第500話 早朝待機のエアラハールさん
「はい……」
「遅くもないが、早くもないの。もう少し寝ていたら、襲い掛かって起こそうとしていたところじゃ……ズズ……茶が美味いの」
「……ありがとうございます」
「エアラハールさん……」
ヒルダさんが頷くのに合わせて、ソファーに座ったまま声を上げるエアラハールさん。
大体朝起きる時間は、特に誰かに起こされない限り同じような時間に起きてるけど、もう少し寝ていたらエアラハールさんから何かされていたのかもしれないのか……危ない危ない。
まぁ、その後にエルサによる復讐というか、安眠妨害の体当たりでエアラハールさんが宙を舞っていただろうけど。
いや、エルサなら事前に察知して結界を張ってたりしてたかな?
「早いですね、エアラハールさん? あ、ありがとうございます、ヒルダさん」
「年寄りは早寝早起きじゃ。朝の空気は気持ちのいいもんじゃぞ? それにしても、茶が美味いのう。さすがは王城といったところか。贅沢な事じゃ」
「ははは……まぁ、そうですね。ヒルダさんの腕がいいんでしょうけど」
まだベッドでだれていたエルサを抱き上げつつ、エアラハールさんの向かいのソファーへと座りながら話す。
ササッと俺の分とエルサのお茶を淹れてくれたヒルダさんにも、お礼は忘れない。
エアラハールさんは、結構な年齢なのでお爺さんと言うのもわかるけど……お年寄りってそうなのかな?
確かに、そういう話は聞いた事があるけど。
俺と話しながら、お茶を飲み続けるエアラハールさん。
ヒルダさんの淹れてくれたお茶は、今まで飲んだ事があるお茶の中で一番美味しいのは確かだね。
モニカさんとか、獅子亭の人達は俺が入れるお茶も美味しいと言ってくれるけど、付け焼き刃で見様見真似の俺なんかより、ヒルダさんの方が美味しいと思う。
味もそうなんだけど、何だかホッとするんだよね。
エアラハールさんが美味しいというのに合わせて、俺もヒルダさんを褒めると、恐縮するように離れた場所でお辞儀をしていた。
そんなに警戒しなくても、エルサがいるから大丈夫だと思いますよ、ヒルダさん?
というか、ここに通した時にエアラハールさんから変な事はされなかったんだろうか?
「……そんなに警戒せんでも、朝から盛ったりせんわい」
「……失礼しました」
「まぁ、昨日が昨日でしたからね。警戒するのも仕方ないと思いますよ?」
「むぅ……ワシは紳士じゃぞ? おなごの嫌がる事はせんわい」
「いや、昨日モニカさんとソフィーにおもいっきりしましたよね……嫌がる事」
俺が内心で疑問を感じていると、それに答えるように警戒して離れた場所にいるヒルダさんに、エアラハールさんが注意する。
朝から盛ったりしないって……まぁ、それが本当ならいいんだけど、昨日の様子を見る限りではあまり信用できない。
というか、紳士とか嫌がる事をしないとか……どの口が言うのかと。
……紳士って言葉、この世界にもあったんだね。
「あれは……あれじゃよ、久しぶりに若いおなごをみたからついの」
「久しぶりって……王城に来るまででもいたんじゃないですか? それこそ、城下町ですれ違ったりとか」
「ワシも見境ないわけではないからの。それに、部屋の中と外じゃ違うんじゃ!」
部屋と外は違うって、そうなんだろうか……。
俺にはわからないというか、わかってしまったら駄目な気がするので、深くは考えないようにした。
これで本当に、元Aランク冒険者かな? という疑問も沸いて来るけど、昨日実際に俺と手合わせした時、有効な一撃を当てられなかったというのは確かだからね。
実力者というのは疑いようもない。
ユノの一撃すら、飛んでダメージを軽減してたくらいだしなぁ……避ける事はできなかったようだけど。
「そんな事よりじゃ、朝食はまだかいの?」
「もう食べたでしょお爺さん?」
「んなわけないのじゃ!」
いやぁ、ついお爺さんが食べ物を求めるというところで、定型の返しをしてしまった……。
軽く憤慨している様子のエアラハールさんだけど、雰囲気的に怒っているという程ではないし、目が笑ってるので、むしろこれを狙っていたのかと思わざる得ない。
というか、ここに来るまでに食べて来なかったのかな。
俺が起きる前に来てたという事は、お店も開いていない時間だろうから、仕方ないかもしれないけど。
「ここに来れば、食べ物にありつけると思うての。食べさせてもらえるなら食べる……それが冒険者の鉄則じゃ!」
「そんな鉄則初めて聞きましたけど……というか、今はもう冒険者ではないですよね?」
「それはそうじゃが、やはりずっとやって来た習慣は変えにくいものじゃよ」
「……そんなもんですか。――ヒルダさん、すみませんが……」
「はい、畏まりました」
「もし費用がかさむようでしたら、食費も払いますので……」
「いえ、それには及びません。リク様は王城の……この国において重要な方。その方にお金を払われているとなると、周辺貴族に示しがつきませんから」
「重宝されておるのう。まぁ、Aランクに勲章持ち、そうなるのも当然かの」
「ははは、そうなんですかね……」
とりあえず、朝食をたかりに来たエアラハールさんの分も、一緒に用意してもらうようヒルダさんにお願いする。
さすがに、ずっと食事のお世話をされているのは申し訳ないと思って、費用を出す事も考えないとと思ったけど、ヒルダさんに断られた。
そういえば以前にも、こういったお客様を招いた時は、貴族や王族が費用を出す……という話も聞いた気がするね。
エアラハールさんが呟いた言葉に、苦笑しながら朝食の支度を待った……あ、今のうちに朝の支度もしておかないと……。
「お待たせ致しました」
「……なんじゃ、もっと豪勢かと思ったのじゃが、割と質素じゃのう?」
「期待し過ぎなんじゃないですか?」
「それもあるかもしれんが、キューばかりというのはどうかと思うぞ?」
顔を洗ったりと、朝の支度を済ませた頃、丁度いいタイミングでヒルダさんが朝食を持って来てくれる。
今日はユノがモニカさん達の方へ行っているから、俺とエルサ、エアラハールさんの分だ。
朝食はいつも、エルサのためにキューを使ったサラダが多く、肉類は少なめになっている。
味は専属の料理人が作ってくれるだけあって、十分過ぎるくらい美味しい。
王城だから、素材の質もいいんだろうと思う。
「キューは、エルサの好物ですからね。朝はそれをメインにしてくれているみたいです」
「ぬぅ……ドラゴン殿が肉を好まないというのは、不思議じゃが……昨日もそうじゃったからの。ドラゴン殿のためならば致し方あるまい」
「キューは美味しいのだわ! 色々な食べ方があって凄いのだわ!」
エルサの好物がキューだという説明をすると、エアラハールさんは肉が好きじゃないのかと首を傾げたけど、一応は納得したようだ。
キューを食べるエルサを、昨日の昼食の時も見ていたからというのもあるんだろうね。
エルサの方は、さらに盛られたキューを持ち、それを齧りながらキューを使ったサラダに口先を突っ込んで食べるという、キュー尽くしを堪能していた。
時折、口直し的に肉を食べている。
どちらかというと、水分の多いキューを後に食べて口直しするんじゃないかと思ったけど、エルサだかからね。
エアラハールさんも、質素とは言っていたけど結局美味しそうに朝食を食べていた。
やっぱり、年を取ると肉中心の食事よりも、野菜中心の食事の方がいいんだろうかとは思ったけど、エアラハールさんに怒られそうだったので、口には出さなかった。
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