルドとも連絡を取り合い、協力体制を築いおります。……魔物が直接的な原因ではないですが、ロータ君のような子供を減らせるのなら、減らさないといけません」


 マティルデさんとミルダさんの話を真剣に聞く。

 エアラハールさんも、茶化したり変な行動を起こす事なく、黙って聞いている……まぁ、ユノが見張っている事が大きいんだろうけども。

 ともあれ、二人の言うように、罪のない人達が被害に遭う可能性をあらかじめ調べて対処しようとするのは、俺も賛成だ。

 例え、各地で冒険者や国所属の兵士さんが対処して、なんとかできたとしても、被害が出てしまうのは免れないだろうしね。

 できるだけ被害を減らすように、先に動くというのはいい事だと思う。


 ロータも魔物がオシグ村の近くに来なければ、依頼を出すために王都へ来ようとはしなかっただろうし、野盗に襲われてヌートさんを亡くす事もなかった。

 間接的にだけど、魔物が原因だからね……。

 まぁ、ミルダさんは特にロータの事を気にしていたから、特に気になるんだろうけども。


「モニカさん、ソフィー。どうだろう、俺はこの依頼を受けたいと思うんだけど……?」

「そうね……冒険者として、人のためになる依頼を受けたいと思う気持ちはわかるわ。私も賛成よ」

「そうだな。少々、私とモニカのランクが足りない気もするが……それは調査に専念して無理をしなければなんとかなるだろう」


 マティルデさん達の話を聞いて、俺なりに考えて調査依頼を受けようと思う。

 けど、俺達はパーティだし、まずは皆の意見を聞いてみないといけないという事で、モニカさんとソフィーにも意見を求めた。

 二人共、依頼を受ける事に賛成なようで、頷いてくれた。

 調査をする事が目的だから、戦闘がメインではないけど、もし戦闘になった場合でも俺だけでなくエルサやユノもいるからある程度はなんとかなるだろうと思う。


 モニカさんやソフィーには無理せず、調査する事に専念してもらおう。

 もちろん、協力できる事があればお互い協力するのが前提だけどね。

 モニカさん達の意見も聞いて、ふとエアラハールさんはどう考えているんだろうと思い、ちらりとそちらを見てみると、真剣な雰囲気を出して頷いていた。

 エアラハールさんも、調査依頼を受ける事に賛成してくれているようだ……と思ったけれど、違った……。


 真剣な眼差しで見ていたのは、向かい側に座っていて少々露出が多目なマティルデさんだった。

 真面目に話を聞いて、元冒険者として色々考えているんだろうなぁ……と思った俺の純情を返して欲しい……。


「……えーと、調査の依頼、受けさせてもらいます」


 エアラハールさんの事を意識の外に追い出して、気付かなかったようにしながら、マティルデさんに伝えた。


「ありがと、リク君。それじゃ、受ける依頼だけど……一応内容はしっかり呼んでね? あと、どちらの依頼を受けるか、ね?」

「はい」


 依頼書は二つあるけど、両方を一緒に受けるのはさすがに難しいかもしれない。

 以前は複数の依頼を受ける事があったけど、それは日程や行程を確認して、大丈夫そうだったからというのが大きい。

 調査の依頼だから、どちらの依頼がどれだけの手間がかかるか判然としない。

 そのため、気軽に両方受けるというのは難しいだろうから、どちらかを選ばないといけないね。


 マティルデさんから見せてもらっている、依頼書の内容をしっかり確認するため、モニカさんやソフィーと一緒に覗き込んだ。

 こうしている間も、エアラハールさんはマティルデさんを見ているのか……と思ったけど、ユノが肘打ちで脇腹を攻撃したらしく、隣で悶絶していた。

 ……懲りない人だなぁ……というか、ユノって結構こういうことに厳しいんだね。

 俺も同じような事にならないよう、気を付けないと……女性が多いパーティだし。


「んー、こっちの鉱山での魔物調査っていうのは、どうなんだろう?」

「鉱山だからな……内部は入り組んでいるだろう。一応、現地の人間が内部を把握していて、教えてくれるとあるが……時間がかかりそうだ」

「でも、こっちの集まっている魔物の調査っていうのも、時間がかかりそうよ? 街から離れた森付近で、魔物が集結しそうな気配有りっていうだけだし、本当に集まるのかどうか……集まるまで待たないといけないのかしら?」

 

 依頼書に書かれている事を見て、内容を確認しながらモニカさんやソフィーと話す。

 鉱山はその名の通り山に穴をあけて、内部の鉱物を採掘する事だ。

 詳しく見た事はないけど、内部で鉱物を探すためにあちこちに道を作って掘り進んだりする事があるため、複雑になる事が多いんだそうだ。

 入り組んだ道をあちこち行って魔物の調査をするというのは、中々骨が折れそうだ……けど、探査魔法を使えば、多少は楽ができるかもしれない。


 ちなみに依頼内容は、最近ちらほらと魔物が鉱山内部で発見され、採掘作業が滞っているのでその魔物が外部からなのか内部で発生したのかを調査して欲しいとの事だ。

 当然、無理をしない範囲での討伐をして、数を減らす事も含まれている。

 まぁ、戦う事は構わないんだけど……鉱山か……魔法が使いにくそうだね。

 坑道が崩れないか心配だし、空気の心配もあるから。


 鉱山で発見された魔物は複数種類いるらしく、今のところ強力な魔物は発見されていないけど、そういった魔物がいないという保証がないので、高ランクまたは信頼のおける冒険者に……という注意書きがしてあった。

 これは、さっきマティルデさんが言っていた、単一種類ではない魔物の集団って事に当てはまるのかもね。

 続いて、もう一つの依頼。

 こちらは、既に複数種類の魔物が目撃されているらしく、強力な魔物も確認されているらしい。


 ただ、それだけなら単純な討伐依頼となるんだけど、その魔物達が複数種類いても争う事もなく、一緒に行動して同じ場所を目指していたという可能性があるらしい。

 その場所というのが、報告された街から少し離れた森付近だったという事だ。

 まだはっきり集結しているとの確認が取れたわけではなく、複数の魔物がそこを目指していた可能性と、その場所での魔物が増えてきているという報告から、調査依頼となったようだ。

 こちらは既に強力な魔物が確認されているが、本当に集結するかの確認も必要なため、時間もかかるし戦闘も行われる事が予想できた――。



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