第493話 アルネによる魔法の考察



「ふむ……その魔法名というのが、我々でいう呪文となるか……だとすると、魔法のイメージは使う魔法の箱のようなもの……その中に魔力を突っ込んで変換し、呪文で発動という事か。だとすると、やはり魔力を練れば込められる魔力量が多くなるな……周囲から集める魔力も含めて、あのように一塊になるのであれば、無駄にする魔力も少ないはず……だとしたら……」


 俺の説明や、見つめている魔力の球を見て、ブツブツと呟くアルネ。


「長考に入ったわね。こうなると、誰が止めてもしばらくは帰って来そうにないわよ?」

「そうなの?」

「集中して、周りが見えない状態だからね。声をかけるくらいじゃ戻ってこないわ。殴れば大丈夫でしょうけど……殴る?」

「いや……さすがにそこまでは……とりあえず考えているようだし、このままでいいんじゃないかな?」


 一人で考え込んでいるアルネを見て、フィリーナが仕方ないと言うようにか、呆れ交じりに言った。

 拳を握って、それを俺に見せながら殴るかどうか聞いて来るけれど、さすがに今思考の邪魔をするのは悪いから、遠慮しておく。

 これだけ集中して、真剣に考えているんだからね。

 それに、これでもしエルフや人間に役立つ、魔法の理論が完成したりしたら、俺も少しは貢献したような気がして、嬉しい。


「そぉ? リクがそう言うならこのままにしておくけど……リク、大丈夫?」

「……何が?」

「魔力を放出した状態で維持をしていて、問題ないのかなってね? 魔法は放ってしまえばそれで終わりだけど、魔力をそのままっていうのは、辛いんじゃない?」

「ん~……全然そんな感じはしないね。魔力が空気に溶ける性質があるっぽくて、球の外側から魔力が減って行ってるみたいだけど、すぐに魔力を補充するくらいだし……変換しなければ、ずっとこのままじゃない?」

「空気中に魔力が溶けるから、自然の魔力となるし、多過ぎると魔力溜まりにもなるわ。……でも普通、視覚化する程の魔力を放出して、ずっと大きさすら変わらないように維持し続けるなんて、出来ないと思うわよ? どれだけの魔力をもっているのかしら……」

「魔力量が多いとは言われてるけど……どれだけかは自分でも把握していないね。幸いなのか、今のところ、不足する感じはした事がないけど」

「あれだけの規模の魔法を放ったり、結界を張ったり……それだけで普通の人間……いえ、エルフ数人分の魔力は枯渇しそうな量なんだけどね……ほんと、意味がわからないわ。さすが、私の目でも計れないだけあるわね」


 練った魔力の球へは、常時少しずつ体内にある魔力を足して大きさの維持をしているけど、辛いと思う事は特にない。

 変換せず、魔力を長い時間そのままにするのは初めてだから、自然に魔力が溶け込んでいくのは初めて実感するけど、それも特に早いわけでもない……せいぜいが、濡れた水が常温で少しずつ蒸発するくらい、かな?

 なので、追加で魔力を足すのも水滴というか、蒸気をゆっくり立ち上らせるように、魔力を放出したら良いだけなので、簡単だと思ってたんだけど……魔力量に関してフィリーナに驚かれてるようだ。

 いや、むしろ半分以上呆れのようなものもが混じってるね。


 うぅむ……確かに、ユノやエルサにはおかしい程に大量の魔力を持ってるって言われるけど……自分の魔力量がどれだけあるのかは、よくわからない。

 さすがに、そこらの人間よりは多いんだろうくらいの事は、自覚してるけど。

 魔力量が多いとされるエルフを見て来た、フィリーナが計れない程って……一体どれだけの魔力量なんだろう?

 あるのかどうかわからないけど、魔力を計測できる物とかがあれば、調べてみたいなぁ……。

 どこぞの人達が使っていた戦闘能力を計る機械のように、計測不能で壊れるなんて事はないだろうしね……うん、ないよね?


「イメージ、魔力、呪文、箱、魔法名……もしかすると、我々が使う魔法も元々……? リク!」

「うぇ? どうしたの、アルネ?」


 思考に没頭し、ブツブツ言っていたアルネが、急にこちらへ顔を向け、俺の名前を叫ぶように呼んだ。

 急な事で少し驚いたから、浮かべていた魔力の球が消えてしまった。

 まぁ、見たいと言われればまた作ればいいから、問題ないけども。


「いや、俺の推測が正しければなんだが……もしかしたら、今我々が使っている魔法も、最初はリクの使うドラゴンの魔法とやらを使いやすくしたものなのかもしれない……」

「ドラゴンの魔法と、私達が使う魔法が?」

「へぇ~」


 アルネが難しい顔をしながら、真剣に考えていた事を俺やフィリーナに話す。

 ふむ、ドラゴンの魔法と人間やエルフが使う魔法か……。

 俺はエルサとの契約で、ドラゴンの魔法というのを使っているから、他の魔法形態に詳しくないけど、そういう事もあるかもしれない。

 エルサは長い事生きていたようだし、それに関わらず、ドラゴンというのは昔からいたらしい。


 そもそも、ユノが神様からの視点で世界を監視するために作ったと言っていたから、俺には気が遠くなる程の昔からいた可能性すらある。

 その頃の人間やエルフ……もしかしたら違う種族かもしれないけど、そういう人達がドラゴンの使える魔法というものを分析、研究して、自分達にも使えるようにしたという事だって考えられるわけだ。


「まぁ、ただの推測だがな。リクの言っていた魔法を発動するまでの手順を、魔力の放出を我々では放出と周囲の魔力を集める動作とする。さらに、イメージで魔法を確定させ、魔力を変換させる作業を我々は箱のような感覚のものの中に入れて、変換される。魔法名はそのままだな。リクの場合はイメージを固定化させるためらしいが、我々は個人が覚え馴染んだ魔法名……呪文を唱えて発動させる。少し無理矢理かもしれないが、そう考えると近いと思わないか?」

「……そうかもね。ドラゴンやリクは、魔力量が桁違いだけど、その魔力量を補うために私達は周囲に漂っている自然の魔力を集める事にした。そして、それで多少補う事と、扱いやすいようにしたのが、今の魔法形態や理論という事なのかもしれないわ……」


 難しい顔を突き合わせて、話し合うアルネとフィリーナ。

 魔力を練るという話から、いつの間にか別の話……魔法そのものの話に変わってるけど、いいのかな?

 それはともかく、二人で話して難しい顔をしているよりは、実際に聞いてみた方が早いんじゃないかと思う。

 何せこちらには、元神様のユノやドラゴンのエルサがいるんだから。

 あ、ユノが神様だったって事は言ってないから、話さない方がいいか。


「二人共、そんなに気になるなら、本人……と言えるかはわからないけど、実際に聞いてみたら?」

「「……え?」」

「おーい、エルサー!」


 真剣に考える二人を見ながら、軽く提案する。

 こちらに顔を向けてポカンとしている二人を余所に、手合わせの休憩に入っていたモニカさん達の方へ体を向け、大きな声でエルサを呼んだ。

 一応、エアラハールさんから女性を守るために向こうにいたけど、ユノがいるから大丈夫だろう。

 唯一、初対面の時にエアラハールさんの動きを捉えられてたようだし、何かしようとしても防いでくれそうだからね。



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