第501話 地下通路は本来秘密の通路
「リクさん、おはよう。――エアラハールさんも来ていたんですね」
「おはよう、リク。エアラハールさんも」
「おはようなの! お爺ちゃんもおはようなの! 今日は変な事をしたら駄目なのよ?」
「ふぁ~……遅くまで考え事をしていたから、まだ眠いわ。おはよう、リク」
「俺もそうだが……仕方あるまい。おはよう、まだ朝食中だったか?」
「皆、おはよう。ちょうど食べ終わるところだったよ」
「なんじゃなんじゃ、騒がしいのう……ユノ嬢ちゃんじゃったか? 変な事はしないが、おなごにはなにかするかもしれんのう……ひょっひょっひょ!」
朝食を食べ終わる頃、タイミングよくモニカさん達が部屋へとやってきた。
モニカさんとソフィーとユノは、エアラハールさんも部屋にいる事に気付き、挨拶をするけど、ユノだけは注意をしていた。
昨日はエアラハールさんが痴漢を働く時に、物理的に止めるのがユノの担当だったからなぁ……。
アルネとフィリーナは、夜遅くまで研究をしていたのか、まだ眠そうにしている。
あくびを隠そうともしないフィリーナと、噛み殺しながら入って来るアルネを見て、男女逆じゃないかと首を傾げつつ、今朝食が終わったところだと伝える。
エアラハールさんは、一気に騒がしくなった事を煩わしそうに言うけど、実際の表情は楽しそうなので、こういう雰囲気は嫌いじゃないっぽいね。
ユノを挑発するような事を言ってるけど……結局何かしようとしたら、ユノに殴り飛ばされるんだろうなぁ……蹴り飛ばされる方かな? どちらでも変わらないか。
「リクさん、今日は冒険者ギルドへは行かないの?」
「ん? エアラハールさん次第だと考えてるけど……何か冒険者ギルドに用とかあったっけ?」
入ってきた皆が、それぞれソファーに座り、ヒルダさんが淹れてくれたお茶にお礼を言っている中で、モニカさんから聞かれる。
近いうちに冒険者ギルドへ行こうとは考えていたけど、今日行くというのは考えてなかったね。
エアラハールさんの訓練が始まる日だしね。
「そう? でも、エアラハールさんに支払うお金も、冒険者ギルドに預けているでしょ?」
「あー、そうだね。一度行っておろして来なきゃ」
そういえば、エアラハールさんへの授業料を払わなきゃいけないんだった。
お金は多くを持ち歩かないようにしているから、手持ちでは全部を払えない。
「なんじゃ、冒険者ギルドへ行くのかの?」
「お金をおろして来なきゃ、エアラハールさんに払う授業料が足りませんからね。えっと……訓練の合間に、行く時間はありますか?」
「そうじゃのう……朝からやろうと考えておったが……この際じゃ、訓練は昼からにするかの。ワシも、久々に冒険者ギルドに行きたいしの。王都に来てから、ここのギルドに挨拶にすら行っておらん事じゃし」
「わかりました。それじゃ、まずは冒険者ギルドに行って、昼から訓練という事にしましょう」
冒険者ギルドへ行く時間はあるかとエアラハールさんの方へ聞くと、訓練は昼からという事になり、朝はそちらへという事になった。
訓練の合間というか、休憩時間とかに行く事もできただろうけど、それじゃ慌ただしいし、多分マティルデさんにも挨拶はできないだろうから、俺としてはありがたい。
それに、エアラハールさんも冒険者ギルドに顔を出したかったらしく、ちょうどいいらしい。
冒険者はしばらく滞在する街のギルドへは、顔を出す事を推奨されているけど、エアラハールさんはもう引退しているし、その必要はないんだけど、久しぶりに様子を見たいんだろうね。
問題は、冒険者ギルドに行くまでに囲まれたりしないかという心配だけだけど……。
例の地下通路を使えないかな? と思ってヒルダさんに聞いた。
「ヒルダさん、冒険者ギルドに行くまでに、前に通った地下通路は使えますか?」
「そうですね……問題はないでしょうが、一応確認をして参ります」
