第476話 リクへの疑惑



 ヒルダさんに聞いた、俺がいない間のレナは……ほとんど部屋にいたのか……。

 俺といる時は結構はしゃいでいて、活発な印象もあるから、城下町に行きたがったりとか、城内を動き回ったりしてるもんだと思ってたけど、違うみたいだ。

 まぁ、実際城下町に出ようとしても、貴族の令嬢だからあまり自由にできない可能性が高いし、王城だから動き回ったりするのを控えてるのかもしれない。

 そういう事を、誰に言われる事もなく理解しているのかもね……まだ幼いと言っても、聡い子のように思うしね……。


「……リクさんがいないから、沈んでるのかしら?」

「……ユノもそうだが、幼い子にも容赦なく愛嬌を振りまくからな……助け出された経緯もある」

「まったく、罪作りよねぇ?」

「そういえば以前、私が初めてリクに会った時の事だが……その時にも幼い女の子を連れた母娘と……」

「リクさんって、小さい子の方が興味あるのかしら?」


 エフライムやレナの事を聞いた俺とは別に、モニカさん達が顔を寄せ合ってコソコソと話し始めた。

 内緒話で俺に聞かさないようにという程でもないので、話してる内容は丸聞こえなんだけど……俺を小さい子供に興味があると誤解するのは止めて欲しい……。

 確かに、懐いて来てくれて悪い気はしないし、優しく接しようとはしてるけど。

 ロジーナの事まで持ち出して……あれは確か、初めての馬車で向こうから話しかけて来たはずなのに……。


「リク様!」

「?」


 内緒になっていない内緒話を、コソコソとする女性陣をジト目で見ながら、ヒルダさんの淹れてくれたお茶を飲んでいると、突然部屋の扉が勢いよく開き、小さな女の子が飛び込んで来た。

 俺を呼ぶ声に、首を傾げならそちらを見ると、飛び込んで来たのはさっき話していたレナだった。

 誰かから、俺が帰って来たと聞いて、急いでこの部屋に来たんだろう。

 ……どこかに潜んでいたメイさんが聞きつけて、知った可能性が大きそうだけど。


「お帰りなさいませ、リク様! 帰って来られるのを、一日千秋の思いで待っていました!」

「ははは、大袈裟だよレナ。でもありがとう。それと、ただいま」

「はい!」

「「「ヒソヒソヒソヒソ……!」」」


 レナはここまで走って来たのか、少し息を乱していたけど、俺を見るなり満面の笑みで帰りを喜んでくれた。

 一日千秋という難しい言葉を知っているのとは別に、大袈裟な物言いだとは思うけど、それだけ待ち遠しくしてくれてたというのは、素直に嬉しい。

 そう思って、笑いながら答えると、レナはさらに嬉しそうに頷いてくれた。

 それを見ていた女性陣は、さらに内緒話に熱が入ったようだけど……断じて俺は、幼い子にしか興味がないような人間じゃないからね!


 そりゃ……嬉しそうに笑うレナは可愛いけど……モニカさん達が話してるような事じゃないから!

 まぁ、モニカさん達も、ほとんど冗談でそういう話をしてるんだろうけどね。

 ……冗談だよね?



「ほへー、そんな事があったんですね。リク様の魔法、見たかったなぁ……」

「あはは、結界は派手な事が起こったりしないから、レナが見てもつまらなかったんじゃないかな? それに、一緒に来てたら、気持ち悪い魔物を見る事になってたかもしれないしね」


