第507話 同時に調査依頼を受けるための提案



 モニカさん達と二つある依頼書を確認したけど、どちらにせよ両方ともの依頼で、時間がかかるだろうというのは簡単に想像できた。

 これは、さすがに一緒に依頼を受ける事はできさそうだなぁ……。


「うーん、どちらを受けるかかぁ……緊急性という意味では鉱山調査の方が、高いかな?」

「そうね。どちらも、近隣含めての冒険者ギルドに滞在している冒険者だと、ランクの関係で依頼できないというのもあって王都のギルドに持って来られたけど、鉱山の方が緊急性が高いと言えるわね。実際に魔物と遭遇しているみたいだし。もう一つの方は、今のところ遠巻きに眺める程度で済ませているみたいだし……散発的に戦闘があっても、冒険者が仕掛けているんだろうし、こちらは今すぐ行かなければという程でもないわね」


 悩みながら依頼書を見比べていると、マティルデさんから注釈が入った。

 鉱山の方は、実際に魔物と遭遇して危険度が増しているみたいだし、こちらの方を優先かな。

 両方、王都から離れている場所らしく、依頼がこちらへ持って来られるまで日数もかかっていそうだし、鉱山の方は魔物が多くいたら、そこで働く人たちに直接影響が出ていると考えられるしね。

 森付近へ魔物が集結……というのは、今のところ本当に集結しているのかどうかははっきりしないようだし、依頼が出されたときから状況が変わっていると考えても、今すぐといった緊急性はなさそうだ。


 一応、両方とも現地の冒険者さんが多少なりとも対処しているようだけど、集結の可能性が予測される方は集まる魔物を討伐して、時間稼ぎをお願いする事もできるだろうし、俺達とは違う冒険者を向かわせる事もできると思う。

 王都には、俺達以外にも冒険者さんが多いはずだからね。


「それじゃ、鉱山の方の依頼を……」

「待ってくれリク」

「どうしたの、ソフィー?」


 モニカさん達は、依頼を受ける事を承諾してくれているので、緊急性が高そうな鉱山の調査をする依頼を受けるため、マティルデさんに言おうとしたところでソフィーに遮られた。

 何か気になった事でもあるのだろうか?

 俺も含め、皆の視線がソフィーへ注目する……エアラハールさん以外は、だけども。


「いやな? この鉱山と魔物が集結する可能性があると言って来ている街だが……あまり離れていないのではないか?」

「んー……どうだろう?」

「そうね……マティルデさん、すみませんが地図はありますか?」

「あるわよ。――ミルダ?」

「はい。えっと……あったあった。……こちらになります」


 ソフィーの言葉を聞いて、首を傾げる俺。

 モニカさんはマティルデさんにお願いして、地図を見て確認するようだ。

 声をかけられたミルダさんが、依頼書があった棚とは別の棚から大きな地図を取り出し、机に広げた。

 広範囲に活動している組織だけあって、地図の用意もあるんだなぁ。


「えーと……鉱山がここで……もう一つの街はこっちね?」

「……そのようだ」

「比較的近い位置にあるとは言っても、馬ですら三日以上はかかると思うわよ?」


 モニカさんが依頼書を見ながら、地図上の場所を示す。

 街の方は王都から北東の位置にあり、鉱山はその街からさらに北へ行った場所だ。

 東にあるヘルサルからは、真っ直ぐ北に行った場所になるかな。

 地図で見ると、直線距離でヘルサルの方が近いように感じるけど、川や山、他にも森がいくつかあるようで、整備されていそうな街道がある王都からの方が、結果的に早く到着できると思う。

 というより、いくつかの森や山があって、さらに川にも遮られているためなのか、ヘルサルからは直接街道が繋がっていないようだね。


「三日以上……リク、エルサに乗れば、そんなに時間がかからずに行き来できるのではないか?」

「そうだね……エルサなら真っ直ぐ進めるし、馬よりも早いからね」


 それこそ、本来なら山を越えたりする事もあって、一カ月近くかかるヘルサルとエルフの集落間でも、エルサなら頑張れば片道二日もかからないからね。

 馬で片道三日なら……多分、往復数時間ってところじゃないかな?

 一日に何度も往復をする事はできないだろうけど、ある程度気軽には行き来できると思う。


「そうだった……リク君にはそのドラゴン様が付いていたんだったわね……。ほとんど動かず、リク君の頭にくっ付いているだけだから、あまり意識していなかったけど」


 マティルデさんが、俺の頭の上で暢気に寝ているエルサに視線を向け、存在を思い出したようだ。

 ワイバーンの皮を持って来た時にも、ある程度説明したけど、エルサで空を飛んで移動するというのは普通ではありえない事だから、もはや俺が身に付けてる帽子のようになっているエルサの事を、あまり意識していなかったんだろうと思う。

 冒険者は俺達だけじゃないし、他の冒険者やギルドの仕事があったりで、意識していない事まで覚えていられないんだろう。

 王都に複数ある冒険者ギルドを統括するギルドマスターだから、忙しいだろうしね。


「エルサに乗れば、二つの依頼を同時に……という事はできないだろうか?」

「できればリク君に受けてもらいたい依頼だから、両方やってもらえるならありがたいわ。でも、大丈夫かしら? 両方の調査ともなると、常にリク君が見ていられるわけでもないでしょ?」

「まぁ、俺の体は一つですからね」


 二つの依頼書と、地図を見比べながら首を傾げるソフィー。

 それに対して、マティルデさんは頷くけど、同時に俺が両方を常に見ていられない事を不安に感じているようだ。

 分身とかできれば違うだろうけど、そんな事はできないだろうしね。

 ……本当にできないんだろうか?


 いや、変な事になるかもしれないし、今回はあまり考えないでおこう。

 失敗してもいけないしね。

 ……いつか、お試しでイメージしてみても……いいかもしれないけど……。


「例えば、ユノを集結しそうな魔物の調査に当てて、リクは鉱山の方へ……というのはどうだ? 時折、リクがエルサに乗って魔法で魔物の探査にも協力するのも前提だが。リクの探査魔法は、今回の場合両方に使えそうだが、鉱山の方が入り組んでいて視界が悪い可能性が高いからな……そちらの方を担当した方がいいだろう」

「んーと……それなら確かに、大丈夫かもね」

「ユノはそれもいいの! 魔物の事を見守るの!」


 ソフィーの提案は、俺が坑道が入り組んでいそうな鉱山で探査魔法を使い、魔物の調査を詳しくする。

 探査魔法は、実際に視界では見えない部分もある程度わかるから、鉱山内部に使った方が効果的だと考えたんだろう。

 代わりに、高ランクの魔物が既に確認されている、森付近へ集結している様子の魔物は、大抵の魔物なら対処できるユノが主に担当する事で、役割を分けようという事かな。

 森の中ではなくあくまで森付近なので、見晴らしがよく遠くまで見渡せるだろうし、時折俺が行って魔法探査で詳しい魔物の位置を確認すれば、あとは時間をかけるだけかなと思う。


 この方法なら、戦力を分ける事にはなるけど、同時に二つの依頼をこなせそうだ。

 まぁ、そこまではいいんだけど……ユノ、魔物は集結しているのかを確認するくらいで、見守るわけじゃないからな?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る