「すみません、お願いします」
問題はなさそうという事だったけど、確認のために聞いて来てくれるらしい。
地下通路は、以前俺が王城の外に出られなくて冒険者ギルドに行けないと困っていた時、ハーロルトさんが案内してくれた通路だ。
クレメン子爵の所にも似たような物はあって、本来はもしもの時に城から逃げるための通路なんだけどね。
道の一つに、冒険者ギルドの近くまで行けるものがあるから、それを使って行けば、町の人達に囲まれる事はない。
「リク様、申し訳ありません。少しだけ問題が……」
「問題……? どうしましたか?」
「それが……」
確認をして戻ってきたヒルダさんが、申し訳なさそうな表情で何やら問題があるとの事。
詳しく聞いてみると、俺やモニカさん、ソフィーとユノは、一緒に勲章授与式に出て城の内部でも認識され、ユノは特別だけど、他は同一のパーティである事で、許可が下りていたらしい。
だけど今回は、一緒に顔を出すと言っているエアラハールさんがいるため、少し難しいのだとか。
一応、ヴェンツェルさんの元師匠で、かつてはAランクの冒険者だったという事で信用はされているようだけど、本来緊急時に使うための通路を使うのは難しいらしい。
まぁ、クレメン子爵の所はともかく、俺が地下通路を使えたのも特例みたいなものだから、仕方ないか……。
一応、ヴェンツェルさんかハーロルトさんのような、上の役職の人が付けば許可が下りるだろうとの事だったけど、二人共今日は忙しくて手が離せられないらしい。
ヴェンツェルさん辺りは来たがってそうだけど、多分ハーロルトさんが逃がしてくれないんだろうな。
道案内の兵士は付けるにしても、そういう役職の人は付けないようだ。
それならばと、仕方なくだけど覚悟を決めて町に出ようと思ったら、エアラハールさんからの提案。
ぞろぞろと大勢で町を歩くのは性分じゃないらしく、一人で先に冒険者ギルドへ行っておくとの事だ。
ただ、なんというか……エアラハールさんだけで行かせるというのに気が引けたので、ソフィーとユノについて行ってもらう事にした。
ソフィーはエアラハールさんから、冒険者だった頃の話を聞きたそうだったし、ユノがいれば、変な事をしても止められるからね……エアラハールさんは、外では変な事をしないと言っていたけど、念のため。
ゆっくり町中を見て回りながら、冒険者ギルドに行くと部屋を出て行くエアラハールさんとソフィーとユノを見送る。
俺の方も、案内の兵士さんが来るまでの間に、冒険者ギルドに行く準備をしていてふと思い出した。
「あぁそうだ、アルネ。フィリーナもだけど……少し聞きたい事があるんだ」
「どうした、リク?」
「何?」
アルネとフィリーナは俺達を見送った後、また書庫にこもって研究をするつもりだったらしいけど、出る前に軽くでいいので聞いておきたい。
「えっと、昨日の夕食の時、ヘルサルの農場に結界を張った事の話になったんだけどね?」
「フィリーナから聞いたな。確か、リクの魔力のこもったガラスを、魔法の維持をするための供給源にしたんだったか」
「うん、それだね。それで、他の場所でも同じ事ができないかって、姉さんとエフライムから言われたんだ。まぁ、魔物が寄って来ないとか、結界に守られている事での利点が大きいからね」
「そうね。魔物が寄って来ないだけでも、大きな利点よね。でも……結界を張っても維持ができなきゃ……」
アルネはフィリーナから聞いていたらしく、結界の事やガラスの事も知っていた。
とりあえず、ハウス栽培の事は後で伝えるとして、結界を維持できる方法について聞く事にしよう。
今は冒険者ギルドに行くために、あまり時間がないからね。
ハウス栽培の事は、また余裕がある時じっくりしようと思う……エルフも農業をするし、興味はあるはずだから――。
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