 ヒルダさんが新しくお茶を用意し、俺の隣に座って床に届かない足をプラプラさせているレナと、ヘルサルであった事を軽く話す。

 俺の魔法が見たかったとレナは言うけれど、結界ははっきりと目に見える魔法じゃないし、派手な爆発とかもない。

 集まってもらった人達も、ちょっと肩透かしをくらったような雰囲気だったし、レナが見ても面白くなかったんじゃないかと思う。


 それに、レナがずっとついて来たら、マギアプソプションを見ていたかもしれない。

 危ない目には合わせられないし……大きなミミズが地面をうねうねしていたり、見た目的に幼い女の子のトラウマになりかねない。

 魔物と戦う事の多い冒険者をしていても、モニカさんやソフィーですら嫌がった相手だしなぁ……臭いもそうだし、俺だって気持ち悪いと思った。

 それを貴族の令嬢……それも幼い女の子に見せるのは、さすがにね。


「あれ? そういえば、メイさんはどうしたの?」

「メイですか? それでしたら……」

「ここに……」

「!?」


 レナと話している最中、いつも一緒にいるはずのメイド兼護衛のメイさんがいない事に気付く。

 どうしたのかと思ってレナに聞いてみると、シュタッと俺の背後にメイさんが降りてきた。

 ……全然気配がなかったのに、いつのまにか部屋の中に入っていたらしい。


「いつの間に……」

「レナーテ様とご一緒に……」


 いつの間にメイさんが部屋に入って来ていたのかと思い、呟くと同時、ヒルダさんの方へ視線を向けると、レナと一緒に入って来た言いながら頷き、ちらりと天井へ視線を向けた。

 俺は気配を全く感じなかったけど、どうやらレナと一緒に部屋に入ってきて、以前のように天井へ張り付いていたらしい。

 だから降りてきたんだと思うけど……俺の心臓がバクバクいってて危険が危ないので、そんな蜘蛛だか忍者だかのような行動は止めて欲しい……。

 本人に言っても、レナを密かに護衛するためとか言って、聞いてくれなさそうだけども。


「?」

「どなたでしょうか?」


 溜め息を吐きながら、驚きで激しく動く心臓を落ち着かせつつ、メイさんと挨拶を済ませてレナとの話を続ける。

 しばらくして、今度は部屋の扉がノックされた。

 姉さんはノックしないで入って来そうだし、少し荒々しい感じの叩き方だったから、エフライムでもなさそうだ。

 俺が首を傾げ、ヒルダさんが扉の外へ声をかける。


「ヴェンツェルだ。リク殿が帰って来ていると聞いた」

「ヴェンツェルさんか。すみません、ヒルダさん」

「畏まりました。……どうぞ」

「失礼するぞ。おぉ、リク殿。無事帰って来ているようだな。話は陛下や他の者から聞いている」


 扉の外から返って来たのは、ヴェンツェルさんの野太い声。

 確かにヴェンツェルさんなら、力任せにノックをしそうだと納得し、ヒルダさんにお願いする。

 俺の言葉に頷いたヒルダさんは、お辞儀をして扉へと近付き、ゆっくりと開けてヴェンツェルさんを招き入れた。


 部屋に入ってきたヴェンツェルさんは、俺を見るなりニカッと笑う。

 それなりに爽やかな笑い方なんだけど、筋骨隆々なオジサンなおかげで、あまり爽やかさを感じないのは、どうでもいい事か。

 俺が城を離れていた事は、姉さんとかから聞いていたらしい。

 まぁ、師匠さんの事もあるから、ヴェンツェルさんに教えるのは当然か。

 俺をはじめ、モニカさん達もそれぞれヴェンツェルさんに挨拶。


 それにしても、戻って来たのはハーロルトさんに聞かされたんだろうと思うけど、仕事は大丈夫なんだろうか?

 ハーロルトさんはヴェンツェルさんを捕まえて……とか言ってたけど、書類仕事を押しつけて来たんじゃなないのかな?


「リク殿、師匠は明日この城に来るようだ。王都にはもう到着しているようだが、長旅だったので、今日は宿で休んでおくつもりのようだな」


 俺の疑問を余所に、用件を切り出すヴェンツェルさん。

 そうか、お師匠さんは結構な年齢だと思われるから、長旅は辛いよね。

 俺達と違って、エルサに乗ってひとっ飛びというわけにもいかないし、日数をかけて馬車や馬に乗って来たんだろう。

 移動って慣れてても結構疲れるから、しっかり休んで欲しい――。



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