第469話 師匠さんは注意が必要
「……まぁ、会えばすぐにわかるだろう。訓練自体はまともだし、ためになる事だ。だが……モニカ……それとソフィー、気を付けろよ?」
「え? リクさんじゃなくて私なの?」
「訓練を受けるのはリクなのですが……私も、ですか?」
「あぁ。ユノはまだ小さいから大丈夫だろうが……モニカとソフィーは気を付けた方がいい。特に、背後にな。……師匠が本気を出したら、老いていようと無駄かもしれないが……」
「あの人のあの悪癖には、私も苦労させられたわねぇ……」
「おかげで、マリーは後衛とは思えない動きができるようになったがな」
「まぁねぇ。……でも、モニカやソフィーよりも、前衛向きじゃないフィリーナが、一番危険かしら?」
「……え? 私ですか?」
何やらモニカさんやソフィーは、そのお師匠さんに気を付けなければいけない事があるようだ。
悪癖と言ってるけど……どんな事なんだろう?
訓練を受けるのは主に俺だし、モニカさん達が気を付けないといけない理由がよくわからない。
マリーさんも苦労させられた事で、フィリーナも関係って……共通する事といえば、女性である事だけだ。
俺達の話には加わらず、エヴァルトさんへお願いの文言を考えていたフィリーナは、急に名前を呼ばれて驚いたようにマリーさんの方へ顔を向けた。
魔法とは関係なく、戦士としての訓練の話で、そのためのお師匠さんなはずなのに、いきなり呼ばれたら驚くのも無理はないよね。
「そうだな……細身だが、身のこなしは魔法を使う者らしく、あまり機敏ではない……師匠からすると、絶好の標的だな」
「えぇ。私もよくやられたからねぇ。それに、エルフという事もあるのでしょうけど、美人な事も高評価ね」
「えっと……何をされるのでしょうか?」
マックスさんとマリーさんがそう評するが、何をされるかわからないフィリーナは、戦々恐々としている。
「あまり忠告のような事を言うと、俺が師匠に怒られちまうからな……これ以上は言えん。だが、とにかく気を付けておけ……という事だな」
「そうね。それに、どれだけ忠告したって避けられないのなら、ここで教えなくともすぐにわかると思うわ」
「……一体、何をされるの……私」
「父さんと母さんがそこまで言うなんて……どれだけの事をされるのかしら……?」
「訓練なら望むところなのだが、今回はリクの訓練のはず。だが、それでも私達に気を付けろと言うのは一体……?」
マックスさんとマリーさんに言われて、三人が三人とも、悩みながら何をされてるのか恐れてしまっている様子だ。
ベテランの元冒険者から、そんな風に言われたら誰だってそうなってしまうと思う。
結局どんな事をされるのか教えられなかったけど……どんな事をされるのか……。
「Aランクにまでなっているのに、まだ訓練をするのか……私も王都へ行く事ができれば……」
「王都ならぁ、ここよりも実入りのいい依頼もありそうだけどねぇ。でも、無理よねぇ……」
「ルギネさんも、訓練をしたいの?」
「それはそうだ。私だって冒険者の端くれ。いずれAランク……いや、Sランクに至りたいという考えはある」
ルギネさんは、俺がAランクになれた経緯を詳しく知らないから、そこに至っても訓練する事に驚いているようだ。
Cランクではあるけど、確か初めて会った時にBランク間近と言っていたし、さらに高みを目指していて、向上心はあるのだろう。
そういうところは、少しソフィーと似ているかもしれない。
ソフィーはランクよりも、自分を高めるというか、訓練をする事そのものが目的みたいなところがあるため、同じではないだろうけどね。
「ん~、頼めば一緒に訓練もさせてくれるかもしれないけど……」
「いや、まず私達が王都へ行くという事が問題だ」
「ちょっと前に散財しちゃったから、今はちょっとねぇ……」
「散財……あぁ、あのお婆さんのところで……」
ルギネさん達は、先日男達に絡まれた一軒で、お婆さんの露店の修理代を出しているため、金欠だって言っていた。
本来は絡んで来た男達が悪いので、修理代の全てを男達が出すべきなんだろうけど、ランクの低い冒険者である男達には、そんな蓄えはなさそうだ。
それに、アンリさんが弾き飛ばしたルギネさんが露店に突っ込んだ……という事で、やり過ぎてしまった罪の意識とかもあって、お金を払ったんだろうと思う。
おかげで、お婆さんが怪我をしたのはともかく、すぐに営業が再開できたんだしね。
でも王都に行くには、馬の移動でも数日かかる。
移動する日数分、費用が掛かるのは当然だ。
特に、馬を所持していない冒険者なら、借りる事から始めないといけないから、その分も結構お金がかかる。
移動するにも、先立つ物がないと……ね。
いくらCランクの冒険者とはいえ、金欠という程の状況で王都への移動費を捻出するのは厳しいんだろう。
最悪の場合は、食料現地調達で徒歩の移動だろうけど……時間も体力も多く消費してしまうから、できるだけ避けたいのだろう。
というより、そんな移動をする冒険者は、よっぽど別の事にお金を使ってしまった人か、街や村を追い出されたならず者に近い冒険者くらいだって、どこかで聞いた気がする。
冒険者になる直前、マックスさんから教えられた事だったかな?
