第503話 騒ぎを起こして冒険者ギルドの奥へ連行
「ユノ、そろそろやめないとエアラハールさん死んじゃうから」
「リクがそう言うなら、仕方ないの」
「……うぐぐぐ……止めるなら、もっと早く止めて欲しかったのう」
モニカさんをソフィーの方へ向かわせ、エアラハールさんにちょっかいを出された女性冒険者へのフォローを任せ、俺は殴り続けるユノの所へ近付いて声をかける
どうやら、ユノもエアラハールさんも俺が入ってきたことには気づいていたみたいで、声を掛けたらすんなり動きを止めてくれた。
エアラハールさんの方は、痛みに顔をしかめながらも、ゆっくりと立ち上がった……あれだけ殴られてすぐに立ち上がれるなんて……タフだなぁ……。
と思ったけど、足がプルプル震えてたから、結構無理しているのかもしれない。
何度も弾き飛ばされてるのに、ユノの前で変な事をするから……。
「なんの騒ぎですか!?」
「あ、ミルダさん」
女性冒険者の悲鳴、少女からお爺さんへの暴行と、騒然としている冒険者ギルド入り口付近に、職員と思われる女性が駆け込んできた。
その人は、王都にある中央冒険者ギルドの副ギルドマスターである、ミルダさんだ。
いつもは受付をやっていたりするのに、今日は奥にいたらしい。
受付に座っていたら、騒ぎも見れてたはずだしね……多分奥にいて騒ぎを聞きつけて駆け込んで来たんだろう。
「リク様!? 王都へお戻りになられてたんですね! ……この騒ぎは……」
「あははは、すみません……ちょっと色々ありまして……」
「お、このおなごも中々……」
「おとなしくするの!」
「……仕方ないのう……ちっちゃい嬢ちゃんには敵わんわい……」
俺を発見したミルダさんは驚いた様子だ。
マティルデさんが王城に来たらしいから、その時俺が王都にいない事を聞いていたんだろう。
周囲を見渡しながら様子を窺いつつ、俺の所へと近付くミルダさんに何と言ったらいいのか……とりあえず笑って誤魔化しながら謝る事にした。
ミルダさんに反応しようとしたエアラハールさんは、ユノに止められて観念したようだ。
偉いぞユノ。
ミルダさんは、ロータ君のような少年にしか興味が……。
「リク様?」
「あぁいえいえ、なんでもありません!」
ミルダさんの趣味の事を考えようとしたら、すぐ近くで顔を覗き込まれた。
俺の事を窺うようにしてはいるけど、その目の奥は笑っていなかった……。
変な事は考えるのは止めよう、うん。
「えーと……マティルデさんは、時間空いていますか?」
「そうですね……今の時間であれば、問題ないかと。すぐにご案内致します」
「はい、お願いします。皆、行こう」
モニカさんとソフィーが、女性冒険者さん達にフォローしてくれていたおかげか、騒ぎは収まりつつあったけど、このままここで話しているわけにもいかないので、とりあえずマティルデさんと会えるかを聞いてみた。
一番の目的はお金をおろしてエアラハールさんに、授業料を払う事だけど……さすがに周囲から注目されまくっている状態のままというのはね……。
ともかく、急に訪ねて来たのにマティルデさんと会う事ができるようで、いつの間にか近くまで来ていたモニカさん達にも声をかけて、冒険者ギルドの奥へと案内された。
前回と同じ部屋に案内され、ミルダさんが全員分のお茶を淹れてくれた。
「では、ギルドマスターを呼んで参ります」
「すみません、お願いします」
お茶を淹れてくれた後、俺達に礼をしてマティルデさんを呼んで来るために、ミルダさんが退室しようとした時だった。
「何か騒がしいと思ったら、やっぱりリク君だったのね! 全然顔を見せてくれなかったから、寂しかったじゃない!」
「ギルドマスター……急に入って来るのは止めて下さい」
「あははは……お久しぶりです、マティルデさん」
ドバン! と大きな音がするくらいの勢いで、マティルデさんが入ってきたと思ったら、俺へと詰め寄ってきた。
小言のように、部屋を出ようとして驚かされたミルダさんが、マティルデさんに声をかけているけど、気にもしていない。
喜んでくれるのはいいんだけど、あまり近すぎると色々当たりそうで緊張するから、止めて欲しい……ほら、モニカさんも睨んでいるから……。
「ひょ!? 少々歳が行っておるが……これまた中々……」
「ちょっと、誰の歳が行ってるって!?」
苦笑しながらマティルデさんに応じていると、後ろにいたエアラハールさんが反応。
とりあえず、魅力的な女性がいたら反応するんだねこの人……ある意味男らしいと思うけど、真似はしたいと思わない。
けど、年齢の事に反応したマティルデさんが離れてくれたので、どう言おうかと考えていた俺としてはありがたかった。
「ひょっひょっひょ! 今のギルドマスターは、おなごなのかの。中々やり手のようじゃのう……まぁ、確かに苦労してそうな皺が見えるわい」
「皺なんてないわよ! ……リク君……何この失礼な爺さんは?」
「えーと……エアラハールさんです」
「……エアラハール……どこかで聞いた名ね……?」
笑いながら、マティルデさんの顔を見て失礼な事を言うエアラハールさん。
憤慨しているマティルデさんは、一旦深呼吸をするようにして冷静になり、エアラハールさんを無視して俺に聞く事にしたようだ。
感情のままにエアラハールさんに詰め寄ったりせず、すぐに冷静さを取り戻すのは、さすがギルドマスターと言うべき……なのかな?
ようやく落ち着いて、俺達の向かいに座ってくれたマティルデさんに、エアラハールさんの事を紹介。
マティルデさんとミルダさんは、エアラハールという名を聞いて、聞き覚えがあるようで首を傾げていた。
「一応、元Aランクだったらしいですよ?」
「Aランク、エアラハール……もしかして、女好きのエア! とにかく手当たり次第に女に手を出すから、悪名ばかりが轟いたっていう、あのエアラハール!?」
「女好きのエア……確か……ギルド職員や、結婚していた女性も関係なく手を出そうとしていたために、一部のモテない男性冒険者からは、熱狂的に支持されていたという話も聞いた覚えがありますね」
「そんな事もあったかのう……昔の事じゃから、忘れたわい」
「……エアラハールさん……悪名を轟かせてたんですね……」
Aランクだったという事を伝えると、マティルデさんとミルダさんは思い当たったようだ。
さすがに、二人がギルド職員になった頃にはエアラハールさんは引退していたはずだけど、その悪名は語り継がれていたのかもしれない。
相手が結婚していようが関係ないとか……さすがにやり過ぎな気がするけど……今は痴漢をするだけだと考えると、昔よりもおとなしくなっていると考えるべきか、それとも悪化していると思うべきなのかわからない。
というか悪名って……俺、師事する相手を間違えたのかもしれない……ふと見ると、モニカさんとソフィーも、俺と同じように微妙な表情になっていた。
「そんな人が、どうしてリク君と一緒に? 冒険者ギルドに来るのは構わないんだけどね?」
「……マティルデさん、警戒してますね」
「そりゃ……ねぇ?」
俺に向かうように右からミルダさんとマティルデさんが座っていたけど、今は、右側に椅子をずらしている。
ちなみにエアラハールさんは、俺の左隣だ。
二人共エアラハールさんを警戒して、距離を取ろうしているようだね……。
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