第492話 エルフの二人へ見せるため実演
「さぁ、見せてくれリク!」
「もう少し落ち着きなさい、アルネ? そんな様子じゃあ、折角見せてもらっても正確に見られないわよ?」
「ははは……まぁ、わからなかったら何度でも実演するけどね」
昼食後、アルネに急かされて再び訓練場へ。
ヒルダさんが確認してくれたところ、俺が使う分にはいつでも可能という事になっていたらしい……多分、姉さんやヴェンツェルさん、ハーロルトさん辺りがそうしてくれてたんだと思う。
さらに、城で訓練する兵士さん達がいる場合は見学をさせる事、一応国所属の軍施設なので兵士さん達への訓練が優先される事を伝えられた。
そのあたりは、当然の事だよね。
俺達は間借りしてるだけだから、兵士さん達が訓練していれば邪魔しないようにしないといけない。
訓練場が使えない場合は、冒険者ギルドの施設を借りようとか、王都の外で……とかも考えていたから、使えるだけありがたい。
わざわざ移動してという手間が省けるからね。
食事中もだけど、まだ興奮が収まりきらないアルネは、ずっとフィリーナに宥められている。
まぁ、もし興奮し過ぎてよくわからなかった場合でも、時間があれば何度でも実演するから大丈夫だと思う。
魔法を使い続けるわけでもなし、魔力を練るのをみせるくらいだから、特に減る物もないしね。
「それにしても、リクが魔法を使っているところを私の目で見て、異様な魔力と感じた理由はこれななのかしらね」
「異様? そうかな?」
「そうよ。エルフでさえ、早々魔力を視覚化できるほどの魔力になんで放出しないわ。それこそ、全力で魔物と戦う時くらいね。なのに、目で見える魔力だけでなく、密度が濃くどれだけの魔力が込められているのかすらわからない……そんな事、リクが初めてよ?」
フィリーナの特別な目で見ても、俺の魔力は異様と感じたらしい。
多分、視覚化する程の魔力が珍しく、見慣れていない事と、俺が魔力を練って密度を濃くしているからなんだろう。
もし、アルネフィリーナのエルフ達や、モニカさんのような人間でもできるようになれば、魔力の放出を目で見る機会が増えるのかな?
密度が濃いと、多分目でとらえやすくなるというか、色のようなものがはっきりと見えるから、ある程度の魔力がある人は見せられるようになるのかもしれない。
「フィリーナの目の事は今はいいんだ。早く見せてくれリク!」
「はぁ……」
「はいはい、わかったよアルネ」
もうアルネの方は待ちきれないようだ。
フィリーナが溜め息を吐き、両手の平を上に向けて首を振り、手の施しようがないと諦めている。
俺は苦笑しながら、魔力放出、そして練る事の実演を始めた。
ちなみにだけど、モニカさん達は俺がいる訓練場の真ん中とは別の場所、隅っこの方で手合わせしている。
エアラハールさんが、モニカさんとソフィーの実力を見るためだね。
主に、槍のモニカさんと剣のソフィーが向き合う事になるようだ。
ユノはエルサを抱えて、エアラハールさんが不届きな事をしないようにする見張りだ。
「それじゃ、始めるよ? えっと、魔法を発動まではしなくてもいいんだよね?」
「発動してもらってもいいのだが……どれだけの魔力が影響するのかも見てみたい」
「さすがに、城の中でそれはできないでしょ。リクの魔法がどれだけの威力になると思ってるの? とりあえず、今は発動よりも、魔力を練る事だけを見せて頂戴?」
「わかった」
モニカさん達の方をチラリと見た後、魔力を放出しようとして、念のために聞いておく。
魔法を発動までするんだったら、どんな魔法にするか考えないといけないので、色々と気を付けないといけない事があるからね。
発動までしないとあって、アルネは少し残念そうだったけど、フィリーナの言葉通り魔力を練る事だけを見せるようにする。
結界あたりなら、危険もなさそうだけど……あれは魔力を練って大量につぎ込んだら、大きくななり過ぎてしまうかし視覚的にも把握しづらい。
かといって、派手な魔法を城内で使うと危ないしね……。
威力控えめの魔法を使おうとしても、その辺りの信頼はフィリーナだけじゃなく俺自身も少し怪しいから。
地面に落ちても消えない線香花火だって、土の地面に穴をあけるくらいだったからね……。
「えーと、発動はしない……魔力を練るだけ……。……ん、こんな感じかな?」
「……特にリクが苦労しているようには見えないな」
「おぉ……元々リクの魔力は見える事はあったが、じっくり見るとこうなっていたのか……」
魔法名を唱えたり、イメージをして魔力が変換されないように気を付けながら、少しだけ体の中にある魔力を外へ放出。
一応、火の精霊だっけか? あれを召喚できるくらいの魔力を放出すると同時に、練って一塊にする。
発動どころか、変換させずに魔力を練るだけで終わらせるのは初めてだから、上手く行くか少しだけ心配だったけど、なんとかなったみたいだ。
体の前に出し、上に向けている手の平から、ソフトボールくらいの大きさがある白い球が浮かんでる。
大きさはともかく、形に関しては特に気にしたわけじゃない。
まぁ、練って密度を濃くするんだから、自然とこの形になったんだろうと思う。
その力の球体は、俺が気を付けているからか、何物にも変換されず白いまま、ジッと手の平から浮かんでいる。
まるで、早く魔法として使われるのを待っているかのようだ。
意思があるはずはないけど、魔法を使うための魔力と考えたら、そう見えるのも当然かもしれないね。
「普通は、霧状に広がったりしてまとまっていない魔力をよく見るんだけど……完全にひとまとめにされているわね」
「魔力を練ると、不規則で儚い魔力がこれほどまでに存在を示すのか……視覚化した魔力は何度も見た事があるが、ここまではっきりと目で見えるのはリクだけだな。成る程、魔力量だけでなく練っている事で密度が濃くなり、さらに視覚化が進むのか……。魔法を発動する場合は、これをどう使うんだ?」
「えーと……俺が特殊なんだろうけど、使いたい魔法のイメージを頭に浮かべて、魔力を変換するんだ。変換が終わったら、魔法名を唱えて発動だね。練っていた魔力が、イメージした魔法になるって感じかなぁ?」
俺の手に平に浮いている練った魔力を、フィリーナとアルネは目を剥いて凝視しながら話している。
確かに、魔力を練らずに魔法を使う時は、まとまりのない魔力が広がってしまって、そのまま変換されず空気中に溶けて行ってるような感覚がある。
魔力を練った場合、今目の前で浮かんでる白い球のような魔力のように、無駄にする魔力が少ないのかもしれない。
アルネも、先程までの興奮はどこへやら、驚きの表情ではあるけど、冷静に魔力の球を見て分析している。
真剣な表情で、まさに研究者とも言えそうな雰囲気だね。
……最初っからそれだけ冷静になっていれば、フィリーナに怒られる事もなかったんだろうけど……研究者だからこそ、実際に見るまでは興奮を抑えられなかったのかも?
魔力の球を観察しながら問いかけるアルネに、考えながら答える。
あくまでなんとなく、俺が感じている事になるけど、魔力の放出と変換というのをよく知っていそうなアルネ達なら、理解できると思う。
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