「なんだ、金欠なのか? Cランクの冒険者パーティと聞いていたが……」
「いえ、その……色々とありまして……」
ルギネさん達が金欠だという事を聞いて、マックスさんが首を傾げる。
俺やユノ以外は、ルギネさん達が金欠になった経緯を知らない。
Cランクでも、良い装備を整えたり、贅沢な生活をしていれば、金欠になる事もある。
どれだけ稼いでいても、お金の使い方が荒ければ生活に困るようになるのは、どこの世界でも一緒だ。
Cランクになれば、それなりの報酬がもらえる依頼ができるようになるけど、色々な事が重なって生活に困る人が多くなるってのは、マティルデさんも頭を痛めてたっけ。
とはいえ、見た限り高すぎる装備をしているわけでもないルギネさん達、贅沢な暮らしをしているようにも見えないから、あまり金欠にはなりそうになく見える。
事情を知っている俺やユノ以外の人達に説明するため、言いにくそうにしながらルギネさんはマックスさん達へ露店の修理費を払った事を説明した。
「ふむ……それはまぁ、災難だったな」
「女だけのパーティだと、変な男達に絡まれる事が増えるらしいのよねぇ。私は幸い、この人やヤンがいたから助かってたけど。……男だけのパーティでも、女に騙されて散財するなんて事もあるようだしね」
話を聞いたマックスさんとマリーさんは、ルギネさん達に同情的だ。
まぁ、絡んで来た男達が原因なのだから、やり過ぎたてしまった感はあっても、そうなるかな。
……というより、女性に騙されて男だけのパーティが散財って……結構怖いなぁ。
もちろん逆もあるんだろうけど……どの世界でも異性とお金の関係は、怖いね。
「まぁ、これから依頼をこなして、また資金を溜めて行く事にします」
「……でも、ある程度の依頼はあるんだけど、ヘルサルは平和であまり依頼が多くないのよねぇ」
「大体は、リクのおかげなんだが……それだと稼ぎにくいだろう?」
「それは確かに。ですが、私達は冒険者ですので、依頼をこなして着実に資金を溜めようかと……」
「ふむ……そうか……」
「ねぇ父さん?」
「ん、なんだモニカ?」
ルギネさんは、まっとうな冒険者らしく、依頼をしっかりこなす事で資金を溜めようとしているらしい。
真面目な事はいい事だね。
それはともかく、俺のおかげでヘルサルが平和で、依頼が少ないというのはどういう事なんだろう……?
俺、冒険者さん達の活動を邪魔してたりするのかな? 農場に結界を張って、マギアプソプションがあまり近寄って来ないようにはしたけれど……。
俺がマックスさんの言葉を気にしている間に、話が進み、今までお師匠さんがどういった事をするのか考え込んでいたモニカさんが、話に加わった。
何か考えがあるようだけど……?
というか、俺のおかげとかいう話はどこに……。
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