第494話 魔法の祖



「……どうしたのだわ?」

「フィリーナとアルネが、エルサに聞きたい事があるみたいだよ?」

「……そうよね、本物のドラゴンがいたのよね」

「……直接聞くというのは、研究者として正しいのかどうか……だが、答えが知れるというのはいい……のか?」


 俺が呼ぶ声を聞いたエルサは、抱かれていたユノの腕の中から浮き上がり、フワフワしながらこちらに来た。

 呼んだ理由を聞くのと一緒に、すぐ俺の頭にドッキングして落ち着くのも忘れない。

 俺の後頭部はもはや、エルサの指定席だ……俺としては、モフモフを常に身近に感じられて癒されるから、文句は一切ない。

 くっつくエルサに答えながら、二人の方を見ると、ドラゴンが身近にいるという事を思い出したフィリーナと、何やら葛藤しているアルネがいた。

 ……ちょっと余計な事をしたかな? と思ったけど、聞けるのなら聞いてしまった方が話は早いだろう。


「えっと、魔法の事なんだけど……ドラゴンの魔法と、人間やエルフが使っている魔法の関係を聞きたい」

「ドラゴンと、人間やエルフのだわ? そんなの簡単だわ。ドラゴンと比べたら、小さすぎる魔力しか持っていない人間やエルフが、魔法を使えるようにしたのが、今の魔法なのだわ」

「それだけじゃよくわかんないな……アルネ?」


 魔法に関する事をエルサに聞くと、あっけらかんとした様子で答えられる。

 魔力量が多いと言われてるエルフも、ドラゴンに比べたら小さすぎると言われてしまうのか。

 そんなドラゴンよりも魔力が多いと言われた俺の魔力量って……。

 なんて一瞬考えそうになったけど、今は魔法に関する事の話だ。


 エルサの言い方だけだと、先程の推測がどうなのか決定づける内容じゃなかったため、改めてアルネに話すよう促す。

 アルネの方は、まだ少し葛藤していたみたいだけど、はっきりとした事が聞けるとあって、話す事に決めたみたいだ。

 真剣な目を俺の頭……エルサに向けて話し出した。

 ……やっぱり、推測で終わらせたりするよりも、答えがあるならはっきりとした事を聞きたいよね。


「エルサ様、先程リクから魔力を練るという方法を見せてもらい、さらにドラゴンの魔法について聞きました。これまでも多少は聞いていましたが、感覚と一緒に聞いた事でもしやという推測が……」

「前置きが長いのだわ。さっさと要件を話すのだわ」


 細かく説明しようとしたアルネが、エルサに注意される。

 こういった時に、細々とした状況説明から入って、長々と話したりするのは、研究者にありがちなんだろうか……?

 いや、研究者に限った話じゃないかもしれないけど……わりと俺もそういうところがあるしなぁ。


「……では、その……人間やエルフ、我々が使っている現在の魔法は、ドラゴンの魔法を研究し、使いやすくしたものなのではないか、という推測をしました。どうなのでしょうか?」


 エルサに対しアルネは、教えてもらう立場だからか、気分を害さないようか、丁寧に聞く。

 いや、アルネやフィリーナ達、エルフは元々エルサに対しては丁寧だったか……エアラハールさんを始めとした、人間でもそういう人は多いし、ドラゴンというのはそれだけ尊重される存在なのかもしれない。

 ……いや、恐れられてるのかもしれないけどね。

 エルサ自身は、キューが好物でのんびり食っちゃ寝してるだけだけども。


「その通りなのだわ。いつ頃かは私も知らないのだわ。けど、かなり昔にドラゴンの魔法の事を聞いた人間やエルフ……確か、エルフが主だったと思うのだわ。それが、自分達にも魔法という奇跡を使えるようにしたのが、今の魔法なのだわ」

