第505話 エアラハールさんは同行者
「ひょっひょっひょ、さすがに冗談じゃよ。なに、簡単な事じゃ。ワシも、リク達について行けばよいじゃろう? 確かに、訓練が遅れる事もあるじゃろうが……まぁ、ついて行けば空いた時間にでも訓練ができるからのう。マックスに教える時も、よくやっていたわい」
「あ、成る程。そうなんですね……。それなら、依頼を受けても大丈夫……なのかな?」
「さすがに、依頼ばかり詰め込まれても困るがの? そうなるとそうじゃのう……移動中は無理じゃから、寝る前にみっちりやる事になるかの。当然、寝る時間は削れるの」
「それは……体がもちそうにないな……」
先程の、延長料金という話はエアラハールさんの冗談だったらしい。
割と目が真剣だった気がするけど……。
ともあれ、確かにエアラハールさんが一緒に来てくれるのなら、空いた時間に訓練ができる。
それこそ、野宿をした時に、食事の時間の前後とか、休憩時間とか……魔物と戦う事もあるから、結構ハードになるとは思うけど、マックスさんもやっていたのならできない事はない……と思う。
寝る時間を削るまでは、さすがに辛すぎるから遠慮したいけどね。
依頼のない時ならいいけど、依頼中は魔物と戦う事が多いと考えると、体調は万全にしておかないと危険だし、それは冒険者として必要な事だから。
多少なら、移動時間で寝る事もできるだろうけど……俺達の移動手段がエルサで、時間自体が多くないと考えるとそれも難しいかな。
「まぁ、ほどほどにすればいいだけじゃよ。ともかく、ワシの訓練を受けるからと、依頼を受けないという事はしなくても良いという事じゃ。冒険者なのじゃから、依頼を受けてしっかり活動せんとの」
「そうですね、わかりました。訓練の事をまったく考えないわけじゃありませんけど、冒険者として依頼はしっかり受ける事にします」
「うむ、それで良い」
「……何はともあれ、依頼を受けてもらえる事になったのね。助かるわぁ……正直、依頼が溜まっててね……高ランクなものも多くて大変なのよ。王城にいると思って、訪ねてみても留守にしてるって言うし……せっかく会いに行ったのに
「んんっ! ギルドマスター?」
「おっと……なんでもないわ。ともかく、リク君がこれまでも変わらず依頼を受けてくれると言うのなら、ギルドとしては問題ないわ。言える事でもないんだけどね。それに、リク君やパーティが強くなるのなら、それは歓迎すべき事だわ」
とにかく、訓練と依頼を両立させればいいという事だろう。
さすがに、エアラハールさんが付いて来てくれる事に安心して、空いた時間に訓練をするだけじゃまとまった時間が取れなさ過ぎて駄目だし、逆に依頼を受けずに訓練ばかりというのも、冒険者として駄目だという事かな。
話を聞いていたマティルデさんは、少しだけホッとした様子。
ついでに何かをボソッと呟いていたけど、ミルダさんの咳払いとジト目で封じられていた。
何を呟いたのかは聞こえなかったけど、注意されるくらいだから今必要なかった事なんだろうね。
それはともかく、依頼が多くて大変みたいだし、俺にできる事なら協力しないと。
「何か、俺にできそうな依頼とかはありますか?」
「……リク君にできない依頼があったら、王都にいる冒険者の誰もできそうにないわよ。まぁ、人数が必要な依頼とかは別だけど。そうね……これと、これなんかどうかしら?」
依頼をこなすのは冒険者の本分、という事でマティルデさんに何か依頼があるのかを聞いてみた。
俺がこなせないような依頼は、考えればいくらでもありそうだけど……まぁ、人数が必要な依頼だと難しそうというのはわかる。
こっちはパーティで三人……ユノを入れても四人だしね。
アルネとフィリーナは一緒にいてくれるし、頼めば協力してくれるけど、冒険者じゃないから数に入れるのは止めておく。
冒険者が十人以上必要な依頼だとかだと、やっぱり受ける事もできないんだろうなぁ……なんて考えていたら、部屋の壁に備え付けてある棚から二枚の依頼書を取り出し、俺達に見えるように置いた。
「えーと……鉱山における魔物の調査……? あと、種別不明の魔物が集まっている場所の調査……と。……調査が多いんですか?」
「難しそうだとギルド側で判断したものが、偶然調査の依頼だったというだけよ。でも、最近増えているのは確かね」
「そうなんですか?」
見せてもらった依頼書は、二つとも調査をするものだった。
まぁ、どちらも可能な限り脅威を排除するために、見つけた魔物を討伐する事も可としている。
調査と言っても、魔物の数や種類を確認するだけじゃなく、そこにある脅威を取り除く事を目的としているようだった。
ただ、こういう調査依頼はあまり多くないのだと、ヤンさんから聞いた。
確かあれは、ヘルサルで初めての調査依頼を行った後、ゴブリン達に備えて準備をしている時だったと思うけど……。
魔物に関する調査は、不明な事が多くて危険が伴うのと、通常は町に住む誰かが依頼する場合、魔物の調査をお願いすると言うよりも、討伐を依頼する事が多いためだ。
当然、わからないことが多いために、難易度が高いとみなされてランクが高めになる事が多いらしい……実際に発見した魔物が、低ランクだったとしてもね。
戦闘になるかどうかもわからず、そうなっても魔物がどれくらいの強さかわからない……というのがランク判定をするのに困るそうだ。
だから、安全のためにあらかじめ高ランクを指定しておいて、冒険者ギルドからは信頼のおける冒険者に指名依頼をする事もある……と、聞いた。
だから、マックスさん達からの紹介と、冒険者試験で好成績を残した俺とモニカさんに、ヘルサル周辺の調査を任せたのだとか。
結果的に、ゴブリンジェネラルを発見したりと、思った以上の結果をもたらしてくれたと言われたね。
「あまり大きな声では言えないんだけれどね? 最近、魔物が集団で行動している事例が散見されるのよ。それも、複数種類の魔物がね。確か、報告で聞いたけどリク君達がロータ君の依頼で行った村でも、そうだったんでしょ?」
「……そうですね。確かに、複数種類の魔物がいました。それも、本来は一緒に行動しなさそうな魔物でした」
オシグ村の付近にまで来ていた魔物は、確かビッグフロッグとリザードマン、あとグリーンタートルだったっけ。
本来ビッグフロッグは、リザードマンを捕食対象らしいけど、何故かあの時は一緒にいたしリザードマンがビッグフロッグに襲われていたりもしていなかったね。
魔物の説明を聞いた時は、不思議には思ったけど、特に問題にする事もなく討伐して終わった。
マティルデさんからの話によると、それに似た事が他の場所でも起きているのかもしれない。
「逆に、単独で行動していたり、単一の種族で行動する魔物が少なくなっているという報告もあるわ。どうしてそうなっているのかはわからないけど、これに関しては国内にある冒険者ギルドが連携して情報を集めているところね。有力な情報の足掛かりとして、各地の調査をする依頼を出しているの。もちろん、信頼できる冒険者や、一定以上の成果のあるパーティを使ってね」
「その中に、俺達も入っている、と」
「もちろんよ。特にリク君は国からの信頼も厚くて、冒険者ギルドとしても期待しているわ。だからこの依頼も任せたいのよ」
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