第471話 リクの笑顔は女性特攻?
マックスさんとルギネさん達のやり取りを見ていたソフィーが、頭を振りながら呟くのに気付いた。
確かに、冒険者ギルドで俺が初めて会った時も、ソフィーを自分達のパーティに入れようと、強めに勧誘してたようだし、今日獅子亭に戻ってくるまでの道すがらも、誘われてたようだ。
いくら断っても、ずっと勧誘をされ続けるのはソフィーとしては面倒なんだろうなぁ。
俺やモニカさんはこれからも、ヘルサルに来る事があったら気軽に獅子亭に寄るつもりだけど……ソフィーにとっては少し寄りづらい事になってしまったようだ。
まぁ、働いていても店の営業中なら、勧誘する余裕はなさそうだから、そんなに心配しなくてもいいと思うけども。
獅子亭は忙しくて、特定の誰かとずっと話していられるような余裕はないから。
マリーさんがしっかり見てるから、そんな事をしてたら注意もされるだろうしね。
ソフィーと話しながら、そんな事を考えていると、マックスさんやマリーさんとの話を終えたルギネさんが、ゆっくりとこちらに近付いてきた。
「リクさん……いや、リク。そちらはAランクになっても甘える事はせず、絶えず訓練をするようだが、こちらも負けないように研鑽する。いずれ追いつき、追い越して見せるからな!」
「うん、お互い頑張ろう!」
真面目な顔で、そう言い放つルギネさん。
向上心があって、悪い人ではない有望な人物が、しっかり成長してランクが上がるのが、同じ冒険者としていい事だと思う。
高ランクの冒険者が増えたら、それだけ難度の高い依頼の解決がされるという事でもあるしね。
ルギネさんの言葉を受けて、一緒に行動するモニカさん達のような冒険者とは別に、高みを目指せる人ができたと嬉しくなった。
こういうのって、好敵手だとか、ライバルっていう関係なのかな? ルギネさん達は敵じゃないけど。
そんな事を考えながら、俺は自分でも自覚できるくらい満面の笑みで、握手しよう右手を差し出した。
「っ!」
「あれ?」
だが、俺の事を真っ直ぐ見ていたルギネさんの顔が、急に熱でも出たかのように真っ赤になり、サッと身をひるがえしてアンリさん達の方へ戻ってしまった。
差し出した手が空振りに終わった俺は、何故そうなったかわからず、首を傾げるばかりだ。
「ルギネ、照れてるの? ……本当は一緒に活動したいって言いたかったんでしょ?」
「お姉さま、真っ赤ですよ!」
「焦げた肉のように……違うか、生肉みたいに真っ赤」
「ええい、うるさい! 何でもないから気にするな!」
離れた場所で、アンリさんやグリンデさん、ミームさんに色々言われてるのに対し、怒ったように叫ぶルギネさん。
マックスさんを始めとして、俺をよく知る人達が呆れ顔でこちらを見てたので、俺が何かしてしまったのかな?