「……やはり……そうなのですね……俺の推測は当たっていたのか」

「エルサは、何でそんな事を知っているんだ? エルサが教えたわけじゃないんだろ? あと、魔法の奇跡って?」


 何でもない事のように語って、アルネの推測を肯定するエルサ。

 本当に、昔の人達がドラゴンの魔法から、今の魔法形態を確立させたのか……すごいな、昔の人。

 肯定された事で、自分の考えが正しかった事がわかったアルネは、だがしかし、少し複雑そうな表情をしている。

 もしかしたら、自分の研究でその推測を肯定したかったのかもしれない。


 それはともかく、なんとなく気になった事を、俺もエルサに質問。

 頭の上に視線をやるけど、当然後頭部にくっ付いてるエルサは見えない……やっぱりちょっと不便だなこれ。


「魔法の奇跡というのは、魔法を知らない人間達が言い出したのだわ。自分達に使えない魔法を、ドラゴンの奇跡と呼んでいたのだわ。契約者も使えるから、一部の人間が使う事で、その人間も奇跡とされてた覚えがあるのだわ」

「あー、成る程ね」


 自分達に使えない魔法……炎を出したり水を出したり風を吹かせたりと、魔法は確かに使えない者にとっては奇跡の力に見えるだろう。

 日本とは違って、トリックだとかを疑わないのは、それを使うのがドラゴンであって、自分達よりも強大な存在だから、疑う余地はなかったんだろう。

 まぁ、トリックとかでできるような規模を、遥かに超えてる現象だから、そちらの意味でも疑う余地はなかっただろうしね。

 契約者というのは、俺のようにドラゴンと契約した人間の事だろう。

 契約した人間は、ドラゴンの魔法を簡単に使えるようになるので、まだ魔法形態が確立されていない時であれば、特に奇跡を使う人間として注目されていたのかもしれない。


「私が知っているのは、他のドラゴンに聞いたからなのだわ。この世界にいるドラゴンは、私だけじゃないのだわ。もっと長く生きてるドラゴンもいるし、まだ若いドラゴンもいるのだわ。だから、その時の事をなんとなく世間話として聞いただけなのだわ」

「ドラゴンの世間話……」


 まぁ、見たという人が少ない以上、ドラゴンの数は少ないんだろうけど、それでもこの世界には他にもドラゴンがいるのはわかってた。

 ユノが世界を知るためと言っていたし、エルサだけで世界の全てをカバーするのは、無理がある。

 一カ月程度、世界中を飛び回ってるくらいで、魔力を切らせて身動きが取れなくなるくらいだしね。

 

「あと、ドラゴンは人間と契約するものなのだわ。ドラゴンは平気だけどだわ、人間は人間の中で生きる事が多いのだわ。……時折、一切の関わりを断つ契約者の人間もいるようだけどだわ。それで、人間と関わっている中で、ドラゴンの魔法を伝えた者がいるようなのだわ。そこから、人間やエルフ達が自分達でも使えるように……と考え出したらしいのだわ」

「はー、成る程なぁ。まぁ、生きるくらいなら魔法もあるから、不自由はしないか……。ともあれ、魔法がどういうものなのかを広めたのは、契約者の方なのか」

「そうなのだわ。そもそも、契約しないと私達ドラゴンは人間と話せないのだわ。なんとなく意思疎通はできる事があっても、ほとんど通じないのだわ。契約をする事で、その人間の記憶を獲得して、言葉が話せるようになるのだわ。……完全じゃないから、変な語尾が無理矢理付いたりするのだけどだわ……」

「そういえば、そうか……」


 初めて会った時のエルサは、犬のような……獣のような唸り声をあげるだけで、はっきり喋ったりしてなかった。

 契約した後初めて、話し始めたのは俺の記憶が流れたからとか言ってたっけ。

 それで、自分の今までの記憶も含めて、俺の記憶と混ざる事で、言葉を習得したんだろうけど……その「だわ」という語尾はエルサの本意じゃなかったのか……。

 俺は結構好きなんだけどなぁ……慣れてるせいもあるんだろうけど。



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