第475話 ヴェンツェルさん逃亡中
「お疲れ様、エルサ。いつもありがとう」
「ありがとうね、エルサちゃん」
「飛ぶのは気持ちいいから、気にするななのだわー」
王城にある広場にエルサが降り立ち、姿勢を低くしてもらって、乗っていた皆がそれぞれ降りる。
広場には兵士さん達が集まって来ていたけど、降りてくるのがエルサや俺達だとわかって、警戒はされていない。
ハーロルトさんの言っていた通り、問題はなさそうだ。
全員が地面に降り、エルサの体が発光して小さくなる。
ふわふわと飛びながら、俺の頭にコネクトするのを受けつつ、エルサを労う。
モニカさん達も、それぞれエルサに声をかけていた。
やっぱり、飛ぶのは好きなようだね……近いうちに、エルサとユノを連れて全力での飛行というのを、計画してみようと思う。
「お帰りなさいませ、リク様」
集まっていた兵士さんの中から、見覚えのある人が進み出て声をかけられた。
「マルクスさん。ただいま帰りました」
声をかけて来た兵士さんは、クレメン子爵領へ行く時お世話になった、マルクスさん。
今日は城内にいたようだ。
森の休憩所建設ではなく、たまたま城に戻ってきてたのかもね。
「マルクスか。ヴェンツェル様は? それと……」
「ヴェンツェル様は、現在兵士訓練場にて新人育成をされております。他には……」
「そうか……また書類仕事から逃げ出したな……」
「ははは、まぁ、そういう事です」
マルクスさんに気付いたハーロルトさんが、何やら話し始める。
ヴェンツェルさんが今何をしているのかと、情報部隊の部下たちの事を確認しているようだ。
書類仕事から逃げ出して、新人教育をしていると、ハーロルトさんは溜め息を吐き、マルクスさんは苦笑。
新人教育は、苦手な仕事から逃げるための口実なんだろうね。
デスクワークよりも、体を動かす事の方が得意そうなヴェンツェルさんらしい。
そのおかげで、ハーロルトさんの仕事が増えてるんだろうなぁ……お疲れ様です。
「リク様、私はヴェンツェル様を捕まえて、報告へ参ります」
「はい、わかりました。農場の事や、スイカの事も報告していてもらえると、助かります」
「了解致しました」
帰ったばかりだというのに、ハーロルトさんは報告に行くらしい。
これも情報部隊隊長ゆえの忙しさか……いや、軍とかってこういう報告はちゃんとしないといけないから、当然なのか。
ついでに、スイカの事も含めて報告をしてもらうよう頼む。
俺が報告するより、しっかりした報告をしてくれそうだからね……もしかしたらヴェンツェルさんは、こんな感覚なのかな?
頷いたハーロルトさんは、マルクスさんと敬礼をして、城内へと去って行った。
「早く部屋に戻るのだわー」
「そうだね。数日ぶりだけど、ヒルダさんのお茶も飲みたいし」
「リクさんの淹れてくれたお茶も、美味しいんだけどね」
「年季が違うというのか……やはり城で出されるお茶は別格だな」
エルサが俺の頭を、柔らかいモフモフの前足でテシテシ叩きながら急かすのに応えながら、中庭から部屋へと向かう。
獅子亭にいた時は、久しぶりに俺が休憩する時とかに皆のお茶を担当していたけど、ヒルダさんの淹れてくれるお茶と比べたら、雲泥の差だと思う。
茶葉がいいのかもしれないし、淹れ方の問題なのかもしれないけど……まぁ、見様見真似で淹れてた俺のお茶と比べるまでもないよね。
集まっていた兵士さん達も、何事もなかったように解散を始め、それを見ながら中庭を離れた。
「お帰りなさいませ、リク様」
「ただいま、ヒルダさん」
「戻ったのー!」
部屋に戻ると、どこからか連絡が行ったのか、先に部屋の中で待っていてくれたヒルダさんに迎えられる。
多分、兵士さん達の誰かが伝えたんだろうけど、既にお茶やカップが用意され、あとは注ぐだけのようだ。
ユノの元気な挨拶を聞きながら、持っていた荷物を置いて、各々ソファーに座る。
馴染みのある獅子亭に滞在していたけど、店を手伝う事も含め、やる事が多かったために少し疲れているようで、俺も含めて皆ソファーに体重を預けた。
「どうぞ。お疲れのようですね?」
「ありがとうございます。……まぁ、最初の予定よりもやる事が多かったですからね」
「店の手伝いをする事は考えていたけれど、魔物の討伐から、母さんの特訓まで受けるとは思わなかったわ……」
「ふふふ、また色々となされて来たようですね」
カップにお茶を注いでくれたヒルダさんにお礼を言いながら、ヘルサルでの事を軽く思い出し、答える。
獅子亭を手伝う事は好きだし、お世話になるんだからそれくらいはやらなきゃとも思う。
でもさすがに、店があれだけ忙しくなるとは思ってなかったし、モニカさんとソフィーは、マリーさんの特訓まで受けてたからね……疲れるのも無理はない。
……怒られたのは、自業自得だったかなと思うけど。
「アルネはどうしてますか?」
「アルネ様でしたら、毎日城を訪ねられ、蔵書に埋もれながら過ごしていらっしゃるようですよ」
「そうなのね。まぁ、エルフの集落では得られない、貴重な書物もあるだろうから、夢中になるのも仕方ないわね。……早くリクの言っていた魔力を練るという事の相談をしたいのだけれど……」
「……呼んで参りましょうか?」
「んー……いいわ。どうせ夕食の時にでも部屋に来るでしょ。寝食を忘れて……という程のめり込んでなければ、だけどね」
「畏まりました」
部屋の中を見渡しながら、アルネの事を聞いたフィリーナ。
ヒルダさんによると、書物を保管している場所へ毎日やって来て、読み漁っているらしい。
魔法に関する研究のためなんだろうけど、難しい本を長時間読み続けて知識を得ようとするのは、凄いと思う。
俺なんて、本を読むくらいはできても、長い時間読み続けたり、書いてある知識を吸収して……という事はできそうにないしなぁ。
……眠くなって、エルサと一緒に寝てしまう姿が想像できるね。
「姉さんは、仕事でしょうけど……エフライムとレナはどうしてますか?」
「陛下は時折、仕事をサボ……休憩にこの部屋で寛いでおりますけど、本日は執務をこなしておりますね。エフライム様は、現在城内にいる貴族として……正確には子爵家の名代としてですけれど……陛下と協議を重ねておられます。多くは、子爵領や国内の作物に関する事のようです。レナーテ様は、リク様がヘルサルに向かわれてから、あまり外には出ず、部屋にて過ごされているようです」
姉さんは相変わらず、仕事をサボる事があるようだ。
以前も仕事を放り出して、冒険者依頼をこなそうとする俺達について来ようとしたりもしてたけど、相変わらずだね。
まぁ、その度にヒルダさん達が連れ戻したり、仕事をしてもらうようにしてるから、なんとかなってるんだろうけども。
……もう少し、女王陛下としてしっかりして欲しいと思う反面、重圧や激務で体調を崩したりはしないようで安心。
俺の部屋に来て寛ぐ余裕があるなら、まだまだ平気だろうしね。
エフライムは、クレメン子爵の名代として王城に来ている事もあって、貴族としての仕事をしているようだ。
キュー不足が発端だけれども、領内や国内の作物の流通を相談するのはいい事だと思う。
食べ物が少なくなったら、国の危機にもなりかねないしなぁ……。
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