第496話 実演終了と飛ばされるエアラハールさん
「やはり、特に難しい事はしていないように見えるな。という事は……」
また、魔力球をジッと見つめたまま真剣な表情で、ブツブツと呟き始めたアルネ。
「ありがとう、もう大丈夫だ。ある程度は動作も含めて覚えたからな。とりあえず、じっくり考える事にする」
「うん、参考になったのなら、良かったよ」
「私も参考になったわ、ありがとう」
「終わったのだわ?」
「そうみたいだね」
アルネにもう大丈夫と言われ、魔力球を霧散させながら答える。
フィリーナからもお礼を言われて、そちらには笑顔で返しておいた。
終わったかどうかを聞くエルサに、頭の上に手を伸ばしてモフモフを撫でた。
本題とは少しずれたけど、エルサのおかげで魔法の事が少しはわかったし、ちゃんと感謝しとかないとね。
「ひょっひょっひょ!」
「ん?」
「ちょっと、止めて下さい!」
「……甘んじて受けるのも、教えを受ける者の義務か」
「そんなわけないの! 止めるのおじいさん! たぁ!」
「ぐふぉ……!」
エルサを撫でながら、感謝を伝えていると、離れた場所からエアラハールさんのものと思われる笑い声が響いた。
どうしたんだろうと思って、そちらに顔を向けると、モニカさんが走って距離を取り、ソフィーが目を閉じて何かを諦めた雰囲気を出しながら、ユノに注意されているところだった。
あ、ソフィーやモニカさんに駆け寄ろうとしたエアラハールさんが、ユノに蹴り飛ばされた……。
ジャンプしたユノが、綺麗なドロップキックでエアラハールさんを蹴り飛ばし、くぐもった声を出しながら訓練場の壁まで飛ばされる。
壁に激突したエアラハールさんは、そのまま力なく倒れ込んだ。
……生きてるかな? 多分、大丈夫だろうけど……初めて会った時に拳で殴られた時よりは、ダメージが大きそうだ。
「ユノ! モニカさん、ソフィー。何があったんだ?」
「二人の手合わせが終わったの。それで、リクの方も終わった様子が見えたから、あのお爺さんが急に暴走し始めたの!」
「我慢の限界とか言ってたわ……ちょっと、これからが不安ね……」
「ふむ。それでも実力は確かなのだから、場合によってはそういう事も覚悟しておかねばな」
「ソフィーはもう少し抵抗して!?」
「あー、成る程ね……」
慌ててユノ達の方へ駆け寄って聞くと、どうやらモニカさん達を見ていたエアラハールさんが、我慢しきれず痴漢をするために飛びかかったらしい。
あのお爺さん……やっぱり危険人物なのかもなぁ。
まぁ、俺の方が終わったタイミングも見計らっていたようだし、どうせ誰かが止めるだろうと予想しての事かもしれないけどね。
場を和ませようとか、そういう……考え過ぎか。
さすがに、ユノからの綺麗なドロップキックで、蹴り飛ばされるとは思ってなかったとは思うけど。
「いちちちちち………今のは効いたのう……とりあえず、嬢ちゃん達の実力はわかったの。それじゃ、ワシは考える事があるので、先に失礼するぞい!」
「あっ!」
顔をしかめながら立ち上がるエアラハールさんは、そう言い残してさっさと訓練場を出て行った。
普通に走って逃げてたから、ダメージはそんなに大きくなかったのかもしれない。
……考える事というのは、俺やモニカさん達の訓練をどうするかという事であって、痴漢しようとした事への追求から逃げるためではない……と思いたい。
ほんと、おかしな人だ……。
「あれがAランク……あの勢いで飛ばされたら、しばらく動けなくなるだろうに」
「日頃、誰かから飛ばされ慣れてるんじゃないかしら?」
「自分から飛んでいたのもあるの。だから勢いだけは凄かったの」
「とりあえず、ソフィーはAランクがあんな人ばかりだとは思わないようにね?」
凄い勢いで壁に飛ばされたのに、すぐに立ち上がって走って行った事に驚いているソフィー。
モニカさんは、少し憤慨している様子だけど、確かに日頃から同じような目にあっていそうではある。
……というか、町中で同じことをしたら、兵士さんにしょっ引かれるんじゃないかな?
そういうところでは、自重しているんだろうけど。
ユノの方は、ドロップキックを当てた手ごたえから、エアラハールさんが飛ばされる方に自分で飛んで、威力を殺していた事に気付いているみたいだ。
やっぱり、初対面の時にも後ろに飛んでいたように見えたのは、間違いじゃなかったみたいだね。
咄嗟にそういう事ができるのは、さすが元Aランクと言いたいけど……素直に褒める気持ちにならないのは、エアラハールさんの行いのせいかな。
あと、ソフィーが変な勘違いをしていそうだったので、一応突っ込んでおく。
俺もAランクだけど、エアラハールさんと同じ事はしないし、他のAランクの人達もしないと思う。
エアラハールさんだけが特別というかなんというか……。
ランクアップするには人格や素行も関係するから、多分大丈夫。
というよりエアラハールさん、もしかするとあの悪癖が原因でSランクになれなかったんじゃ……?
「ふーん、そんな事があったのね。話には聞いていたけど……単なるエロ爺ね。私は会わなくて良かったわ」
「まぁ、そうだね。けど、さすがに姉さんにはやらないんじゃないかな? 女王様だし……」
「甘いわリクさん。きっとエアラハールさんは陛下にも襲い掛かると思うわ! 陛下はこれだけ綺麗な女性なんですもの」
「あら、ありがとう、モニカ」
夕食を頂きながら、エアラハールさんの事を部屋に来た姉さんに説明。
さすがのエアラハールさんも、女王陛下に不届きな行いをすると思えないんだけど、モニカさんはそうは思わなかったみたいだ。
確かに姉さんは綺麗だし、もしかするとという事もあり得るかもしれないけど……。
「冒険者は国に寄らない職業で、自由なのよ? もしかしたらという事があるかもしれないわ」
「でも、もう引退した元冒険者だからな……」
「いや、そもそも冒険者とは関係なく、痴漢は駄目でしょ。さすがに法を守らない者は、冒険者だろうと関係なく捕らえるわよ?」
モニカさんは、冒険者が自由であるという事を論拠に、姉さんにも痴漢をするだろうと熱弁。
ソフィーは引退した冒険者である事から、否定派。
その議論に、そもそも犯罪であると冷静に突っ込む姉さん。
まぁ、無許可で女性の体を……特にお尻や胸を触るのはいけないよね。
「そうだね。国に寄らないとは言っても、そこにいるのならその国の法を守らないと。……痴漢を許す法があるような国はないと思うけどね」
「ん? そういう国があるわよ? 確か、ここから数国隔てた西の果てにある国だったかしら……? まぁ、正直関わり合いになりたくないから、国交とかしていないけど」
「……あるんだ」
痴漢が許可される国っていったい……いや、この国からは相当離れているらしいし、女王様である姉さんが関わり合いになりたくないため、国交もしていない場所なんだから、考えるだけ無駄なのかもしれないけどね。
元の世界なら遠距離通信や、飛行機などの移動方法があったから、多少なりとも関わらないといけないかもしれないけど、この世界ではそんな方法もないし、ドラゴンですら移動に時間がかかるんだから、関わらなくても問題はないんだろうと思う。
……国同士の関わりとか、よくわからないけども。
まぁ、大事なのは隣接している国や周辺国くらいなんだろう。
というかエアラハールさん、もしかしてその国から来た人間だったり……?
だから、犯罪というような意識がなくて、つい痴漢をしてしまうとか……?。
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