第495話 照れるエルサ
「ふむ……そういった繋がりもあって、我々エルフの間ではドラゴンと契約者の人間に対する、崇拝のような習わしや教えが根付いているのだろうな」
ドラゴンはもちろんだけど、契約者も奇跡の力を使う事と、それを広めた功績によって、昔から尊敬されて来た存在という事かな。
人間と違って、エルフは長寿で世代交代が少ないため、そういった教えのようなものも根強く残ってるんだろう。
考えてみれば、初めて会ったとのアルネとフィリーナは、俺とエルサが契約者とドラゴンと知った時、いきなり平伏したんだっけか……。
あの時は驚いたなぁ……。
「おっと、歴史の事はともかく、今は魔法の事だな。エルサ様、それでは現在我々で使われている魔法を、リクやエルサ様が使っているような、ドラゴンの魔法に近付けることはできますか?」
「……それは止めておくのだわ。自由にイメージした事を魔法にするのが、ドラゴンの魔法なのだわ。けど、魔力の消費がものすごいのだわ。間違って使ったら、あっさり魔力が枯渇して死んでしまうのだわ。例えエルフでもだわ」
「……確かに、エルサ様やリクの使う魔法は、尋常じゃない魔力を使っていたか……だから、我々は周囲の魔力を集める事で補おうとしたんだったな。……成る程、参考になりました、ありがとうございます、エルサ様」
「長く生きているエルフでも、知らない事が知れて良かったわ。――ありがとうございます、エルサ様」
「俺からも、ありがとうな」
「……別に……私は、昔の事を話しただけなのだわ。特にお礼を言われるような事は言ってないのだわー」
ドラゴンの魔法は、魔力を大量に使ってしまう。
人間やエルフがそれに近い魔法を使うと、魔力枯渇の危険性があるため、使わない方がいい……という事は、使おうとしたら使える、という事だろうか?
エルサは使えないとは言わなかったな……なんて考えるけど、魔力枯渇してしまえば生きていられないのだから、使えても一度切り……命を懸けた使い切りとなってしまうのだから、使えないとも言える。
危険な事だから、もし使えるのであっても、広める事じゃないな。
ともあれ、話してくれたエルサに対し、アルネとフィリーナがお礼を伝える。
俺も、わざわざこちらに来て教えてくれた事に感謝すると、頭にくっ付いていながら、顔を明後日の方へ向け、照れ隠しをするエルサの雰囲気が伝わってくる。
姿がみえなくても、なんとなくエルサが喜んでいると思うのは、契約者で感情も流れてきているからなのか、俺がエルサの事を多少は理解できるようになって来たからなのか……。
そんなエルサを、アルネとフィリーナも何となく楽しそうに見ていた。
エルサの話を終えて、葛藤を乗り越えて答えを知る事ができたアルネが、魔力を練る事や魔法の事を再び真剣に考え始めた。
本来は、エルサの話ではなく、魔力を練るには……という事だから、逸れてた話を元に戻しただけなんだけどね。
「ドラゴンの魔法は、やはり我々には不可能か……まぁ、予想はしていたが、理由が魔力量というのがな……。おそらく、だから使用者の魔力だけでなく、周囲にある自然の魔力を集めて魔法を使うようになったんだろうな」
「そうね。そして、エルフは問題なくとも、人間は魔力を集めるという事に適性がある人とない人がいる……と。それが、魔法を使えるかどうかをわけるみたいね」
「そうだな。ソフィーなどは、その典型的な例だろう。……という事は、魔力さえ多ければどんな人間でも魔法が使える……という事か……いや、リクやドラゴンの契約者以外には、それに足る魔力を持っていると考えるのは危険か。これは今考える事じゃないな」
「それよりも、魔力を練る方法よ? まずはこの方法を確立して、魔法の効果を上げる。そして、そこから魔法形態や理論を変えて行けば、もしかしたら使えないはずだった人にも使えるかもしれないわ」
「ん? ドラゴンの魔法以外でも、使えないはずの人間が魔法を使えるようになったりするの?」
エルサとの話が終わり、アルネとフィリーナが顔を突き合わせて真剣な表情で話し合う。
俺はそれを、なんとなしに聞いていたんだけど、フィリーナの話をそのまま考えるのなら、誰にでも魔法が使えるようにすると言っているように思えた。
つまり、魔法が使えないと言っているソフィーにも、魔法を使う事ができるという事だ。
二人の話を邪魔しないように黙っていたんだけど、なんとなく気になってフィリーナに聞いた。
「リク、魔法が使えない理由は、自然の魔力が集められない事が原因よね?」
「うん、そう聞いてる」
「でも、魔力自体は人間にもエルフにも、それこそ生きている者なら誰でも持っているの」
「そうだね」
この世界にいる誰しもが、魔力を持てっているというのはわかる。
探査魔法を使うと、人間やエルフだけじゃなく、動植物すら微かに反応したりしてたしね。
魔力がなければ、探査魔法には反応しないはずだ。
現に、建物の壁とかは反応しない……なんとなく、魔力を遮断する物があるなぁ……という感覚で、壁があるように感じるくらいだね。
「魔力を練られるのなら、もしかしたら魔法使用に足る魔力を用意できる可能性があるの。多分、持っている魔力を放出するのに時間がかかるだろうけど……それでも、簡単な初歩の魔法で、使用魔力の少ないものなら使えるようになる可能性があるわ」
「時間さえかければ、多くの魔力を必要とする魔法もな。ただし、相応の魔力量が必要だから、持っている大きさによって使える魔法が限られるだろうがな」
「成る程ね……そういう事かぁ」
多分、魔力を練らない場合の魔法は、変換から発動までに時間をかけてしまうと魔力が霧散するからなんだろう。
さっき魔力球を維持していて感じた事だけど、思いのほか魔力が空気中に溶けて行くのは早かった。
練っていない魔力は密度が薄く、無軌道に広がっていくから、霧散しやすくまとめにくい。
だから、時間がかかってしまうと魔法の発動そのものができなくなる……と。
だから、その時間を短縮するために自然の魔力を集める事も、必要なんだろう。
だけど、魔力を練る事さえできれば、ゆっくり魔力を放出しても霧散する量が少ない。
自然の魔力を集める事なく、魔法へと魔力を変換できるってわけだね。
ただし、使用する本人からの魔力が多いため、使える魔法は多くないし、発動までに時間がかかって、さらには、自然の魔力を集めるよりも魔力枯渇に気を付けないといけない。
でも、もしそれが可能になるんだったら、生活に役立つ魔法くらいは使える可能性が高い。
火を付けたり、風を吹かせたり、水を出したり……とかかな?
ともあれ、その技術が確立されて広まったら、生活水準の向上というか、便利になると思う。
料理をしようとして火を起こすのも、結構重労働だって聞くしね。
「すまない、リク。もう一度魔力を練るところを見せてもらえるか? それを見て、ゆっくり方法を考えてみようと思う」
「わかった」
アルネに頼まれて、もう一度手の平の上に魔力球を浮かべる。
魔力を練ること自体、今までやって来ていた事だし、魔力球を出して維持するのも、さっきやったから特に難しい事じゃないからね。
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