第502話 鉱石の事をエルフの二人にお願い



「そうなんだ。それで、最初は諦めようという事になってたんだけど、エフライムが俺の魔力……つまり結界を維持できるくらいの魔力を蓄えられる鉱石というのを聞いた事があるかもしれないって言っててね?」

「魔力を蓄える鉱石……」

「鉱石は、魔力を溜める性質があるな。だからこそ、武具に魔法具が作られる事が多い」


 鉱石ってそうなんだ。

 元々鉱石には魔力を蓄積する性質があって、エフライムがおぼろげに覚えていたのは、さらに溜められる量の多い鉱石なんだろう。


「だから、結界を維持できるほどの魔力量を、溜める事ができる鉱石があるんじゃないかってなってね。それで、魔法の知識に詳しいエルフの二人にも、聞いてみようという話になったんだよ。もちろん、エフライムは話の元であるクレメン子爵にも聞いてみるみたいだけどね」

「成る程ね……そうねぇ……魔力を含む鉱石はよく聞くけれど……リクの魔力、それも結界を長期間維持できるほどのものとなると……」

「魔力を限界を超えて蓄積してしまうと、その鉱石は自壊するからな……大体は、通常の魔法を一度や二度放てる程の魔力量を蓄えるのが精一杯だが……ふむ」

「どこかで聞いた事があるような気がするわよね?」

「そうだな。俺もフィリーナと同じで、聞いた事がる気がする……どこだったか……」

「二人共、聞いた事があるかもしれないのかぁ……」

「多分だけれどね。とりあえず、思い出せるように頑張ってみるわ」

「そうだな。それに、今日も文献を読み漁る予定だから、その中に書かれている可能性もある。人間の中でも知っているかもしれない者がいたんだ、どこかに書かれていてもおかしくあるまい」

「うん、手間を増やして悪いけどお願いするよ」

「なに、気にするな。魔法の事であれば大歓迎だ。リクのおかげで、これからの魔法技術が変わるかもしれないんだからな」

「そうね。それくらい、お安い御用よ」

「ありがとう、二人共」


 二人共、多くの魔力を蓄積する事ができる鉱石を聞いた事があるような……というエフライムと似たような状況らしい。

 長寿である分、色々な知識を持っているんだろうけど、古い話をずっと覚えておけるわけではないんだろう。

 そのために、書物に残したりするんだしね。

 二人共、文献をみたり、思い出せないか考えてみるという事で、協力してくれる事になった。


 俺のおかげで、魔法技術が……と言われるのはあまり実感がないけど、皆の役に立っているのなら嬉しい。

 二人には鉱石の事をお願いして、準備を終えた俺とモニカさんは、案内の兵士さんが待ってくれている地下通路の入り口へと向かった。



「どうぞ……」

「案内、ありがとうございます」


 地下通路を兵士さんに案内され、以前にも来た国が管理する家の中に入った。

 兵士さんはハーロルトさんの部下で、情報部隊所属らしく、俺達を案内した後帰りのためにここで待機してくれるとの事だ、ありがたい。

 地下通路の案内は、軍でもある程度上の役職にならなければ詳しくは知らされず、中でも情報部隊でないと通路の道順などはわからないらしい。

 まぁ、本来はもしもの時に逃げるためや城の外と連絡を取るための通路なんだから、誰でも知ってていいわけないよね。


「ソフィー達は、もうついているかしら?」

「どうだろう。こちらの方が遅く移動開始したけど……むこうは町中を移動、こちらはほぼ直通だからね。時間は俺達の方がかかってないと思うよ。……あと、エアラハールさんが町で何かして時間を取られてなければ、だね」

「エアラハールさんは困った人よね……腕が確かなのはわかるんだけども」

「そうだね……」


 地下通路を隠すためか、隠れ蓑のようになっている家の中を、出口へ向かっている途中でモニカさんと話す

 モニカさんは、直接エアラハールさんの被害にあっているから、外では変な事をしないと言っていたのを、完全に信じる事はできないんだろう。

 俺もそうだしね……まぁ、ユノとソフィーが上手くやってくれると信じたい。


「父さんはまだしも、母さんも手を焼いていたみたいなのよねぇ」

「以前帰った時に聞いたのは、なんかそんな感じだったね」


 エアラハールさんが嫌がるという事で、詳しくは話してくれなかったけど、とにかく注意しろという事は伝えれられてた。

 その時の様子からすると、女性を見たら痴漢を働くという事を言いたかったんだろうと思う。

 マリーさんも苦笑というか困った顔をしていたし、マックスさんはモニカさんやソフィーといった女性に対して注意を知ろと言っていた。

 それならそうと言って欲しかった……というのはあるけど、エアラハールさんがヘソを曲げて訓練をしてくれなくなったら困るので、仕方ないと思う事にしよう。


「とにかく、冒険者ギルドに行ってみよう。先に付いていたら待ってくれているはずだろうし、俺達の方が先だったら、建物の中に入っていたら来るだろうしね」

「そうね」


 モニカさんと頷き合って、家の外の様子を窺う。

 通行人がほとんどいない事を確認して、すぐ近くに建っている冒険者ギルドへと足早に向かった。

 一応、モニカさんが俺を隠すようにピッタリとついていてくれたけど、俺の方が身長が高いため、あまり意味はなさそうだった。

 それよりも、モニカさんの大きなお胸様が当たりそうで、町の人達に見つかるよりもこちらの方が緊張したかな。

 ……すぐ近くにあるモニカさんの顔は、少し赤いような気がするけど、きっと俺が見つからないように周囲を警戒してくれてるせいだろう。


 ちなみにエルサは、エアラハールさんを警戒しなくていいため、俺の頭にくっ付いたまま寝ている。

 よだれを俺の頭に垂らしたりしなければ、問題ないんだけど……キョロキョロしたり歩いたりして揺れるはずなのに、よくズレたりもせずしっかり俺の頭にくっ付いて寝れるなぁ。

 俺としては、モフモフが後頭部に感じられて気持ちいいから、構わないんだけどね。


「きゃぁっ!」

「ひっ!」

「あっ!」

「ひょっひょっひょ! 気の強そうなおなごがいっぱいじゃの……ぐふっ!」

「お爺ちゃん止めるの!」

「……はぁ」


 町の人達に囲まれないように、警戒しながら冒険者ギルドに入ると、中では女性冒険者の悲鳴とユノのドロップキックで飛ばされるエアラハールさんの姿が目に入ってきた。

 ……そりゃ、外では変な事はしないと言ったけどさ……だからって冒険者ギルドの建物に入ってからやる事はないと思うんだ……。

 ソフィーは手が付けられないと言うように、離れた場所で溜め息を吐いている。

 ユノは……蹴り飛ばして壁にぶつかったエアラハールさんに、拳で追撃してるね……壁を背にしてるから、飛んで威力を殺す事もできないし、だいぶ痛そうなんだけど……一応弾き飛ばす時程の力は入れずに、手加減はしてるみたいだけどね。


「ぐふっ……ちょっ! まっ! おふっ!」 

「女の子の体を! 勝手に! 触ったら! いけない、の!」


 ……このままだと、エアラハールさんの命が尽きかねないな。

 ユノが何度も振り降ろす拳は、床に転がっているエアラハールさんのお腹へ綺麗に決まっている。

 鈍い音が聞こえそうなくらいだ。

 冒険者ギルドの中で、小さな女の子に元Aランク冒険者のお爺さんが殴り殺されるとか、笑い話にもなりそうにないからね……そろそろ止めないと……。



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