「……あの笑顔は反則よね……」
「あぁ。あんな笑顔を向けられたら、恥ずかしくなっても仕方ないだろう。特にルギネは、最初リクを敵視していたのに、共闘から怪我の治療……」
「同じ女として、同情するわ……」
「リクも罪作りだねぇ……ま、男はそれくらいじゃなきゃねぇ」
「だが、本人に自覚がないとこの先、問題が起こりそうだな……」
「えーっと……モニカさん? ソフィー? フィリーナやマリーさん、マックスさんも……どうかしたんですか?」
「「はぁ……」だわ」
俺の方を見ながら、コソコソと話し始めたモニカさん達。
何を話しているのかはっきりとは聞こえないが、雰囲気的俺の事を話しているんだというのはわかる。
ちょっとした疎外感を感じながら、モニカさん達に声をかけるけど、呆れ顔のままだ。
顔を真っ赤にしたルギネさんと、妙な雰囲気の理由がわからず、右往左往している俺という、変な状況になってしまう。
そしてその場に、ユノとエルサの溜め息が響き渡った――。
――――――――――――――――――――
翌日、朝食を頂いた後、マックスさん達に挨拶をして獅子亭を出る。
見送りに来てくれるかなと思ったけど、店の準備のために今日は店先までという事だった。
ルギネさん達が働き始めるから、その準備もあるそうで、あまり余裕はないらしい。
まぁ、仕方ないよね。
そのルギネさん達は、昼の営業前に獅子亭に集合する予定で、そこからマリーさんによる接客指導が始まるらしい。
俺の時もそうだたけど、マリーさんにみっちり接客指導を受けたら、未経験でもちゃんと働けるようになるから、ありがたい。
問題は、俺が働き始めた時より、店が忙しくなり過ぎているという事だけど……まぁ、なんとかなるだろう。
今は、集合前に宿を変えるため、忙しくしてるはずだ。
なんでも、獅子亭に通うのなら近い宿にしようという話になったらしく、それならとマックスさんやマリーさんの紹介で、いい宿を安く紹介してもらったらしい。
食費だけでなく、宿代も節約できるとあって、アンリさんが凄く喜んでたなぁ……。
リリーフラワーの金庫番は、アンリさんらしい。
さらに、獅子亭を出る準備をしている時、ハーロルトさんが訪ねて来て、クラウスさんとヤンさんが見送りのために西門に来てくれると教えてくれた。
俺達がいつ王都へ出発するかを聞いて、それをクラウスさん達に伝達してくれるようだ。
休暇のためにヘルサルに来たはずなのに、色々とお疲れ様です。
あと、ありがとうございます。
「お待ちしておりました、リク様」
「クラウスさん、ヤンさんやトニさんも」
西門を出てすぐの場所で、クラウスさんとトニさんのペアと、ヤンさんやハーロルトさんが待っていてくれた。
忙しい中見送りに来てくれて、ありがたい事だ。
「ヘルサルの冒険者ギルドとしては、リクさんがこのまま、この街に留まってくれる方がありがたいのですが……ギルドといえど、冒険者を特定の場所に留まらせる事はできません。まぁ、その辺りは規定なのでしかたないのですが。それはともかく、王都に戻ってからも、益々の活躍を期待しています」
「はい。どれだけできるかはわかりませんが、冒険者として困っている人を助けられるよう、頑張ります!」
まずはヤンさんが進み出て来て挨拶。
真面目な副ギルドマスターらしい言葉に、力強く頷いて答えた。
モニカさんやソフィーも、同じように頷いている。
冒険者になる時の規定で、ギルドにも縛られず、活動拠点を移すのは冒険者本人の自由意思である、という決まりがある。
世界中に支部を持ち、国に寄らない組織である冒険者ギルドが、そう規定する事はつまり、国にも冒険者を一つの場所に留める事は不可能という事だ。
まぁ、そうは言っても、俺の場合は大体お世話になった人の多いヘルサルか、姉さん達がいる王都かのどちらかで活動する事が多いんだろうけどね。
規定の事を思い出していると、スッと近付いたヤンさんが、先程よりも少し声を潜めて何やら囁いてきた。
「……王都の中央ギルドにいる、女狐様……統括にも、よろしくお伝え下さい」
「えーっと、マティルデさんですかね? はい、わかりました」
マティルデさんの事を女狐と呼ぶなんて……と思ったけど、確かにその言葉が似合ってるようにも思う。
女性だてらに、アテトリア王国内の冒険者ギルドを統括する、中央冒険者ギルドのギルドマスターになっているんだから、女狐と呼ばれるほどの活躍をする必要があったんだろう。
それに、アンリさんにも通じるような色気と、若くも見える年齢不詳な雰囲気は、確かに女狐と言っても差し支えがなさそうに思えた。
……本人に言ったら怒られそうだけどね。
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