第470話 獅子亭の新しい従業員



「もしルギネさん達が良かったら、この獅子亭で働いてもらったら? 父さん達は元冒険者だから、色々教えてあげられそうだし、融通も利くわ。それに、人手が欲しいでしょ? さっきまでの混雑は、今の人数でこなすのは難しいと思うわよ?」

「モニカの言う通りね。さっき来ていたお客さん達、久しぶりに来た人も多かったけど、また来るって言ってたし……しばらくはあの忙しさが続きそうだしねぇ。どう、アナタ?」

「そうだなぁ……モニカやリク、ユノが手伝ってくれたから、なんとかなったというのはあるな。ルディやカテリーネもいてくれるが、今日くらい忙しくなるとさすがに厳しい。二人に、毎日あれをこなせというのも酷だし、休ませる時間も必要だしな。……どうだ、お前さん達、ここで働いてみるか? もちろん、ちゃんとした給料は払うぞ?」

「えっと……え? ここで……という事は、給仕の仕事をしろって事ですか?」

「多少、調理の方も手伝って欲しいがな。客をさばく人員を補充するのが急務だな。無理のとは言わんが……」

「あ、ここで働くと、食事も無料で食べられるわよ?」

「働きますぅ! いえ、働かせて下さいぃ!」

「ちょ、アンリ!?」

「私も、焦げた肉より美味しい料理を出す、ここの料理がタダで食べられるのなら、働きたい」

「ミームも? ……お姉さま、どうするんですか?」


 モニカさんが提案したのは、ルギネさん達がここで働いて給料を得るという事。

 元冒険者であるマックスさんとマリーさんがいるから、参考になる事もあるし、教えを乞えば色々と教えてくれるだろう。

 実際、その教えを受けたモニカさんが、Cランクになってる実績もある。

 冒険者ギルドからの依頼もあるから、そちらを優先する時だって、話せば融通を聞かせる事もできるだろう。


 獅子亭での仕事を付きっ切りでやるというわけにはいかないだろうけど、人手が欲しい獅子亭は多少なりとも助かるし、金欠なルギネさん達は定期的な給料を得られて、お互い助かる。

 それに、知り合ってからの時間は少ないけど、ある程度人となりも把握できているという事も大きいか。

 どちらにせよ、マックスさんとマリーさんがこんなに早く決めたのは、さらに人を募集する事を考えてたのからなのかもしれない。

 ルディさんとカテリーネさんを、忙しい中ずっと無理して使い続けるわけにもいかないしね。


 ルギネさんはどうするか考えているようだけど、獅子亭の料理を毎食無料でまかないとして出すと、マリーさんが条件を加えた事で、アンリさんとミームさんが飛びついた。

 ここの料理は美味しいし、それが無料で食べられるのは、大きな特典だよね。

 俺がこの世界に来てしばらくは、ずっとお世話になってたし……俺の場合は、部屋も用意されてた住み込みだから、ちょっと違うけど。

 ……ほんと、あの時は助けられたなぁ。


「……本当に、冒険者としての経験にも、なりますか?」

「ルギネと言ったか。装備を見る限り剣や盾を使う前衛だ。それなら、俺にも教えられる事があるだろう。俺も、同じ役割だったからな。若い冒険者が成長する手助けになるなら、ロートルにも価値がある」

「いや、マックスさん……今でも現役で通用すると思いますけど」

「本当よ。父さんも母さんも、王都や防衛戦の時にたっぷり活躍してたものね……」


 向上心のあるルギネさんは、冒険者としてマックスさん達に教えられてためになるのか、そこが知りたいらしい。

 マックスさんとルギネさんは、戦闘スタイルや扱う武具が似ているから、しっかりした助言が聞けるだろう。

 空いてる時間なら、ソフィーさんのように訓練を付けてもらう事だってできるはずだ。

 でもマックスさん……王都や防衛戦であれだけしっかり戦っておいて、ロートルってのは言い過ぎかなぁ?

 ヤンさんもそうだけど、まだまだBランク冒険者として、一線で通じると思うんだけども……。


「どうするのルギネ? 私は賛成よぉ? 美味しい物を食べながら、お金を節約できるなんて最高じゃない?」

「私も賛成。焦げた肉ばかりではいけない。たまには美味しい物を食べたい……」

「アンリとミームは賛成か。グリンデはどうだ?」

「私は、お姉さまの意見に従うだけです。どちらを選んでも、お姉さまについて行きます!」


 アンリさんがルギネさんに窺うように聞きながら、獅子亭で働く事に賛成する。

 ミームさんも同じように賛成なようだけど、焦げた肉が美味しくないってわかってて、いつも齧ってるんだなぁ、やっぱり……もっと他の物を食べればいいのに、と思わなくもない。

 二人の意見を受けて、ルギネさんはグリンデさんにも聞くが、そちらは賛成も拒否も示さず、ルギネさんに従うつもりのようだ。

 リリーフラワーのメンバーの中で、グリンデさんが一番ルギネさん至上主義なのは、少ない時間でもよくわかる。


 パーティの意見を聞いて、少し考える様子のルギネさん。

 こうして、リーダーが独断で全てを決めるのではなく、メンバーの意見をちゃんと聞いて考えるという所は、俺も見習わないとね。

 初めて会った時の、ソフィーから俺への絡み方とか、マギアプソプション討伐に躍起になっていた時の事は……頭に血が上っていたんだろう……という事にしておこう。


「そうだな……食事にかかる費用を節約できるうえ、給料ももらえる。さらに冒険者として学ぶ事もできるようだし、条件は悪くないな。――マックスさん、でしたね?」

「おう、マックスだ。こっちは妻のマリーで、他にルディとカテリーネって夫婦がいるぞ」


 目を閉じて考えていたルギネさんが一つ頷いた後、真っ直ぐにマックスさんへと視線を向けて、話しかける。

 名前を確かめられたマックスさんは、マリーさんの事を示して紹介しながら、ルディさん達の事も教えた。


「では、マックスさん、マリーさん。どれだけの期間かはわかりませんが、これからお世話になります」

「決まりだな。こちらこそ、よろしく頼むぞ!」

「「「お世話になります!」」」


 獅子亭で働く事に決めたルギネさん。

 マックスさんとマリーさんをしっかり見据えながら、深々と頭を下げる。

 マックスさんが笑顔で頷くと、ルギネさんに続いて他のメンバーも頭を下げた。

 こういうところって結構礼儀正しいんだなぁ、ルギネさんは。


 食事の時もそうだけど、破廉恥と言われた見た目からは想像できない程、上品に見える時がある。

 もしかすると、実はいい所のお嬢様だったりするのかもしれない。

 だとしたら、何故冒険者をやっているのか気になるけど……事情は人それぞれだし、深く突っ込んで聞いても、失礼になってもいけないね。


「ルギネがここで働くのか……気軽に戻ってこれなくなるな……」

「どうして? 別にソフィーを嫌ってるわけじゃないんだから、気軽に来てもいいんじゃない?」

「リクもいずれわかる……ルギネが勧誘を始めると、とにかくしつこいんだ……。諦める事を知らないんだ……」

「あー、ははは……そうなんだ。まぁでも、ヘルサルに来た時、食事に来るくらいはいいんじゃない? 接客中なら、勧誘する余裕はなさそうだし、マリーさんが目を光らせてるしね」

「……そうか……そうだな。それくらいなら問題ないか」



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